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バッドエンドは突然に

「おお、軟弱と白衣じゃねえか」


 西の森に着くと森番さんが家の前で薪を割っていた。魔力機関の発達によってほとんど廃れようとしている文化の一つだ。森番さんはトレーニングだといって毎日欠かさず薪割りをしている。

 もちろん素手で。


「白衣が来るなんて珍しいじゃねえか。今日は何を聞きに来たんだ? あれか? また昔話か?」


 森番さんがいったん薪を割る手を止めてアルハにたずねる。


「今日は世界調査じゃないの。『神の宿る森』の近くで魔力が乱れてるのを知ってる? そこを調べに行くんだけど」


 森の奥のほうを指差してアルハが答える。指の先にはひときわ高い一本の木がある。それが「神の宿る森」の目印だ。この木は「神の一本松」と呼ばれている。本当に松なのかは遠すぎて誰も確認したことがない。


「あの木が多いあたりかぁ、あそこは最近乱れてるなあ」


 こともなげに森番さんは答える。森番さんは妙に勘のいいところがあるから、誰よりも早くこの事件のことに気づいていてもおかしくない。それともアルハの言うようになにかの改造の結果なのかもしれない。


「行ってみたことはある?」

「あの辺はろくな獣も獲れやしねえ。木が多すぎるからな。俺が見たのはあそこで景色が歪んでるってことだけだ。あそこは動きにくいからまともな神経したやつは行こうともしねえよ」


「景色が歪んでるって言ったけど、ありゃ懐かしい感じのする歪み方だ。もといた世界に似てる。危ないから行くんだったらそれなりの装備を持っていけよ」

「本当は付いていったほうが良いんだろうが、今俺が行くと空気を読んでないか?まあ若いの二人だけで行ってみろよ」


 森番さんに余計な気を使われたので、僕とアルハの二人だけで「神の宿る森」へ向かうことにした。

 助言に従って装備を整える。今日だけはアルハもいつもの白衣はやめで長袖長ズボンのがっしりとした服だ。あとはつたや木の枝を刈るためのナタ、遭難しそうになったときのための食料、それらを入れるためのリュックサックなどだ。食料以外大体アルハが作った。


 後忘れてはいけないのが魔力を散らせるための機材。アルハが家から持ってきた一辺10ミルくらいの白い箱の中に入っているらしい。当然のように僕が持たされることになった。


 魔力コンパス(マジックサーチャー)で位置を確かめながら進む。莫大な魔力の量だから、魔力コンパスもいやおうなく異変の場所に引き寄せられて迷うなんてことはありそうに無い。「神の宿る森」に着くまではあっという間だった。問題はそれからだ。


「これはすごい森ね」とアルハが言う。


 なぜこの森が「神の宿る森」と呼ばれているかというと、その原因は神がいるかどうかを確かめようがないところにある。年中草木が生い茂り、身動きも取れないような状況になっている。森番さんの言うとおり、こんなところに行こうとするのは、自殺志願者か僕とアルハくらいのものだ。


「悪いけど前に出て草を刈ってくれる? 私の魔法もそう乱発するわけにはいかないから。」


 アルハに言われて僕は目の前の草や木の枝をひたすら叩き折る作業を始める。森番さんならこれくらいの障害物なら難なく突き抜けて通れるだろうけど、森番さんはむやみに植物を破壊することをあまり好まない。


 森を歩くこと数時間後

「そろそろかしらね」とアルハに言われて上を見ると、一本松が見上げるような近さにまで迫っていた。

 いや、これは絶対に松じゃない。普段見ているのとは明らかに違う。じゃあ何なのかといわれると僕もアルハも植物の専門家ではないので良く分からないけど。


 そしてその木の根元に空間の歪み。半径一万ミルくらいが渦を巻く様に揺らいでいる。


「これは放置しておけないわね。シエラ、もう少し近づける?」


 アルハが僕の背中を押して言う。言われなくてもそうするつもりだ。これが最後だと思うと枝を切る手にも力がこもる。

 このときの僕は自分がすごく危険なことをしているのだという自覚はなかった。


 何事においても破滅はあまりに唐突に訪れる。

 僕が振り上げたナタがふとした弾みで


             宙を     舞って


そこで僕の意識は途切れる。


 最後に見た景色は、宙を舞う揺らぎにぶつかろうとするナタ、光、悲鳴を上げるアルハ。

 そして僕らの世界を犠牲にして新しい何かが始まろうとする、そんな予感だった。

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