廃嫡王子の婚姻譚(短編)
下手の横好きですが、宜しければご一読ください。
「 ――あぁ……、懐かしの我が故郷……」
この場所はとある王国の港湾都市、。
事情による過酷な旅をすること3年、ようやくの帰郷である。
俺の名はレオナルド、歳は今年で十八になる。
外見は、赤毛で中肉中背、眠そうな目だとよく言われる。
隣に立つ女性、名前はルティナ。……俺の嫁、そのままの意味だ。
何時になくテンションが高く、落ち着きがない俺を見て苦笑している。
「久しぶりの故郷なのだから物思いに耽るのは分かるし
私だってウキウキしている。けれどね?依頼主も首を長くして待っているし
貴方の母君に顔を見せに行かねばならないだろう?」
「 そりゃ分かってるけどさ……
肩の荷が降りたってのと、何ヶ月ぶりかの陸地だろ? なにより……」
「 まあ、そうだけどね……旅立つ前はあどけなくて可愛かった君が、
今じゃ旦那様だものね」
俺より強烈な惚気で心臓を砕きにかかるとは
流石俺の嫁だと丸一日褒めちぎりたい。
……そこら中の男女から視線を独り占めにしてるな
旅先でもそうだったが、やっぱり凄いものだ
人の嫁に対して色目を使うなと叫びたいのを飲み込み、周囲の様子を探る。
……密偵の類は確認できず、どうやら穏便に帰宅することができそうだな
「 どうやら幻術や魔術の類の心配もないようだね、陛下の杞憂だったか
……私の姿を確認して退いたか、いずれにせよ、目的地が王都なのは
変わらないし、何が出てきても押し通る、そうだろう?」
この人は俺の武術全般、並びに魔術の師であり
年齢は少なくとも俺よりは年上であるが物凄く無邪気で無防備なところがある。
こんな風に無邪気に笑顔を見せたりすると
色気に当てられる哀れな子羊を増やすというのに……
だがそれがいい。
美人を褒める文句は古今東西数あれど、我が最愛のそれとなると蜂蜜酒に
に糖蜜をブッ混むようなことになりかねないと前置きして始めさせて頂く。
輝く銀色の腰まである長髪をストレートに流し、女性としては長身で
薄褐色の肌に色気過剰積載なグラマラスでデンジャラスな肉体、
紅い虹彩と黒い強膜が妖しく輝く瞳の総じて蠱惑的な美貌。
更に悪魔的な翼と角、龍のような尻尾まである、普段は収納しているが。
見た目は魔王、中身は天使ってところか。
なんかもう見ているだけで幸せになってきた。今なら空だって飛べる気がする。
声を大にして言いたい俺の妻になってくれる女性は最高だぜ!!異論は認めない!!
久しぶりの帰郷というのもあるが、俺のテンションが可笑しいと思う。
自分でもそうなのだから周囲は……。
しかしご勘弁願いたい、今日は何回目かの人生最高の日なのだ。
三年掛かった難題を解決し、男としてのケジメをつけることが出来たのである。
王都へはチャーターしておいた馬車を使う予定だが
準備の方で多少おしている。
最近導入された新技術を試用したものだそうであるが、そこら辺の
事情について、俺達はそれなりに関わっている。
……お詫びの品なんだよなぁ。何回か死に掛けた内の……何回目だったか?
――俺は、今までの旅を思い返していた……
☆☆☆☆●☆☆☆☆●☆☆☆☆●☆☆☆☆●
突然だが、俺の身の上話から始めさせてもらおう
実は俺はとある王国の王子様なのだ! ……元がつくけどな。
事の発端は俺が件の旅に出る前まで遡る。
俺の故郷は王政を敷いている王国なのだが今の国王の前
に一度打ち倒されている。
現国王は先王の実子どころかかろうじて継承権が持っているぐらいの王族くずれであったそうで
北方の辺境のとある放浪部族に身を寄せていたとされている。
それ故に旧王都の焼き討ちによる王族の集団処刑に巻き込まれることもなかったそうだ。
辺境にて潜伏すること数年、侠客のようなことをしていたらしい。
そして王都近辺から逃れてきた貴族や騎士たちを保護していたところ
なし崩し的に私軍の旗頭に祭り上げられたとか。
そこからは降りかかる火の粉は払っているうちに
10年と経たずに王都奪還と王家復興を成し遂げ
現在の我が国を創り上げた英雄であるというのが一般的な評価だろう。
因みに旗揚げ以前、放浪時代から支えてくれていた辺境伯の娘を
妻に迎え王都へ帰還した後、体制を調える際に
南方にて隣国の抑えとなっていた知己である公爵の娘も妻にしている。。
そして戦いの中でもしっかりと子宝も拵えているのだから恐ろしい話である。
その時の子が、俺ということになる。
因みに義母様も三年後に弟のエンゾを産んでいる。
国内の動乱が一段落つき、論功行賞が終わるころ、俺が七歳になった時に大事件が起こった。
母上と義母様は親友同士で実家も権力争いからは一歩引いた立ち位置にあったが
現在は両家とも王家に連なる者となり、重要なポストを担うものが増えた。
無数にいる親類、派閥の貴族の中で野心の秘めたものがいないわけはなく
そうした連中が他国とつながりがあると……
あの年、年始から母上は体調を崩しており
戦地への慰労などでの疲労が蓄積したためのものであると医者は診断し
後宮での静養を選択したのだった。
それから数ヶ月、初夏に差し掛かり
俺の八回目の誕生日近くになっても母上の体調は依然芳しくなかった。
それでも王都の医者の診断では命にかかわるもの
ではないとのことだったが……。
子供は親に祝われることを楽しみに待つもので、俺も当然そうだった。
母上の身体のことは子供ながらに感づいていたと思うのが
子供だからこそ割り切ることができず、俺は不貞腐れていた。
そしてあの時、人気のない中庭に一人で入った、
困らせてみんなに探してほしかったのだ。
だが俺を探していたのは、良からぬ輩だったのだ。
執事やメイドも何人か仲間と入れ替えて
伝言ゲームのように俺を誘導し、死角に入り込んだ瞬間に捕まったのを覚えている。
気がついたときには身体の自由を薬と魔術の類で奪われていた。
しかも猿轡と縄のおまけ付きだ。
当時の俺は剣の訓練を始めて間もなく、動けていたとしても
自力での脱出は難しかっただろうが。
後に聞いた話だが、追跡部隊もすぐに編成され、
首謀者の目星もついていて、国境線の封鎖も万全であったために
奴らは国を越えて逃げることを早々に諦め、南部の森林地帯へと進路を
とったのだ。
右往左往しながら、騎士団の追手を逃れていたようだが
ついに運も尽きたのだった。
あの人が来たのだ。
襲来の前、奴らは馬車を森の中に隠して
これからどうするかの算段を付けようとしていた。
首謀者はもうお縄につき、支払われるはずの報酬は望めず
且つ自分たちは良くて死罪……
ならば命が優先となるわけで、文字通りお荷物となる俺は
口封じと憂さ晴らしに殺される、と
朦朧とする意識の中奴らが話しているのを聞いた。
やがて一人の男が幌の中に入ってきて、その手には刃物……
あぁ、もうダメだ、と思った刹那
突然馬車の外に閃光が走り、同時に野太い悲鳴と打撃音が響き渡り
一瞬の後に不気味なほど静かになった。
すると、翼がはためく音が数度微かにした後
場違いなほど綺麗な声が聞こえたのだ。
「 ……思いの外、遠くまで逃げられたものだね。だが仲間は全滅した。
足もなくなり私はお前を捕捉している。この意味が分かるかい?
