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こんにちは、腐女子です。
父の部屋の扉の前に立っています。一番上の兄が何やらニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべているため、嫌な予感がします。
流石に変態ドM野郎の父でも、おやつの時間に鞭で打たれていたりはしないはずだ。……多分。打たれてたらどうしよう、マイナスのはずの好感度がもっと下がってしまいそうだ。
私の斜め前に立っている一番上の兄が、此方を横目で見てノックをした。扉が少しだけ開き、執事の人が顔を出す。
この執事さんは母とニャンニャンしていた執事さんとは別の人だ。父専用の執事さんの中で一番年を取っている、白髪混じりの青い髪をしたおじさまだ。紳士的なおじさまっていいよね。
一番上の兄の後ろに私がいたからか、一瞬驚いた顔をする執事のおじさま。すぐに表情を正すとにこやかな顔をして一番上の兄に話しかける。
「珍しいですね、アリストロ様がこの時間に旦那様を訪ねるなんて」
「アレクがお父様とどうしても話がしたいって言うから仕方なくね。今空いてる?」
「丁度お茶の準備をしていたところです」
そう言って執事のおじさまは中へ入れてくれた。
父の部屋には初めて入るが、広々とした空間に大きな家具たちは物語の中にいるように感じさせる。
まあ一見映画のセットの様なその空間も、父が真ん中にドーンと座っているだけでぶち壊れるのだが。凄いな父は、破壊力が桁違いだ。
ボーと父の部屋の家具たちと父を見比べていると、一番上の兄が話し出した。
「お父様、失礼します」
「アリストロ、何の用だ」
「お父様、アレクが話がしたいって言うから連れてきました」
「黒髪と話すことなんぞない」
父はそう言うと執事のおじさまに目を向けた。
執事のおじさまはにっこり笑うと私たちを父の前にある椅子まで案内したのだった。
なんでやという顔をした私と父。逆に笑みを深める一番上の兄と執事のおじさま。おいあんたら似た者同士か。どっちもドS受けか、おい。
「ほらアレク、そこに座って」
「え、いや、でも……」
「旦那様、今日は賑やかなお茶になりそうですね」
「お前は、勝手なことを……」
一瞬私と父の目が合い、お互いすぐに目を逸らすと一番上の兄を見た。その様子をおかしそうに見ている二人に苛立ちながらも、それを態度に出さないように頭の中で憂さ晴らしをする。執事とか大好物すぎるんだよなぁ……。ごちそうさまです。
ニヤニヤしているのを見られないように顔を伏せると、3つ目のティーカップが私の前に置かれた。シャンデリアなのか何なのか凄いゴージャスな照明に照らされ橙色を光らせているのは、私が勝手にオレンジと呼んでいる果物のジュースだ。
この世界にも紅茶はあり、父と一番上の兄の前にはそれが置かれているのだが、私は昔から紅茶が苦手なのでジュースを飲んでいる。まあ、普段飲んでいるのは水なのだが。
なんでも、庶民がジュース一つ買うのに半月分の給料が飛ぶらしく、庶民の貴方には水でも勿体ないくらいですわと性悪メイドさんに言われた。うるせいやい。
「あ、これ魔龍栽培の……?」
「はい、コレストミア地方の緑龍から採った物です」
「へぇ、高級品じゃん。アルにバレたら怒られそう」
私と父が睨み合っている――見つめ合っていると言うには双方穏やかではない心境なのだ――横では、執事のおじさまと一番上の兄が楽しそうに話していて、自分がいる意味が分からなくなってきたのだった。
お兄様、私帰ってもいいですか?
今話のあらすじ
ゴブリンたちは困惑していた。自分達が美味しく頂こうとしていた女が急に斬りかかってきたのだ。
綺麗な顔をした孕ませやすそうな身体の女はこちらを冷たい目で見つめると、手に持っていた細い剣を鞘に納め、こちらへと歩き出した。
執事っていいですよね
脳みそが固まりました。