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「ではアレク様、お勉強を始めます」


 少しだけ時間が過ぎ、お昼ちょっと前。

 こんにちは、腐女子だ。

 グオリオおじさまが執事のおじさまから勉強道具一式を貰ってきてくれたので、机の上に準備する。

 少し前に戻ってきた性悪メイドさんは、グオリオおじさま――と、言うよりかは黒髪――がいることに腹を立てた様で、昼食の準備をしてくると言い出ていった。

 性悪メイドさんとグオリオおじさまは少しだけ話をしていたが、多分相性は最悪だと思う。

 グオリオおじさまは私の前だから何とか我慢してたけど、性悪メイドさんはめちゃくちゃ怒鳴って、それこそ手を出そうとまでしていた。

 私は性悪メイドさんらしからぬ暴挙に驚いて固まってしまった。

 グオリオおじさまは簡単に避けて、デコピンまでしていたが。やっぱり苛立っていたのだろう、性悪メイドさんが出ていった時に大きい声で「クソッ」って言ってたし。

 その後速攻で土下座紛いの事をされて、この話は有耶無耶になってしまったのだが。

 うぅむ、どうしたものか。これからは一緒に生活していくんだし、どうにかしてほしい感はあるんだけど。でも、なぁ。そもそも、人間関係をそれこそ転生物の様にどうにか出来るなら、まず家族からどうにかしているんだよなぁ。

 はぁ、こんなことになるならグオリオおじさまにちゃんと説明しとくべきだった……。


 難しい事は先送りに限る。うん、今はお勉強をしよう。



「ではアレク様、お勉強を始めます。まず、アレク様にはどうしても覚えていただきたい物があります」

「覚えてほしい事ですか?」

「はい、これを覚えているだけでアレク様が大きくなった時になれる職業、つまり可能性が増えるのです」


 ごくり、唾を飲み込む。

 おじさまはキリッとした顔でこちらを見ると、溜めに溜めてからこう言ったのだ。


「……それは、文字です!」


 デデドンデンドン! 背後にはそう書かれているようだった。


「文字です、か?」

「そうです、文字を覚えればアレク様は何にでもなれる可能性が生まれます!」

「何にでもなれる、……可能性?」

「はい、今はまだ可能性としか伝えられません。しかし、アレク様がこれから文字を覚えて、私や教師の教えたことを書き留め、知識を広げれば何にでもなれる、と私は思っております」


 文字を覚えないと、筆記が必要な仕事には就けないし、本も読めない。少なくとも、司書や教師、あと商業系一般は無理らしい。

 となると、肉体労働が主になるが、黒髪が出来る肉体労働は少ないようだ。

 何でも肉体労働は黒髪以外の、それこそ性悪メイドさんみたいな赤髪の人で、貴族じゃなくても少しだけ魔力を持っている人が身体強化の魔法を使ってするのが基本なんだとか。

 建築作業場とかには赤髪や青髪のガタイのいい厳ついおじさん達がわんさかと、そりゃもうわんさかと作業をしているのだとか。

 作業効率は魔法を使った方が上がるから仕方がない、んだってさ。


「10歳になれば、義務教育が始まります。しかしそれから文字を覚えるのは遅すぎる。10歳になる年の二月に行うテストの点数で、入学出来る学校が決められてしまうのです。文字を覚えていない平民は最底辺の教育しか受けられず、結果読み書きが満足に出来ない卒業生まで出てしまう」


「剣や槍を扱えるなら、他の道が開かれています。しかし、私達、黒髪の平民は良くて下級兵士止まり。そこから上はどうしても魔力が必要になってくるのです」


「何をするにしても、魔力がない黒髪は他人(ヒト)よりも何歩も劣った存在になってしまう」


「しかし文字を覚えれば、その生まれながらに負ってしまったハンデを、他人(ヒト)との距離を、少しですが縮める事が出来るのです」


 グオリオおじさまは真剣な顔で言ったあと、今度はへにゃりと笑って続けた。


「アレク様が文字を覚えれば、旦那様の書庫を使っていいと言われております。きっと、たくさんの本が読めますよ。それでアレク様の好きなものもたくさん見付けましょう」

「……! はい!」


 大きく返事をしたあと、私は脳内のスケジュール帳に読書日を書き込んだ。

 漫画やBL本が無くても構わない。何かこう物語さえあれば私は自家発電できるので!

 自給自足の生活、ウェルカム!



今話後書

咄嗟に剣を取り、足首にある何かに向かって斬りつける。

ぼとり、と言う音と何かがシュルシュルと動く音が聞こえた。

斬った物を見ると、尻尾のような物がビタンビタンと水に上がった魚のように動いている。

これは……?


文字を覚えます。可能性は無限大です。

次話 10/31予定

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