……抵抗すれば死ぬ、話は霊体に聞けばそれで済んでしまうからね。」
言葉の間にも馬車の幌越しに、軟体生物の足のような
触手の影が無数に透けて見えていた。
周囲の賊はあれにやられたのか定かではないが、物音は消え
不気味なほどの静寂があたりを包んでいた。
そいつの頭は存外馬鹿ではなかったようで、俺を抱えるとを刃物を突き付けて
盾にしながら幌の外へと飛び出した。
人質にすることで襲撃者から逃れようと考えたようだった。
が、これがかの女の逆鱗に触れたようであった。
『ごめんね』という声が頭に響くと俺の目が突然眩み、何も聞こえなくなり……
気づいた時は女の顔が目の前にあった。
余りに人間離れした異貌にして美貌
母上を始めとする美女が隅に追いやられるような圧倒的な美。
今まで大立ち回りをしていたのにも関わらず返り血一つ浴びておらず
場違いな色っぽいローブ・デ・コルデに身を包んでいた。
これが俺とお師さん、ルティナとの出会いである。
ぼーっと彼女の姿を見ていたのだが
あの人が俺の眼に視線を合わせると、視界がぼやけて……
不思議な感覚だったが、不快感はなかったと思う。
「 遅くなってごめんなさい、怖かったでしょう?
君の家族に頼まれて助けに来たんだ。」
「 おねえさん、だれ? 僕は……なんでこんなところにいるの? 母上は……」
大丈夫なの?と言い終える前に彼女は俺を抱きしめた
俺は恥ずかしいことに失禁してしまっていて、汚くて……酷い有様だった……
彼女は気づかないフリをしてくれたんだと思う、そういう人だからな。
ローブの形状的に豊満な胸を直接押し当てられた俺は突然のことに
戸惑いを覚えたと思う、しかし助かったことによる
安堵やら自分自身の情けなさやらでぐちゃぐちゃで……
とにかくそのぬくもりに身を任せ心の底から泣いたのだった。
「 君のお母さんなら大丈夫、御家族と一緒に君の帰りを待っているよ……
お城までの帰り道は私が責任を持って送るから、今はお眠り……」
そこまでははっきり聞こえていたのだがもう一度
彼女の紅い瞳を見ると、強烈な眠気が襲ってきた。
やがて俺はウトウトと眠りに落ちてしまった。
完全に眠る前に「 よく頑張ったね。」という優しい声が聞こえた気がした……。
目を覚ますと少しツンとした刺激臭がして、薄緑色の天井が目に写った。
そこは近隣の王国軍駐屯地にある医務室のベッドの上だった。
体を起こして周りを見ると、直ぐに老齢の医者がやって来た。
彼は軽く会釈し、診察を始めた……
今だから状況を冷静に思いだせるが
当時は突然の状況の急変にとにかく知り合いの顔が見るはずだと思う。。
だけど何故だがあの人の行方を聞いたのだ
我ながら惚れっぽいというか……
医者の爺さんは診察が済んでからです、と一旦断ったがすぐに済ませると
彼女は事情聴取を受けていると教えてくれた。
俺は憤った。
冗談じゃない!なんであんなに優しいお姉さんが疑われるんだ!!、と。
冷静に考えると、犯人は前後不覚なので彼女にしか
話を聞けないんだからしょうがない話である。
俺が大人の事情を加味できるようになるのは少なくとも五年後なのだ。
因みに後年彼女本人から聞いた話では誘拐犯実行グループは7人で
当初、姿を消して念話で警告を送ったが無謀にも戦闘態勢をとり
俺を人質にしようとしたので殲滅したらしい、奇襲の必要もなかったとか。
子供を殺そうとしたことで怒りを全力で買い、結果剣や触手で蹂躙されたのだ。
周囲の木々に引火することや、威力の関係上魔術の使用は控えたそうだが……。
後に証拠品の馬車などを回収した騎士は嘔吐するものが続出した。
……彼女は俺に魔眼で催眠を掛けたのだが、理由はその凄惨な現場だったのだ。
病室での話に戻る。俺は必死で医者に頼み込んだ。
彼女に会わせてくれるようにだ。
快諾してくれたのだが、なにか生暖かい目をしていた……
それもそのはずこの医者は実は昔父上が若い頃に世話になった人で
実は幼いころ、俺も会ったことがあるらしい。
そんな子供のマセた姿を見るのが可笑しくて、うれしかったのかもしれない
俺の方はこの人の事を忘れてたけど。
それから少しの後ノックがあり、老人が応対すると彼女が姿を見せた。
服装はそのままだが少し表情が曇っていた。
……酷い扱いを受けたのかと心配して聞いてみると苦笑して頬を掻くと
軽く息を吐いて話しだした
「 ……ありがとう、君は優しい子だね。私はこの通りの姿だろう?
