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声楽家のサモナーさんが異世界で謳歌します  作者: euch nicht
第一章 スグワルド王国
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第十話

 芸能ギルドへと向かった次の日、今日は何をしようかと考えていた。本来だったら去る予定だったが、芸能ギルドからの依頼で、他にあと4回は歌わないといけない。ちなみに、ギルドを出る前にギルマスに曲目を聞いたが、その場の雰囲気に合わせて歌っていいとのことで、楽に歌えそうだというのがわかった。ただし、歌う時間はかなり長くなりそうなので、レパートリーを増やすためにいろいろな楽譜を買った。


「そういえば、生産ギルドはまだ行ってないな……とはいえ、買い物でミスリルもオリハルコンもヒヒイロカネもアダマンタイトも買えてしまい、更には鍛冶の道具一式もショップで買えてしまうんだよな……ぶっちゃけ、行く意味がない。まぁ、何かの機会に使うかもしれないからいいや。一応傭兵ギルドにも行こうかな?でも、とりあえず、戦争になったらって話だったしいいや。暇とはいえ、あまり最近歌ってなかったから練習でもするか」


 思い立ったが吉日。楽譜を取り出し、歌いやすい音域バリトンで発声がてら歌い始めた。時間の感覚が無くなるくらい歌っていたことに、鐘の音が聞こえたことにより気づいた。そして、楽譜を閉じて仕舞い、お昼なので食堂へ向かおうとしたら、リリア姫がそこにはいた。それはもうキラキラしたお目々で。


「ヴィル様!今までこれほど素晴らしい歌を聞いたことはございませんわ!実は本日新貴族や重要な役職に就いている者たちで大々的に晩餐会を開くことになっているのですわ」


 ああ、このオチが読めた。


「本来ヴィル様にその晩餐会のお誘いをと思ってきましたが、ヴィル様!その晩餐会で歌っていただけないでしょうか!お願いします!」


 ほら、やっぱりそうきた。


「わかりました。では芸能ギルドに指名依頼を出しておいてください。後で芸能ギルドに伺います」


「それはちょうどよかったですわ。後で芸能ギルドへ使いを出す予定だったのです!こうしてはおれませんわ。姉さまや兄様、父様、母さまには内緒で行いましょう!サプライズですわ!」


 こうして、またあれよあれよと物事が俺を置いてけぼりしながら進んでいくのであった。


「あのー、すみません。ヴィルですけど……私宛に指名依頼来てませんか?」


 すると、前の受付の爺さんとは違う、受付嬢が「少々お待ち下さい」と言って奥へと消えた。そして、再度ギルドマスターとともに現れた。


「おお、本来は別なところに行って貰う予定だったのだが、王城から依頼がお主宛に来てしまっての。流石にそちらを優先せざるを得なくなってしまった。実を言うとな、この間のを1件目とカウントして、残り4箇所考えておったのじゃよ。それでな、申し訳ないのじゃが、王都では先日のを含め、6件回ってほしいが、構わないじゃろうか?」


「ええ、大丈夫ですよ。本来これが本業と言っても過言ではないので。逆に、増やしていただいても構いませんよ?私が滞在する間、仕事を持ってきていただいて構いません。ただ、私にも目的はあるので、早く出発する街、演奏をできない日、いろいろあると思いますが、可能な限り、やりましょうか?」


「おお、そう言ってくれると助かる。それでは本日は王城での演奏依頼をよろしく頼む。報奨は金貨1200枚じゃ。王城から支払われるので大きな硬貨になると思うが、そのへんは了承してくれ」


「ええ、構いませんよ」


「それでは、本日も昨日と同じ時間に向かってくだされ」


「いや、それには及ばないです。これでも一応王城に客として生活しているので」


「なんと!そうだったのですか!それでは安心ですな。よろしく頼むぞ」


「わかりました」


 こうして散策しながら王城に戻ろうとする。と、後ろから誰かにつけられているのに気づいた。どうするか迷った結果、倒してしまう方向にした。ぶっちゃけ、この程度の備考なら、そこまで相手に鳴らないだろうと思われる。いくらステータスを偽装していても、実際の数値での攻撃になってしまう。かなりの手加減をしないとまずいだろう。

