プロローグもしくは僕の生まれた世界について
ああ、死んだ、と思ったら何かの間違いで異世界に生まれ変わり何かの間違いで強力な魔法なんか覚えちゃったりして、元の世界の知識を生かして一躍英雄になる、というのはどうやら僕の居るこの村ではごく一般的なことらしい。
この村の人口は今では数十人ほどという、小さな集落なのだけれど、五十年前だかに起きた『神魔転生』とか呼ばれる事件からというものこの村では昔別の世界に居た人とか魔物とか、元科学者に小説家にひきこもりが、この村の村人から生まれてくる。
もちろん言葉が通じるような人もいて、元の世界の知識を生かして道具やらテレポートゲートを作って村を発展させている。だけど大抵の子供は思考らしい思考も持たないような獣その他の生まれ変わりで、生まれてくるなり親に噛み付いてきたりするようなことも多いのがこの村の現状だ。
一度ライフゲーム世界からグライダーが生まれ変わってきた時なんかは、生まれるなり元の世界の習性に従って斜め上へと飛んでいってしまって、今もきっとこの世界のどこかをさまよっているんだと思う。
まともな子供が生まれないせいで村の人口は減るばかりだけど、この世界より発展した世界の知識とか魔法とかのおかげで昔よりずいぶんくらしは楽になったと大人たちは言う。でも僕たち子供はこの村の寿命がもう長くないことを知っている。だって僕と同じくらいの子供はもう、三人くらいしか居ないのだから。
『神魔転生』事件のことについては良く分かっていないことのほうが多い。一説には天界での生存競争に敗れた神様が、死んだ後の生まれ変わり先としてこの村を選んだのだと言われている。
この説だってそんなしっかりとした理由があるわけではない。五十年前に生まれた一人の子供が、生まれるとすぐに立ち上がって、二歩進んで「天上天下唯我独尊」とつぶやくやいなや空間を切り裂いて現れた金色の雲に乗って空に飛んでいったというから、なんとなく皆がそう思っているというだけだ。
この日をきっかけに異世界の生き物が生まれてくるようになって、みんな迷惑している。