魔物と勘違いされることもあるぐらいだからね……
警戒されることは慣れているから大丈夫だよ。」
この時の彼女は正直少し腹が立っていたのだと思う。
あの人は、愚痴や文句は自分の中で消化するのだが、この時は違っていた。
俺は彼女のことをなんでも知りたかったし、親しみを持ててよかったのかなと思う。
頬を膨らませてるのが可愛かったし。
「 そういえば名乗っていなかったね、失礼。 私の名はルティナ、姓はない。
ご覧の通り傭兵をしていてね、特に所属ないから冒険者と変わらないかな」
子供ながらにそんな格好の傭兵がいるのか?と思った。
……ちょっと無理があるだろうと。
そして俺もこの時自己紹介をした。身分も改めて明かすことになったが
彼女の態度が変わらなかったのはうれしかったなぁ……。
それから他愛のない話をして、お姉さんの翼や角を見せてもらったり
触らせてもらったりしていると、あっという間に就寝時間になってしまった
その為に彼女は退出するつもりだったのだが……
恥ずかしい話、一人で寝られない子供だった俺は
心細くて彼女の服の袖を思わず摘んでしまい、俯いていた。
すると……
「 そうか……うん、分かった。 私で良ければ一緒に寝るかい? 」
今思うと凄いお強請りをしたものだと思う。子供とはいえ
あんな美人と知り合って間もなく添い寝など……。
着替えなどを済ませ、ベッドで添い寝をしてくれたのだが
目が冴えてしまっていた俺を見かねたのか彼女は子守唄を歌ったのだ。
聞き覚えはなかったけれど、不思議と懐かしい気持ちになる、そんな歌を。
その歌を聞くと直ぐにまぶたが重くなり程なく眠ったのだと思う。
……少なくとも悪夢は見なかったと思う、酷い目にがあったというのに。
数日その駐屯地に滞在し、王都に帰還することになった。
数人の騎士とともにルティナも護衛に加わり、王都への帰路についた。
馬車の席は隣にしてもらい、彼女が外を随伴する時以外は
風景の中に見えた、気になったものについて質問したりして過ごしたのだった。
騎士たちは始めは彼女に警戒心を抱いていたらしく
気を許していないのが見て取れたが
彼女の手料理や、赤子の手を捻るかのごとく魔獣を屠る腕前
そして何よりその美貌にほだされたようであった。
問題は起きずに王都に到着したのだが
同時に俺は城へと連れて行かれてしまい
お姉さんとはそれっきりで、別れも言えなかった。
一人で勝手に城に滞在するものだと思っていた
俺はみっともないことに泣きわめいて
弟や母上たちに散々迷惑をかけてしまったのだ……
この時のことはしばらくいじられたなぁ……。
それからの数ヶ月は……事件の後遺症なのか
人と接触するのが怖くて部屋に閉じこもっていた。
一方母上の病状はというと、俺が誘拐されてから帰還までの間に快復したらしい。
詳しくは聞いていないが、使うつもりがないものを使ったとかなんとか。
それから母上はほとんどの時間で一緒にいてくれた。
弟も稽古ごとの合間を縫って遊びに来てくれたので寂しくはなかった。
食事も余り喉を通らず、夜は夢に魘されて眠れず、正直参っていたのだろう。
事件から一年後、丁度9歳の誕生日ぐらいの頃に父上が帰還したが、俺はまだ塞ぎ込んでいた。
父上は俺の様子を母上や義母様から聞かされていたらしく、とある贈り物を準備していたのだった。
王の私室に呼ばれ、気乗りしないながらも向かい、扉を開けると
父上と一緒に見覚えのある人を見つけたのだった。
そこにいたのは夢にまで見て、焦がれていたあの女性だったので
思わず抱きついてしまったっけ……。
父上は元々彼女を俺の教育係兼近衛騎士として雇うつもりだったらしいのだが
あの事件で少し予定が変わったらしい。事が起こる前に
容疑者の中から首謀者一味を見つけそれらのみを
誅殺するのに彼女の魔眼の力を借りるというのが当初の作戦であったらしい。
だが奴らの暴発は実行よりもずっと速く、急遽事件の収拾を依頼したということだった。
……ちなみに首謀者は俺の母上の叔父であったのだ。
このとこは後々に再び大事件が起こる火種になる。
以前から勇名を馳せた傭兵であったお師さんだが、その異貌もあって
まともに仕事が得られないこともしばしばで
それ故各地を転々としていたのだった。
それを数々の戦や魔獣討伐の勲功を聞きつけた父上が
誘拐事件より以前から目をつけていたのだ。
貴族出身の騎士など他人種への偏見が強い傾向にある連中は
見た目が変わっている彼女に敵意の類を向け
決闘を申し込み勝って追い出そうとする馬鹿も最初期はいた。
王族の前でそれはもう無残に敗北して自分の方が更迭されかけていたが
他ならぬお師さんに助け舟を出されてしまい、大恥をかいていた。
まあ、いい方向に性格が豹変したから良かったんだろうな。
あ、そうそう俺はルティナのことを「お師さん」と呼ぶようになったのは
この頃だ。
師匠とか先生だと本人がしっくりこないらしいので
そう呼ぶように二人で決めたのだった。
お師さんは流石に城内であのローブは刺激が色んな意味でまずいとのことで
特注の紅い騎士服を着用し、得物は大剣ではなく騎士剣
貴族連中を不用意に刺激しないために
本人の判断で翼などは収納していることにしたらしい。
瞳の色はそのままだったが……まあ綺麗だしいいだろう。
古い考えの連中を刺激しないためとというのと
単純に服が破けるのがもったいないからだとか。
お師さんとの修行及び勉学は序盤数週間は基礎体力づくりに
サバイバル知識の学習や基礎魔法の訓練等であった。
俺も不思議だった、彼女に教わるのが楽しかったので
学習内容が微妙にカリキュラムから外れていることはどうでも良かった。
一部は魔眼で幻覚を見せて疑似体験させてもらったしな。
数週間後、各種基礎魔法の瞬間発動が可能になり、山での食料の調達方法を習得
更に体に気《プラーナ》を溜める初級気功術と
初歩の体術などを学び終わったところで土台作りは済んだと褒められ
明朝城の修練場に完全装備で集合するように指示された。
俺は剣の修練の開始かな?と思い、翌朝そこで待っていたのだが
「 陛下から外泊の許可はもらっておりますので
これからの修練は北部の高原地帯で行います。
旅の支度と、現地での宿泊などは私の責任にて
お世話いたしますのでご安心を。」
天使の笑みで逃げ道はないと申したか。
……彼女の口調だが、流石に正式採用された近衛騎士なので敬語ぐらいは
使うと本人が申し入れたのだ、俺は以前のままでも良かったのだが。
旅の件だが……まあ暗部の人が監視と現地周辺の警戒に当たっていたので
言うほど無茶ではなかったのだ。
まあ関係者の会議は荒れたそうだが詳細はよく知らん。
……王と王妃の賛成と、弟が「兄上なら大丈夫でしょう」と太鼓判を押したのが
決定打となった。うちの弟は怖いぐらい優秀なのだ。
~王子と近衛騎士の修行の旅with暗部の人数ヶ月ぐらいの旅~
として正式な計画として採用されたそうだ。
そういえば先述の騎士との決闘やらでお師さんが
手加減しているのは明らかであったのだが
俺は初めてその一端を目撃することになる。
端的にいうと『最強』。
何処からともなく大剣を取り出し、振るえば海を断ち、山を砕く
距離を離せば天を穿つような魔術に龍が如きブレスまで……
加えて攻防万能な触手を召喚し、自在に操るのだ。ついでに魔眼持ち。
要するに器用全能というやつであろう。
☆☆☆
修行の日々は厳しくも楽しい修業の日々だったなぁ……
ある時は世界で一番高い山に登り、またある時は
絶海の孤島で追い掛け回され……
死にそうになって助けられ……実際死に掛け……
本当に危険な時は、迅速に助けてくれたのだが……
色々あったが、俺はみるみるうちに
立派な冒険者への道を駆け上っていったのだ。
剣術についてだけは、お師さんは自らが使う自己流のものではなく
騎士団の正式剣術を使うように厳命した。……あれは俺には無理だわな。
しかし魔獣との闘いに対する心構えや
戦い全般の方法論はお師さん直伝のもので、一生の宝物となった。
王室関係者とは思えないハードロックな修行で
日に日にとボロボロになっていく王子の姿に時の大臣を含む関係者から
止めたほうがとの声が多数挙がったが、国王夫妻の鶴の一声で継続された。
……塞ぎ込んでいた俺に対して特に心を痛めていたのは
両親(と弟)だったと思う、それゆえ元気になったことが
うれしかったんだろうが、やりすぎであったと思うぞ。
お師さんがいるとはいえ死んでたらどうすんだ。
そんなこんなで2年ぐらい経った頃に俺の婚約話が持ち上がった。
当時は周辺諸国との関係も安定し王家との関係強化に乗り出したい重臣が
大勢居たのだ。
父上は他国の影響は嫌っていたが、婚約話には乗り気だった。
肝心の俺自身は全く興味がなく
お師さんとの修行とか冒険がお見合いで中断されるのが嫌だったのだ。
見かねたお師さんの説得を受けたのだが
「 殿下、縁談の一つもこない私が言うのもなんですが
食わず嫌いは良くないと思いますよ?