 そんなことを考えながら、いろいろ露店を見るふりをして、路地裏へと入っていく。そして、どんどん奥へと進んでいく。しばらく進んで止まって振り返る。


「で、なんの御用ですか?」


 すると何も言わず、攻撃してくる。


「話は、最後まで、聞けよ!」


 投擲された暗器はすべて短剣で弾き、ステータスに任せたスピードで顔面にパンチしていく。全員の意識を刈ると同時に、近くに潜んでいた敵であろう人物が離れていく気配がする。とりあえず、索敵範囲にいる間は問題ないので、のした奴らを魔法で拘束していく。ついでに解毒も行う。これでどこかに毒物を仕込んでいたとしても自殺はできない。そうしてから、逃げたやつを追いかける。

 大通りに出ると、そいつは走るのをやめ、どこかへと向かい始めた。そして最終的にたどり着いたのはスラムだった。そして、その男が向かった先にいたのは……肉塊だった。


「あいつら、まだ懲りずに悪巧みか?」


 俺はため息をつきながら、どうするか考える。


「とりあえず、場所はわかったし、さっきの連中のところに戻って、連中を兵士に引き渡そう」


 先程の場所へ転移して、野郎どもを引きずって行く。大通りに出るといろいろと目立ったが、その御蔭で兵士の方も早く来てくれた。

 そして俺は、やっと王城へと向かって帰ったのだった。


「お待ちしておりました。ヴィル様」


 メイドさんの出迎えで、よくわからないところへ連れてこられ、着替えさせられた。以前着たタキシードではなく、なんかとても綺羅びやかな衣装だった。パリアッチに出てきそうな感じの衣装だ。


「よし、Si puoから歌おうかな」

「お待たせいたしました。それではご案内します」


 連れて行かれたのは俺の知らない部屋だった。部屋に入ると、一斉にしゃべるのを止めてこちらを見る。

 俺は中央まで歩いていき、演技がかったお辞儀をしたあと、一言言った。


「お集まりの皆さん。今から歌います曲は私の世界で歌われている歌劇のプロローグです!それでは御ゆるりとお聞きください!」


そして、演技をしながら歌い始めた。


『Si puo? Si puo? Signore! Signori! Scusatemi se da sol me presento. Io sono il Prorogo

Poiche in isecene anchor le antiche maschere mette l’autore, in parte ei vuol riprendere le vecchie usanze, e a voi di nuovo inviami

Ma non per dirvi come pria:《Le lacrime che noi versiam son false! Degli spasimi e de’nostri martir non allarmatevi》

No! No: L’autore ha cercarto invece pingevi uno squarcio di vita.

Egli ha per massima sol che l’artista e un uom

e che per gli uomini scrivere ei deve. Ed al vero ispiravasi.

Un nido di memorie in fondo a l’anima cantava un giorno, ed ei con vere lacrime scrisse, e i singhiozzi! il tempo gli battevano!

Dunque, vedrete amar si come s’amano gli esseri umani; vedete de l’odio i tristi frutti. Del dolor gli spasimi, urli di rabbia, udrete, e risa ciniche!

E voi, piuttosto che le nostre povede gabbane d’istrioni,le nostr’anime considerate, poiche siam uomini di carne e d’ossa, e che di quest’orfano mondo al pari di voi spriamo l’are!

Il concetto vi dissi Or ascoltate com’egli e svolto.

Andiam. Incominciate!』


 場を静寂が支配した。王家の方々を見ると全員が口をあんぐり開けている。


「いかがだったでしょうか?」


 と、俺が言うと、元王が立ち上がり、話す。


「ヴィルヘルム殿、素晴らしき歌唱、演技であった!未だかつてこれほどのものを見たことも聞いたことがない!」


 次に現王も立ち上がり、話し始めた。


「このような素晴らしい演奏をしていただけるとは思わなんだ!この歌声は世界の宝だ!ヴィルヘルム殿に惜しみない拍手を贈ろうではないか!」


 そして、拍手喝采を浴びる。俺はそれを片手をあげて、静止させる。


「皆さんにそのように思っていただき感謝の極みでございます。ですが、これはプロローグ、序章です。これからも歌は続きますので、ゆるりとお聞きください。それとこれは晩餐会の余興です。どうぞ、お食事をなさりながら、お楽しみください」


 とは言ったものの、この晩餐会では、ほとんど料理に手を付けず、皆歌に没頭していた。

 そして、その後ドイツリートを歌い、最後にセビリアのフィガロのアリアを歌うことにした。


「それでは最後にまたオペラの歌をお聞きいただきます」


『Tra ran la lera, Traran la Tra ran la lera, Tra ran la


Largo al factotum della citta, largo!

