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「アレク、お前がどれだけ強くなったか確かめてやる」
邪悪な顔と共にそう紡ぎ出された言葉に腹を立てる事も出来ず、二番目の兄が持ってきたお古木剣をただ握る。
兄も真剣ではなく私の物よりも少し長めの木剣を手に持っていて、一先ず安心している。多分きっと死ぬことはない、と思う。
いや、木剣って思ったよりも当たると痛いので死んだ方がマシと思えるぐらいに打ち込まれたらどうしようか。骨とか折られたらお前らと違って私はくっつくまで放置なんだぞそこら辺分かっているんだろうな。
まだ試合? 訓練? いや、虐めか? が開始していないにも関わらず負ける気満々の遠い目を二番目の兄やいつの間にか集まってきた兄の部下的な人たちに晒してしまった。
負けるのは分かりきっている。だって二番目の兄強いもん……全く歯が立たないことは今までの数年間の人生で理解しているつもりだ。数ヶ月間訓練紛いの事をしたって足元にも及ばないだろう。
っていうか兄と闘うために鍛えてないですし! 将来大きくなって此処を追い出された時の為だし!
目を瞑って頭を振る。取り乱した心を落ち着かせる為だ。
アレク、こんな理不尽なんて良くあることでしょう。確かに二番目の兄からの理不尽は久しぶりだが、その代わりに何故か昔の倍構ってくる一番目の兄の理不尽とそこまで変わらないんだから、大丈夫大丈夫。どっちも怪我をすることに変わりはない。
火傷か打ち身かの違いぐらいだ。
深呼吸をして身体を落ち着かせる。
息を吐くと同時に、瞑っていた目を開け、待ちくたびれたのか木剣を構えもせず此方をじぃっと見ている兄を私も見つめる。
「アレク、さっさとかかってこい」
あっ、こっちから掛かるんですね。
相も変わらず木剣を構えないまま、気だるそうに空いている右手をくいくいとする二番目の兄。手慣れた動作なのか無駄に様になっていて腹が立つ。これ、部下の人たちにやってたりするんだろうか。
木剣をぎゅっと握る。身体の正中線に沿って右手は添えるだけ、剣先は相手の喉元の延長線に。
振り上げるときは左腕で、手だけで上げたら手首が悲鳴を上げる。アレク知ってる、腱鞘炎みたいになる。腱鞘炎なったことないけど。
右腕はフラットに両手首は固定しない。柔らかく、相手の攻撃を逸らす時と相手に振り下げる一瞬だけ使う。
些細なこの動作を今回のこの苛めのような訓練の中でどれだけ意識し続けられるだろうか。
おじさまとのお遊び試合形式訓練では半分出来れば良い方だった。まだ身体に動作を馴れさせる段階だからとおじさまは笑って頭を撫でてくれた。
おじさま、おじさまに会いたい。グオリオおじさま、天使……私の天使……これが終わったらおじさまにたくさん撫でてもらおうそうしよう。
構えOK、おじさま補充OK。
さあ、こちらの準備はバッチリだ。
一本取ることだけ考えて、虐めを受けに、いざ。
今話後書
魔力……解放計画……?
女騎士は書類に書いてある文字の意味が良くわからなかった。
魔力の解放……、魔力とは魔の一族が持つ能力の事だ。それの解放? 確かに最近は良く魔力が使える人間も増えたが、それは魔の一族と交わったからだ。家庭を築き、子を成した時一緒に芽生えるものだ。
それを、解放する? どうやって、何の為に?
女騎士は困惑した。一瞬意識の隙間が出来たのだろう、先程向かっていた扉が開いたことに気づくことはなかった。
次回! アレクは二番目の兄ことアルに勝つことが出来るのか!?
次話投稿予定 12/15(番外編12/31 予定)