貴方はまだお若いからわからないしれませんが
そういう経験のない私は、羨ましいくらいなのですよ?」
お師さんはこの時こういったのだが、正直説得力がなかったな。
なんせ絶世の美女だし、見惚れている騎士もよく見ていたわけで。
俺はこの時は色恋に対して興味がなかったので、どうだったか……
ああ、軽い気持ちでこういったのだったな。
「 結婚かぁ……よく分からないけどどうせならお師さんとがいいかなぁ…… 」
当時の俺は良くも悪くも子供で、色恋沙汰には耐性も興味もなかったので
とくに何も考えないで恥ずかしい台詞を吐いてしまったのだ。
お師さんは収納した翼が飛び出しそうになっていたな、ぷるぷると震えていた。
「 な、何故そう御思いになられたのです?
私はその、この異貌ですし、殿下とは歳も大分離れておりますし
大体爵位もありませんし礼儀作法もおっかなびっくりで
ダンスも運動能力任せで雑ですし……お付き合いもしてないのに
結婚とか難易度が高すぎると言いましょうかどうしましょうか……」
こんな感じで混乱していた。いつも冷静なお師さんの貴重なシーンである。
だがすぐに己を取り戻し、こちらに向き直ると柔らかいほほ笑みを浮かべ、俺を諭したのだった。
「 フフ……ありがたいことですが、同時に恐れ多いですね……。
でもね、殿下? 殿下はまだ理解らないかもしれないことですが
私では少なくとも王家に嫁ぐことは出来ないのです。……残念ですが。」
は? と思った。あの父上がそんな小さい男ではないと子供ながらに分かっていたのだ
なので、彼女の手を取ると私室から父上の部屋まで一目散に駆け出した。
お師さんならば簡単に振り払ったり、俺を止めることは可能だったはずなのだがなぜだか彼女はそうしなかった。
その時の時刻は既に夜の八時過ぎで
父上は後宮の母上や義母様のところにいるはずであった
何故知ってたのかは母上に聞いたからと答えておく。 最奥の寝室に向かうと、扉をぶち開けた。
当時は怖いもの知らずで物知らずだったので
大人のアレやソレなんて気にもとめなかったのだ。
父上はまるで龍にでも出会ったかのような顔をしていて、硬直していた。
……反面母上と義母様はクールに微笑んでいたなぁ。
よく分からんので気にせずに俺は話を切り出した。
両親は、(この時母上も部屋に着た) 三者三様の表情をしていたが
直ぐに三人共いい笑顔でルティナを嫁にしたいのか!!とのたまったのだ。
まあ間違っちゃいなかった訳で、子供の純真さからうん、と答えてしまった。
「 よし、漢なら惚れた女は腕っ節と度胸で手に入れるもんだ……
レオ、お前の手に入れたい女は
想像するよりずっと大きな困難をくぐり抜けなきゃならん
お前にその覚悟はあるか?」
父上は普段の緩みを感じさせない真剣な面持ちで言うのだ、俺は勿論頷いた。
俺の合意を確認した父上はお師さんに向かって話すように促した。
「 既に陛下と王妃様、奥方様もご存知であります。
……主君にお伝えしないというのは不義理、ですね。」
彼女はそこで言葉を切ると、皆目して息を軽く吐き静かに話し始めた。
お師さんの話をまとめると、傭兵時代にとある呪術師の捕縛任務に
同行した際依頼人である人物を庇い術を受けたそうだ。
だが死の呪詛だったはずのソレは何の効果も発揮せず
予後の検査でも反応がない為依頼者の好意でエルフの高名な魔術師による精密検査を受けた所
魂の深部に『子絶』の呪いが確認されたとのことだった。
子供を残せなくなるという胸糞の悪い呪いである
だが、死の呪詛は素で効果がなく、『子絶』の呪いに関しては
術者もいつ掛けられたかも……何もかも不明であった。
解呪の方法はまるで分からず、解けないものとして半ば諦めて受け入れるつもりだったという。
話を聞き終えた俺は、お師さんと約束をした。
……内容を聞いた彼女は驚いていたが、泣いて喜んでくれたのだ。
俺の生きる目標というか、夢ってやつはこの時に決定されたんだと思う。
☆☆☆
その翌日、俺はエンゾの部屋を訪ねた。
お師さんは部屋の前で警護についてもらい
部屋には俺と弟の二人きりだ。
前夜に聞いた件についての答えとお師さんとの約束についての
相談と意見を求めてのことだった。
我が弟は当時齢八歳にして自分を懐柔しようとした
親戚筋の貴族を躊躇なく告発したり
直轄地の統治に携わったりする規格外の天才である。
なので俺が考える方法の穴を上手いこと埋める算段を立ててくれると思ったのだ。
エンゾはまるで俺が話す内容が事前に分かっていたように
スラスラと答え、知恵を授け、激励をくれたのだった。
曰く、「 兄上はどう贔屓目に見ても王には不向きですので」
「 継承争いが起きるリスク回避と兄上の保身の為には最適解かと」 とのことだ
……そう、何をかくそう俺は弟に自分が廃嫡されるために動くことを伝え
起こりうるであろう諸問題についてのアドバイスを求めたのだった。
まず、母上の実家筋、北方の貴族たちについては一定の権勢を保証することは
容易であり、大半のものは納得してくれるであろうが
王妃が廃妃された際に暴発を起こされると不味いので事前に経緯の説明は必須
その役目は元締めである祖父が適任だろうということ。
次に、廃妃が決定し母上が王都を去ることが決定した際に
必ず俺自身で顔が利く貴族や官僚を集め
廃嫡されるために動いてくれるように頼むこと。
これらをなるべく速やかにに済ませれば
自分が王になる前の地盤固めに余裕ができていいですね、とのこと
母上達への説明はいいのかと聞いたのだが、必要ありませんと断言していた。
この意味は後で痛いほど理解することになった。
自分が思うよりもずっと家族は俺を理解してくれていたのだ。
☆☆☆
王宮内での陰謀などは講談や小説に限らず、ありふれたものだ。
例えば誘拐事件とか。
月日は流れ、俺は十三歳、弟は十歳となり、周囲は王権を巡ってきな臭く
なりつつあった。
しかし俺たち家族に関してはどこ吹く風でまったりとしたものだったな。
しかし、ある貴族の子女が計画している策略を
事前に善意の協力者からリークされていて
その内容の杜撰さと無謀さから母上は一計を案じていた。
……俺以外、父上や義母と弟は内容を知っていたので
後々ひどく驚くことになるのだったが。
事件は父上が西部の国境周辺で起きた魔獣の氾濫と
それに便乗した隣国の火事場泥棒の鎮圧のために出馬したときに起こった。
俺やお師さんも同行したが不在だったのでかなり不安だった。
母上や義母様が住む後宮は男子禁制
女子も限られたものしか入れず、魔術的な結界と物理的な鉄壁の防護が
なされているのだが、賊は令嬢で正式にメイドとして採用されていた人物であった。
……親の都合で使われた被害者でもあったのだ。
奴らの計画としては令嬢を潜り込ませた後
何故か持ち込めた呪具と薬で母上を眠らせ誘拐し
自作自演で救出したのち義母様に罪を着せるというものだった。
そんなことはまるっとお見通しだった母上によって説得され
素直に罪を認めて令嬢は謝罪したのだが、彼女には暗示が掛けられていた。
狂化して母上に襲いかかろうとしてしまったのだ。
哀れな令嬢はそのまま討たれるところを他ならぬ母上によって
速やかに沈静化(物理)され、事なきを得たのだった。