Tra ran la la ran la la ran la!

Presto a bottega, che l’alba e gia, presto!

Tra ran la la ran la la ran la!

Ah, che bel vivere, che bel piacere, che bel piacere

per un barbiere di qualita, di qualita!

Ah, bravo Figaro! Bravo bravissimo, bravo!

Tra ran la la ran la la ran la!

Fortunatissimo per verita, Fortunatissimo per verita.

Tra la la ran tra la la ran la la ran la la ran la la ran la la la


Pronto a far tutto, la notte e il giorno sempre d’intorno, in giro sta.

Miglior cuccagna per un barbiere, vita piu nobile, no, non si da.

Tra la la ran la la ran la la ran la la ran la la ran la la ran la la ran la!


Rasori e pettini, lancette e forbici, al mio commando tutto qui sta.

Lancette e forbici, rasori, pettini, al mio commando tutto qui sta.


V’e la risorsa, poi, del mestiere colla donetta col cavalier ecolla donetta tra la la lan la le ra, de col cavaliere, tra la lan la lan lan lan lan la la la la!

Ah, che bel viere, che bel piacere, che bel picere Per un barbiere di qualita, di qualita!


Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono, Donne, ragazzi, vecchi, fanciulle: Qua la parruca presto barba Qua la parucca Presto la barba Qua la sanguigna Presto il biglietto Tutti mi chiedono, tutti mi vogliono, tutti mi chiedono, tutti mi vogliono, Qua la parruca, presto la barba, Presto il biglietto, Ehi Figaro, Figaro, Figaro, Figaro, Figaro, Figaro, Figaro, Figaro, Ahime, ahime, Che furia, Ahime, Che folla! Uno alla vorta per carita! Per carita, per carita, uno alla vorta, uno alla vorta, uno alla vorta per carita!


Ehi Figaro! son qua. Ehi Figaro! son qua. Figaro! qua, Figaro! la, Figaro! qua, Figaro! la, Figaro! su, Figaro! giu, Figaro! su, Figaro! giu Pronto protissimo, son come un fulmine, sono il factotum della citta, della citta, della citta, della citta, della citta


Ah, brabo Figaro! Brabo, bravisimo; ah, bravo Figaro! Brabo bravisimo! a te fortuna, a te fortuna, a te fortuna non manchera Tra la la ran la la ran la la ran la la ran, a te fortuna, a te fortuna, a te fortuna non manchera Sono il factotum della cita, Sono il factotum della cita della cita, della cita, della cita!』


 会心の出来だった。会場にいた人々も、唖然とし、硬直したままだ。


「これにて余興の歌を終わらせていただきます。ありがとうございました」


 そう言うと、最初以上に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。


 その後お立ち台から降りると、執事の方が待っていて、リリア姫の隣に座らされた。そして、料理が出てくる。


「俺もいて良いのだろうか?」


 未だに硬直が解けず、解けてもこちらをずっと見ている。どうしたもんかなと思っていると、現王のグラードが声をかけてくれた。


「ヴィルヘルム殿、すごい歌声ではないか!なぜ今までこのような能力を隠しておったのだ!」


「いや、隠してたわけじゃないんですけどね……ただ、お聴かせする機会がなかったもので」


 するとリリア姫が得意げな顔をして言った。


「私がヴィル様にお願いして歌っていただいたのよ!芸能ギルドに指名依頼をしたのも準備をしたのも私ですのよ!」


 この言葉を皮切りにいろいろな人から挨拶が来た。元王様とその第2王妃、第3王妃、第二王子、第三王子、第一王女、第二王女、その他有力な貴族たちがこぞって挨拶に来た。


「人生で一番疲れたかもしれないな……とりあえず、芸能ギルドは夕方、夜だし、明日の昼間は少し鍛えておこう。神様にも言われているし……これ以上強くなってどうするんだろうってくらいだけど、神族には勝てない可能性もあるらしいからな。そうだな、レベル上げやその他諸々をやったらこの国を出発しよう。ああ、そういえば王様に今日襲われたこと伝えないと」


 再度王様のもとへと戻る。そして、報告をして自室へ戻る。


 最後の最後まで膿を出しきらないと。という訳で、この国を出発するのはもう少しあとになったのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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