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「ふん、話があるならさっさと話せ」
どうも、腐女子だ。
一番上の兄と執事のおじさまの視線に耐えきれなくなったのか、はたまた話を聞かない限り私が帰らない――兄に帰らせてもらえない――と思ったのか、父から話を促してきた。まあ言った瞬間私と目が合い互いに逸らすことになるのだが。
さて、父が話を聞く体勢になったところで問題がある。それは私には父と話すことなんて何もないということだ。兄に連れられて来る時も何の話かなんて聞かなかったし、そもそも父の部屋に入れるとも思っていなかったので特に重要視もしていなかった。なのにこの結果である。部屋に帰りたい。
必死に頭の中で話題を考えるが、こういう時に限って天気の話とか裏庭の赤い花のこととかしか出てこない。
そして悩んでいる私を見てニヤニヤしている一番上の兄は手助け何てしてくれそうもないし、執事のおじさまはまず何の話なのか知らないし、父はこちらを訝しげに見ているしで、外はクール中はホット並に混乱している。
「ほらアレク、あの誕生日プレゼントについて話すんだって言っていただろう?」
5分ほど考えたが思い付かず、一通りニヤニヤし終えたのだろう兄が紅茶を飲みながらそう言った。
はて、プレゼントなんて貰っただろうか……、産まれてから一度もそんなものを貰った記憶がないのだが。
それともショッキングな物すぎて忘れてしまっているのだろうか。父が鞭に打たれている写真なら貰ったことがあるが、多分それは兄達が勝手に撮って持ってきた物だと思うし、もしそれが父からの贈り物だったら私は今ここで父の顔面に写真を打ち込まなければ気がすまない。あんなものを実の息子に見せるなと言ってやりたい。お前のせいで兄達が性癖開花させたらどうするつもりだ。私への被害も少しは考えてくれ、頼むから。お願いします。
まず、写真がプレゼントだったら、ここにいる意味が無くなってくるのだが。私は罵倒をお届けしに来たのではないのだ。
私がプレゼントのことを思い出そうとしていると、父が話し出した。
「プレゼント……? 何のことだ、私はこいつに贈り物なんぞした覚えがないぞ」
「お父様、照れなくても良いんですよ。あの高級品をわざわざアレクの為に用意したのでしょう?」
高級品? 何のことだろう、あれか、今父と兄が飲んでいる紅茶のことか。さっき執事のおじさまも話してたもんな、そうかそうか、私は飲んでないし、飲めないんだけどね!
それにこの父が――いや、この家族が――わざわざ私の為に何かを用意するなんてあり得ないだろう。私の事が大嫌いなのだ、この一家は。
「……そもそもあれはアルフォンスの訓練用に買った物だ」
「でも、黒髪だって知った瞬間に取引を止めれば良かったじゃないですか」
「私が一度買うと決めたんだ。それを曲げるのは貴族として恥ずべき行為だ。……元々あれは私がアルフォンスに与えたものだ。そのアルフォンスがどうしようが私の知ったことではない」
「素直じゃないなぁお父様は」
「礼ならアルフォンスに言え、私はお前に贈り物などしない。今までもこれからもだ、わかったな」
「はい、……おとうさま」
こちらを見る父の瞳は、とても冷たかった。話は終わりだと言うかのように逸らされた目を、私は荒れる感情を抑えながらずっと見つめていた。
今話後書
視界がズレる、脳が警告する。何故かなんて分かりきっている。あの女が、女が何かするからだ。
殺される、惨たらしく斬りつけられる、終わりがすぐそこまで見えている。
ゴブリンは小さな脳みそで考えた、今逃げ出さなければいつ殺されるかわからないのだ。
はやく、うごけ、はやく、もう、だめ、からだ、なんで、こわい、たすけて……
哀れなゴブリン達は知らなかった。既に自分達が斬られた後だと。惨たらしく女騎士に殺された後なのだと。
知るのはあと、数瞬き――
お父様はツンデレなんでしょうね。
ツンデレドMお父様、おいしい。