このようにスマートに事が済み、首謀者は露見の後討たれたが
件の令嬢はそのまま母上付きのメイドになって
一緒に母上の故郷へと戻っていったのであった。
あ、母上は一連の事件で精神を病んでしまったという事にして
廃妃されて速やかに故郷で療養することになった。
生活資金や一族の待遇を万全の保証の上で、だ。
母上は……世間からどのように言われるか分かっていたはずだ
父上とも自由に会えなくなるというのに……
全部俺のためと思えるほど自惚れてはいなかったけど
親を疑えるほど捻くれてもいなかった。
だから、俺も母上のように愛する人のために
周りからどう思われようと自分を貫くことを決めたのだ。
☆☆☆
その後は計画通りに……母上が優雅に去った後
混乱する諸侯や官僚を集められるだけ集めて
俺の廃嫡に協力してくれるよう要請した。
口をあんぐり開けるもの、呆れて声もでないもの
完全に無表情なものまでいて反応は芳しくなかったが……。
結局了解はもらえたので準備が整い次第
王に廃嫡希望の旨を通達しに行くと、あの人はその場では受け取らず
王の私室の隠し部屋へと俺とお師さんを通したのだった。
そこは汎ゆる魔術や神秘の類でも発見できず
立ち入るには王家の血筋のものの魂の許可がいるとされる結界だ。
父上は国家の存亡に関わる重大な事柄を話すと切り出し
質素な指輪と羊皮紙を数枚、机の上に出したのだった。
「 拝領したアーティファクト、その凡ての返却だ
品物の名前と持ち主はそっちの羊皮紙に書いてある
何か質問はあるか? なければ詳細の説明と報酬の話に移るぞ? 」
あっさりこういった、リストを見ると伝説に名が残る神器の類ばかり……
あ、世界樹の苗木なんてのもあるんだ……
なんでそんなヤバイ代物をうちの王様はお持ちになっておられるのかと
疑問を覚えたのだが……
だが俺達はあえて沈黙し、とっとと話をすすめることにした。
疑問があまりにも多く、依頼の話を優先しなければ
朝になってしまう恐れがあったため
黙っておくことにしたのだった。
……父上は話したがりなのだ。
「 ……実は俺がちょうどお前ぐらいの時
冒険者をやっていてな? その時に色んな縁で託されたものだ。
あ、お前たちの母さんも一緒にだぞ? だから浮気はない、絶対。
世界各地を津々浦々旅して回って…… 秘境の類を探したりなぁ……
異種族の長はだいたい友達になったっけか 」
この後本当に朝まで話すんじゃないかと言う勢いで
昔話を延々と続けたのだった。
ここからは長すぎるので俺の方で要約することにした。
父上の過去は謎が多い。辺境にいた、現地の部族と絆を育み……
というのは多分に創作が入っており
実際は前王の悪政ととある宗教団体の暗躍、神話級の魔獣の氾濫が
重なったことによる故郷と世界の危機を救い
この地に現在の王国を興したというのが真実であるらしい。
これはひどい。
……嘘臭いのと混乱を避ける意味合いで歴史からは消すことにしたんだそうだ。
今は神やら大精霊やらの力が宿った神器の力は過剰で
人の手に余る為、返還を常々考えていたが
自分の身は自由にできず、神器を収納している指輪は父上の血筋に反応する
……使い手を選ぶアーティファクトであった。
世界規模で災厄を煽せる品々が多数含まれており
依頼を一般に出すのは論外。指輪の関係上
身内、それも父上の直系であることが必須
俺の存在は正に渡りに船、最強の護衛もついているので心配もいらない
そして俺自身が旅をする理由付けにもなるというわけだ。
王家の血筋が何の理由もなく、と言うよりは『密命である』としたほうが
外聞はいいのだろう。
ただし、他国の軍隊に籍を置くことは厳禁(特殊な事情は除く)で
資金援助は無理とのこと 偉いさん方にも明かせない密命なので
彼らの承認がいる処置ができないのは当然といえば当然のことであった。
嬉しい事に解呪に関して、先方の許可があれば
アーティファクトの使用も可だという
逆に言えば持ち主が許さんといえば無理なのだが、それはご愛嬌か。
俺とお師さんは思わず顔を見合わせると、手を取り合って喜んだ。
……目の前の男は生暖かい目を向けて笑っていたのだが。
お師さんの手の感触でドギマギしながら俺は依頼を承ることを了承し
父上にその皆を伝えた。
「 陛下、非才な身ではありますがその御依頼謹んで承りましょうぞ……」
「 いや、逆にそこまで謙るのは不自然だ。親子なのは変わらんだろ……」
時間が経てば俺は王族ではなく成るので、言葉遣いを正しておかねば不都合がある
と練習していたのだが、このように評判はついぞ悪かったのだった。
俺の敬語ってそんなに変なのか?とばかりにお師さんに視線を向ける。
「 ああ、まあ……旅をしていく中で慣れていくんじゃないかな……私も
城勤めの中で覚えていった訳だからね、レオもじきに出来るようになるよ! 」
困りながらぐっと拳を握って言った。かわいい。……二人きりで旅するんだよなぁ
ああ……素晴らしい……と感動していると
「 おい、イチャイチャするんなら自分らの部屋でやれ。
何が悲しくて息子のあれやソレを見なきゃならんのだ……
流石にキツイだろうよ、俺はそこまで特殊じゃないぞ」
二人して慌てて退出した。……いや、ケジメつけるまでは何もしないから。
☆☆☆
それから二年後、正式にエンゾの立太子がなる。
俺は数えで十五歳になり、王国を発ったのはその年の春のことだった。
お師さんの魔術により、俺たち二人以外には
不可視となったリストを見ると故郷の大陸にある返還先は入国に
許可がいる所や未踏峰、禁足地などがほとんどであり
まずは比較的平穏な情勢で国交もある極東の島国、ワダツミを
最初の目標とすることに決定したのだった。
船旅は穏やかなもので、俺が初日に吐いたり
密航者の少年が海に放り込まれるのを止めて命を救ったり……
なんやかんやで無事に到着した。
「 本当に有難うございました……あなた方は拙者の命の恩人
ぜひとも我が屋敷においで下さいますよう
お願い申し上げる所存にございまする…… 」
その少年はワダツミの国主の一族の
妾腹の子で国外に遊びに行った所金がなくて帰れなくなったと
助けなきゃよかったかな
まあお師さんは絶対助けただろうからしょうがないけど……
じゃあせっかくだからと、リストに名前がある人物のことを聞くと
なんと彼の母親だ。名字が一緒だからもしやと思ったが世間は狭い。
さらに人間ではなく人魚だという話まで飛び出してきたので
俺達はアイコンタクトで、「 厄介事だ 」 と意思疎通した。
「 う~む…… わざわざ来てもらってなんなのじゃが
件の至宝はあやつに授けたのであって返されても困るんじゃよ…… 」
今困ってるのは件の人魚人妻姫のアヤメさ
、手に届け物の「絶海の竪琴」を抱きながら途方にくれている。
なんでもこいつは封印していてもその性質上人の手に余る品物で
ワダツミに幾度となく天変地異や怪異をもたらしてきたらしい
そんな迷惑な代物でも力は神話級、壊したらリスクは計り知れないので
美女を二人も侍らした異国の若者に押し付けたのだという
「 おぬしの故郷は滅びる、だがそれだけでは終わるまい……
国は滅んでも人は残るじゃろう、彼らを救うためにも力がいる。違うか?
……おぬしは良いやつじゃ、だからくれてやるというのだ」
アーティファクトの効力は水をもたらし、操るというシンプルなもの
奏でる音によって王水で海を創るなどという危険物であった。
詐欺じゃねえか、くれてやるってなんだよ。
そんなもん生き物が住んでる場所で使えるわけ無いだろうに
創った奴の顔が見たいなと思っていると悪いことは起きるもので
迷惑品を創った奴の顔を拝む機会は直ぐに訪れた。
ソレは八岐の大蛇とよばれる、八つの頭を求める竜の亜種
ご多分に漏れず生贄を要求する性質を持っており用心深く狡猾で
海底深くにネグラを構え、入り口を閉めて出てこないらしく
誘き出すか深海まで潜る他は接触の方法はないということらしい。
流石に神獣の端くれといったところか、お師さんでも
無理に引き上げるのは難しいらしく餌を用意して、ネグラの扉を
開けさせ、説得して竪琴を引き取らせることにしたのだった。
では何を餌にするのか、結論から言うと俺だ。奴は肉食だそうだし
一発で決めるには抵抗して時間を稼げるものが適している。
警戒されたら難しくなるからだ。
何故なのか? お師さんがやると言うので変わったのだ
安全な所でふんぞり返るなどというのは俺の仁義に反するからだ。
あの人は反対していたが、回収出来るのはお師さんしかいない。
解:つまり俺がやるしかない。
自慢ではないが、俺はお師さんの次くらいには強いはずだ。
魔術の類を使う相手だと途端に弱くなるんだけども。
引き出しが少ないのをなんとかしなさいと
常々忠告されているんだが……。
というわけで実行したわけだが、奴はあっさりと扉を開けた。
そしていかにもなセリフを吐いて襲い掛かってきた。
「 どれ腸からいただくとするかな……」
……一対七だからこその強気だったので、
反応を見て転移してきたお師さんととりあえず切れることを
確認できた俺とで首を一本にした後、無力化した。
流石にそのままで竪琴を押し付けるのは忍びないので
治癒をしてやり(お師さんが)改めて要件を伝えると
快諾してくれたので、万々歳だろう。
お師さんが優しいのを良いことにに色目使ってやがるのは
ムカついたが、まあ良しとした。
旅は大体こんな感じでドタバタと、それでも人との
出会いには恵まれていたように思う。
エルフの里やドワーフの地下王国では最初の接触こそ悪かったが
基本的に人間や魔族に対しては外見での偏見がない人々だったので
お師さんの異貌に対して排除しようとする連中はいなかったのが助かった。
お師さんは見た目が魔王ルックだけど中身は女神だから割とすぐにファンを獲得してたぐらいだ。
俺はというと一言で言うとぼちぼち、そういう他ないのだ。
見た目普通の人間、強さ等も常識的な範疇なので……
玄人のおっさんや爺さん婆さんの知己は多数できたのでいいのだ。
……お師さんにさえモテテいればそれで。
件の届け物は概ね順調、しかし解呪に関しては成果なし
そのような状況がしばらく続き、俺達が魔族が住む大陸に
渡った後急展開を見せたのだった。
☆☆☆
「 吾輩の見立てではお前の魂を呪っているのは間違いなく肉親であるぞよ 」
目の前の魔族はお師さんの魂をアーティファクト『神の眼』を
通して診察すると、そう断言した。
この世界には多種多様なヒト族が存在するが、魔族はその中でも
長大な寿命と膨大な魔力を保持するが、しかし反比例するように
よく言えばのんびりと、悪くいうと怠惰な気風があり国家レベル
での繁栄は人間ほどではないが、この魔王、名前はアンゴル……
こいつは自在に神器を操る規格外の猛者であり、他にも
人間の常識の埒外の猛者が無数に存在していた。
魔族というのはエルフやドワーフと違い、容姿に大きな幅がある。
翼があったり角が生えていたりと住んでいる環境で変わるとか。
翼に限定しても竜翼に似ていたり、蝙蝠のようだったりと様々である。
お師さんの翼と角を出した姿は、一般的な魔族を想起するものであるのだが
魔族から見ると違和感を覚えるらしい。
正確には外見より魔力と気のバランスのほうであるらしいが。
そして魔族のお姫様から因縁をつけられ、エライ目にあった。
……魔族を騙る者、人間の尖兵という謂れなきレッテルを貼られ
件のお姫様率いる精鋭の襲撃を受けた、のだが……
それ自体よりもその後の方が危機的状況だったわけだ。
お師さんがマジギレしてしまったからな……
戦闘の経過としては、初めに反則戦力のお師さんと
あくまで人間の範疇の俺を分断し、無力化した後に
人質にしてなんとかするつもりだったらしいのだが…… これが地雷であろう。
俺はなんとかお姫様の攻撃をしのぎ、お付の若い衆を無力化したのだが
魔力量が根本的に違う魔族相手では、剣で切って盾で防ぐ近接オンリーでは
いかんともしがたく、ついに強烈な魔術の直撃を喰らって膝をついた。
正にその時、周辺の結界が砕け散り……
怒髪天をついた鬼神が姿を表した――
「 た、大陸の端まで転移させたはず…… それにあの数の軍団をたった一人で?
お、お前は…… お前は一体なにも――― 」
何者なんだ、とでも言うつもりだったお姫様は
お師さんが繰り出した無数の触手に打ちのめされ
鞠のように転がっていった……敵ながら哀れだな。
止めてくれるようにお師さんに話しかけようとしたのだが
……凍るような目つきでお姫様が吹き飛んだ先を睨みつけている彼女の表情は
普段の柔和な印象は皆無で、無慈悲にも追撃の火球を放とうとしていた。
「 ……お師さん、流石にそれ以上はにまずいよ? 俺の怪我は見た目より軽いから
ここは俺に免じて刃を納めてくれ 」
俺は慌ててお師さんを止めた。此処には届け物で来ただけなので当然である。
見ればお姫様はお師さんの召喚した触手により既に拘束されてしまっている。
ギリギリ……セーフか? アウトだろうなと、今後の身の振り方を考えていると
先の魔族の医者が仲裁に来たのだった。
……お姫様は目を覚ますとお師さんにビビっていたが
自分の早とちりということでしっかり説明責任だけは
果たしてくれたということを明記しておく。
それからはさっきの話の通り、一人称が吾輩というとっちゃん坊やの
魔族、自称医師で他称魔王による診断の結果ようやく呪いを掛けた人物を
突き止められたのだ。
そいつは予想外の超大物で、会うのも不可能に思えた。
というか神話の存在であり、文字通り次元が違ったのだ。
俺達の宿願を果たす道筋は俄然険しいものとなったのだ……。
諦めるつもりは毛頭なかったけどな。
☆☆☆
俺とお師さんは数日後、世話になった人達に別れを告げ
頭を下げたり下げられたりしながら、魔族の国を後にした。
余談だが、あの戦闘では一応一人の死者も出ていない。
そして、俺達の次なる目的だが……世界の中心にある『母なる大樹』となった。
魔族のお姫様いわく、『神の如きものの呪いならば死を覚悟せよ』
とのとこだ。
件の術者の所在が『神の眼』により、冥界であると判明したからであり
冥界で生存できる肉体とは、『神』のソレ以外ナシと語られている。
つまりは、お師さんの親は冥界に住む『神』に他ならないのだ。
そいつは神話では大体悪役で、話を素直に聞いてもらえるとは
神話通りの人柄ならば考えられないからこう言ったらしいが
いちいち誤解を招く言い方をするものである。
呪いを解く方法だが……一般的には術者をどうにかするか
術式を本人に解除させるという話だ。
お師さんの場合、そいつの所在と、正体が文字通り
次元が違うのが問題であり、よしんば会いに行けても
希望通りに事が進むかというと疑問符が……
道中そうした議論で意見が堂々巡りしていたのだが、
大樹で待っていたとある精霊?によって好転することになる
一応知り合いである、エルフの里で声のみを聞いただけだが。
『 あら……? 人間と、神にしては魔族っぽいし他にも色々……?
面白げな子たちじゃな~い』
『 てゆーかぁ、あの陰気な神さまの臭いが微かにするし……
この祝福はモロあいつのよね……?
あいつって子供いたんだ?どう考えても独身なのに』
『 え? それ掛けたのって冥界の神さまよね?
残り香的に考えて。違う?』
……お師さんは神さまの子供で確定。
目的地、冥界の神の棲み家ははよりにもよって最深部とのことだ。
冥界とは、魂が輪廻に入る前に罪を洗れる場であり
生物は例外なく死に絶え、魂のみが存在を許される場所である。
魂を分離して門をくぐることになるのだ。
その際に無限大の空間に無数に存在する魂に紛れてしまうか
冥界に分解され、輪廻の輪に入ってしまう危険性が高い。
そして俺は後者でお師さんは前者の恐れが強いという、魂の強度的に。
そこで俺達はかつて行った人間ルアー釣りと勝手に呼ばれた
ワダツミで行った作戦を応用して活路を開くことを試みた。
まず魂の強度が神や大精霊レベルのお師さんが先行し
深部に到達した時点で合図を送ってもらい、待機していた
俺が神器でもってその座標に一気に転移する……というものだ。
分の悪い賭けだった。
負ければ死ぬか、そのまま転生も出来ずに消滅だ。
しかし、俺達が結ばれるためには既にこうする他なかったのだ。
故に迷いはなく、速やかに準備を整えていった。
☆☆☆☆
俺達が精霊の力で魂を分離してもらい、肉体を預けると
手はず通りお師さんが先に門を潜り、”降りて”いった
ただ待つ、どれだけの時間が経ったのか、魂だけとなった俺は
この世の理から外れ、消えるところを精霊によって繋ぎ止めてもらい
只管に合図を待っていた。
『 まずいわね……。あの子は迷っているわ、陰気神の気配と霊格は教えたけど
一人でいることに慣れていないのね…… このままでは見失ってしまう……
周りの魂と貴方を誤認している……』
言葉を発することが出来ず、視線で訴えた。精霊は笑って言った。
俺がどう考えたかについては、言わずとも分かるだろう。
『帰りは私がなんとかするわ、迎えに行ってきなさい!!』
その一言を待っていた、そう思って俺は冥界に飛び込んでいった。
直ぐに自分の視力が全く機能していないことに気づいた。
一面に広がる闇、闇、闇……
黒いものとすら認識できない昏い空間を進もうとするが
自分が動いているかどうかも分からず
動けるかも分からずジブンガナニカワカラズ
オレハイッタイナニヲsinkjhgfdsa////////
意識が暗転し、気がついたときには、なにも分からなくなっていた。
自分が誰かも、何のために此処にいるかもわからない。
そういえば此処は何処だ?
遠くに昏い闇が見えて、周りの人はみんなそこに向かっているようだ
ならば自分も……
そう思った時、声が聞こえた……
【君と出会ったあの日……君は知らないだろうけど
ヒトという生き物に対して、私は良い感情を抱いてはいなかった
いや……怖かったのかな? 自分の外見だけで傷つけられたり、
何より怯えられるのが怖かったんだと思う。】
誰だ……自分は何も知らない……誰も?……
これは……####の声なのか……
【特別なことはしていないと君はよく言ってたけど……
私はそうは思わないよ? レオは私の魔眼で眠っていたから
恐怖を覚えなかったのだと思っているようだけど、
あの朝、魔眼の効果が切れた時に私の姿を直に見ているよね?
ボゥっとしていたけど、頬が赤くなってて…… えっと、かわいいなって思った……】
自分は……そうだ俺は……苦しみから開放されて……
とても変わっていたけど、凄く綺麗で……ずっと見ていたいと思った……
【何故なのかは分からなかったけど……私は君のそばで守ってあげたいと
心の底から思ったんだ……
依頼とか義務じゃなくて、なんとなく生きてきた私が
自分のことさえ分からない、それなのに君のことは
他の何より気になった……実は陛下に召し上げられたのは
私から頼んだことだったんだよ……?】
俺は……そんなこと全然分からなかった……子供扱いされてるものとばかり……
【だからかな、採用された時は嬉しくてね……
それからの日々は夢のようだった……
君は小さな男の子だったけど毎日見るたびに
成長しているのがはっきり分かって、嬉しくて
良いところを見せたくて、乗り気じゃない決闘をうけたり
下手な化粧をしてみたり……】
俺も嬉しかった……人が怖くて……
それでも暖かいぬくもりが忘れられなかったから……
【だからこそ、私は自分の呪いのことを君に話すのは嫌だった……
どう思われるのか不安で不安でたまらなかった
でも、あの時決心して、話してよかった……
本当に君は強い、諦めるより苦しいことを迷わず選べる人……】
……見栄っ張りで、貴女にいいところを見せたかっただけだ……
【この旅の間も、君のことをずっと見ていた
君はドンドン大きくなっていって、私も負けないように頑張ってたんだよ?
私の正体と、呪いの本質が見えた時に君と結ばれなくても
傍で見ていられたら、それでいいと思っていたはずなのに……】
俺は……強くなれたのか……? ……貴方に相応しい男になれたのか……? 分からないけど……
【……私は君のことが好きだ、愛している
呪いを解いて君と一緒に何処か好きな場所に家を建てて
一緒に暮らしたい,将来子供も欲しい、君みたいな男の子でも
可愛い女の子でも嬉しいな……
その未来が欲しいから……私は抗おうと思ったんだ、君のように】
俺も……貴女の……####の……お師さんの……ルティナの事を、愛している……
【失敗したら消える、そう聞いても怖くなかった……
君が一緒なら絶対に成功させることが出来ると思ったから
後もう少しだから…… ねぇ……レオ……
き…こ……え……る…………? 私……は……】
聞こえる。……俺はとんだ薄情者だ
世話になって結婚してくれとまでいったルティナを
ほんの一時でも忘れるなんて……
わかった、直ぐに行くから動かないでそこで待ってろ!!
お前の声はガキの頃から聞いてるんだ、俺に分からないわけ無いだろ?
その時、今まで何も見えなかった透明な世界に……これは……
俺の意識が戻るとそこは桃源郷だった……
勿論死んだわけではない、ルティナの膝枕で眠っていたのだ。
彼女は俺の目覚めに気づくと、微笑み俺の頬を撫でた。
どうやらまだ地上に帰還したわけではないらしく
冥界の最深部、冥界の神のいる空間にいるらしい
というか俺達の後ろにいたんだよなぁ、神さま。
凄く恨めしい嫉妬の目線を感じると思ったら陰気なイケメンが
こっちを見ていた。
慌てて挨拶をすると、俺たち、特にルティナのことはよく知っているらしい。
……つまり、あの人が父親か。
俺にとっては未来の義父……。しかし何故だろう。
そう呼ぶと危険な気がして、口には出せない……。
俺とルティナがどう話を切り出そうかと考えていると、彼のほうが動いた。
『 少々、オレの身の上話を聞いてくれないか……
娘にも関係がある話だ、お前たちの用事は必ず叶える。
だから、頼む』
何年此処に一人で居たのかはわからないが
寂しかったのだろうか、神様も心はヒトとそれほど違いはないかもしれないな
思い、ルティナの顔を見ると微笑して父親に声を掛けた。
「 私達で良ければ、喜んで聞くよ?……お父さん。」
それを聞くととても嬉しそうに話し始めた。
彼は地上と天上とそこに住まうものに対して
嫉妬から来る憎しみを抱いていた。
自分は永遠にこの冥界で昏い仕事なのにあいつらは……と
天上の神を引きずり出し、地上へと貶して倒すために
と兵器を創造することにしたのだが……
これが上手くいかなかったらしい
自分の仕事と正反対なことを使用というのだから当然なのだが。
そこで神の創造物を雛形にすることにした。
地上と天上のあらゆる生物を研究しその因子を集めて生み出したのが
ルティナであった。
が余りにも研究を真面目にやったためか生き物の成長過程も
完璧に取り入れることに成功してしまい、久遠の子育てに奔走する羽目になった。
……のだが、彼女が育つまでに恨みは霧散してしまう。新鮮で兎に角楽しかったのだろう。
彼女が幼生体を過ぎるぐらいの年月が過ぎ、地上での器が出来上がっていた。
冥界神は自分のようにこの場所に囚われるのを忍びないと思い地上へ送り出そうと考えたのだ。
しかしルティナは美しく成長するだろう、何も持たなかった冥界神にとって
の唯一無二の宝だった。
誰かともし結婚するとを考えると発狂するほどの痛みを覚えたんだとか。
なので絶対に結婚しないように呪い、正確には冥界の祝福を魂に掛け
地上へと送り出したのだそうだ。
……何もいうことはない。
呪いは解いてくれた、というかルティナの「 お父さん 」で撃沈していた。
孫の顔を見たくなったし、結婚式には呼んで欲しいとのことだ。
どうやら地上にはある程度自由に出られるように、自分も器を用意したらしい。
……天上の神は何も言わないのだろうか。
これは後に知ったのだが、天界の神さまと知り合いの大樹の精霊が融通をきかせてくれたとか。
そんなこんなでルティナの今までの話や、俺達の馴れ初めやらなんやらを
根掘り葉掘り聞かれつづけ、大体話し終わると周囲の空間が揺らぎ始めた。
冥界自体の理を歪ませ続けるのは、いかに神といえど難しかったらしく
そこで限界が近づいていたのだ。つまり実はかなり危なかった……。
ルティナはまた会いましょうと神……父親と抱擁し別れたが
俺がとーさんと呼ぶと親の敵をみるような目で見られて
そのまま意識を失ったのだった……。
☆☆☆
時間は俺達が故郷に帰ってきたころに戻る。
港から魔族が王国に提供した魔導馬車で一路、王都へ向かう途中の街道だ。
旅立つ前よりも大分整備が進み、交易量の増加をカバーして
余りある交通網は周辺国家でも類を見ないものとなっているそうだ。
魔導馬車は本来なら乗り合いだが、チャーターした人物の厚意に
より貸し切りとなっている。
俺は今、ルティナを膝枕してまどろむ彼女の銀の髪を撫でながら
至福のときを過ごしているのだ。
それにしても思えば三年間、この人と一緒に旅していたのか……
よく我慢できたもんだなぁ、我ながら……
ふと車窓から外を見ると、かつて我が家である王城が遠くに確認できた
到着は遅くとも夕刻より前だろうな
到着したら直ぐに城に行くとして、やるべきことがたくさんあるなぁ
王への依頼完遂の報告を最優先として……
土産を渡す相手もたくさんいるからなぁ、なんだかんだ言って。
一番世話を掛けた弟に立太子の祝を改めて渡したいし……
そして結婚のご報告…… いやあ幸せ疲れするだろうなぁ……
「 でへへ 」 「 旦那様、何をにやけてるんだい……? 」
おっと起こしてしまったか、まだ時間はあるし、寝てても大丈夫だよと伝えると
「 ありがとう。……でも着くまでに話しておかなきゃならないことが
あるんだよ、私達が帰還するまで、結構ゆったりと旅ができたよね?
あのお医者様やエルフのお婆様の所に寄ったり
その……む、結ばれたりしたじゃないか……? 」
???たしかに楽しかったけど、特に問題は起きなかったよな……?
うん?たしか婆さんは産婆も……てかあいつは魔王だぞ……??
「 えっと、そのまさか……医者はともかく婆さんが話に出るってことは……
ルティナ、俺と君の…… 子供ってことなのか……」
「 ……うん、そうみたいだ。 冥界の影響が身体に出てないか
呪いの消滅の影響の経過観察も兼ねて、魔力診断を受けたら
反応があってね、レオには直ぐに話そうと思ったのだけれど……
正確な情報が出るまで待てと、止められて……
結局今の今まで言えずじまいだったんだ。」
ルティナさん、貴女は素直すぎるよ……
あの二人なら俺を誂うのに禁呪でも使いかねないよ?
言うのを遅らせて俺を驚嘆させたかったんだろうなぁ
今度会ったら覚えていやがれ……。
お父さんに聞いたら、間違いなくお前の子供だと断言してたよ
という彼女を尻目に俺の心は凍結していた。
歓喜に混乱、有頂天を突破し頭がオーバーヒート寸前だ。
しかし、これだけは言わなければならないと気合を入れて
ルティナを抱き寄せる。
「 ずっと一緒だ、死んでも離さない。……これから何処へ行くにしろ
三人で、乗り越えてゆこう。」
「 ……あなたとなら何処へでも、いつまでも。
あ、私は何人でも平気だよ?何十人でも大丈夫!」
……俺が持たないよ。
こうして俺達の旅は一旦幕を閉じた
だけど落ち着いたらもう一度世界を回ろうと思う
今度はとりあえず三人で、俺の子供にも
あの愉快な人々と美しい世界を見せてやりたいからな。
Fin?
昔書いていたものを見つけまして、設定を練り直したり流用したりして
なんとか短編にしたためました。
カットされたエルフとドワーフさんごめんなさい。




