勇者達[決着]第18話
隆二[リュウジ] 勇者の1人、現世に戻った筈がまた異世界に…
亜里沙[アリサ] 勇者の1人、異世界に逆戻りしたあと、アデルと旅をしている。
ペジーニ リュウジと供に旅をする冒険者。背が低いが二十歳の大人。魔法使い。
ロラント リュウジと供に旅をする冒険者達のリーダー。顔は怖いが気弱で優しい大柄な僧侶。
マイヤー リュウジと供に旅をする冒険者。スタイル抜群で美人。男勝りな性格。狩人女性。
ジルバは、口から血を流し、蹲りながら自分の不甲斐なさを呪った。
今まで、勇者の1人であるアリサを両親の仇と思い込み、復讐のため日夜訓練し鍛えてきた。しかしあろうことか、実は今まで、身を寄せ使われていた盗賊団こそが、自分の本当の仇だと知ったのだ。だが、その仇に一矢報いる事も叶わず倒され、動くことさえ出来ぬ今の自分が悔しかった…
蹲るジルバにギャルソンは近づき、最後の言葉を浴びせる。
「お前もバカ奴だ、大人は信用するもんじゃないぞ」
そう言うと、剣を頭上へと振りかぶりジルバの頭へと振り下ろす…
ザシュ
ギャルソンの剣は、土の地面へと深く突き刺さった。
「なにっ」
「へっ、おいらの前でそれ以上の非道は許さないぜ」
そう言って、ジルバを横から姿を現し助けたのはアデルである。
「ちっ、まだ雑魚が隠れていたか。だが、たかが1匹増えたところで、何も変わらぬわ」
ギャルソンは、地面に刺さった剣を引き抜くと、再度振りかぶり、ジルバを抱えるアデルを捉える。
「甘いっ!」
『ストーンブラスト』
ギャルソンの剣が振り下ろされる前に、アデルの突き出した掌から石礫がギャルソンを襲う。
「うわっ」
ギャルソンは、剣を落とし、顔を庇いながら後退りした。
「今だ、これでも食らえ」
アデルはギャルソンが落とした剣を素早く拾い上げ、ギャルソンに一太刀浴びせる‥
バキンッ
アデルが突き出した筈の剣は宙を舞い、アデルはジルバもろとも吹き飛ばされていた。
「ギャルソン殿、遊び過ぎですぞ、たかが子供でも冒険者、何を仕出かすか分かりません。早急に始末してしまいましょう」
ギャルソンの前にはデーモンが立ちはだかり、アデルを吹き飛ばしたのだ。その後ろでベクトルがギャルソンに冷めた言葉で応えた。
「ちっ、興が醒めたわ。もういい、殺してしまえ」
ギャルソンの言葉で、デーモンはゆっくりと動くとアデルとジルバを鋭い腕で数メートル吹き飛ばし、二人が転がり倒れた先へと歩み寄る。
アデルは、既にボロボロな状態で地面に横たわり気絶している。ジルバはそんなアデルの前に口から血を流しながら庇うように膝立ちで立ち塞がった。
「この命尽きようとも、この子は殺させない」
ジルバは、奥歯を噛み締めダガーを構えた。
そんなジルバにデーモンはノーガードで近付き腕を伸ばす。ジルバは、近付くデーモンの腕を構えたダガーで切り裂く…
カキンッ
ジルバのダガーは、デーモンに傷一つ付けることも出来なかった。そして、デーモンの腕はジルバの首を掴むと空へ高々と投げ飛ばし、そのままジルバの体は近くの岩肌に叩きつけられ、弾かれ、大地に転がる。
デーモンは次に、アデルの首を掴み上げ力を込める…「うっ‥くっっ」アデルの口からうめき声が漏れる。苦しみで意識を取り戻したアデルがデーモンの腕を掴み抵抗するが、徐々に抵抗する力が弱り垂れ下がる…
『ヴァルキリージャベリン』
光の槍がデーモンの腕を吹き飛ばす!
アデルは、首にデーモンの腕を残し、地面へと落ちた。
「何者だっ」
ギャルソンは、光の槍が飛来した方向を振り向き叫ぶ。
そこに現れたのは、5人の冒険者。
軽装備だが、両手剣を担ぐ戦士、リュウジ。
背は低いがそれに伴わない長さの杖を持ち、ローブを着込む姿はホビットの様だが、二十歳の青年だ、魔法使いのペジーニ。
顔は怖いが気弱で優しい大柄な僧侶、ロラント。
男勝りな性格で大雑把だが、スタイルは良く美人顔の狩人女性、マイヤー。
そして、冒険者とは思えぬ軽装を着こなしているが、シルバーソードを掲げ、その纏う魔力は怒りによって感じ取れる程溢れ出てしまっている精霊使い、アリサ。
先ほどデーモンを捉えた魔法はアリサが放ったものである。しかし、突然の魔法と威力にリュウジ以外のパーティーメンバーは驚き戸惑っていた。
リュウジは、現パーティーメンバーのリーダーであるロラントに状況の指示を頼んだ。
「ロラント、見ての通り複数の上位悪魔が居る、奴等は俺とアリサが相手をする、他の皆はそこに倒れている少年2人の手当てを頼む」
「わっ分かった。しかし、あんな化け物相手に、2人で大丈夫なのか?」
「なぁに任せなって、それより、巻き添えを食らわねえように気を付けてくれよ」
ロラント達は、上位悪魔の強さを知っている。だからこそ、リュウジが引き受けるなんて言わなければ、一目散に逃げ出しているところであった。
異様な殺気を纒ながら敵を睨みつけ、歩み寄るアリサにデーモンは後退りした。その隙に、リュウジはアデルを素早く拾い上げると、ロラント達に託し、ロラント達はアデルを抱えてジルバの元へと下がって2人の治療へと当たるのだった。
ギャルソンは、後退りするデーモンと供に後ろに居るベクトルの元へと下がる。
「こいつらは何者だ?」
ギャルソンのうわずった声に、ベクトルはため息をもらし、
「ギャルソン殿、落ち着いて下さい。奴等が何者だろうと、この数の我々に怖れる者などございません」
そう言ってベクトルが腕を掲げると、空で待機していた5匹のデーモンが、その傍らに降り立つ。
「さあ、ギャルソン殿、自信を持って下さい」
ベクトルの言葉に、ギャルソンは頷き、
「たかが冒険者風情が、多少腕に自信があるのか知らぬが、往生するんだな」
と、高らかに笑った。
「お前たちの能書きは終ったかっ!」
アリサが怒鳴ると、後ろに居たリュウジは、「あらあら、本気で怒ってますよ」と声を小さく呟き、呆れ困った顔を浮かべるのだった。
アリサの一喝に、ギャルソンは一瞬たじろいだが、辺りを見回してから気を取り直し「どんなに意気がっても、お前らごとき大したことない」と、強気に胸を張った。
アリサは、ギャルソンに見向きもせず、両手を高々と広げ精霊語を唱え出す。
『我と契約しせし精霊神‥‥
「馬鹿がっ!大人しく詠唱などさせるか。さぁ者共、その女を黙らせてしまえ」
ギャルソンは、アリサの行動に素早く対応し、周囲に居るデーモン達に命令を下す。
デーモン達は、ギャルソンの命令に反応し、鋭い爪を構え、アリサへと襲い掛かった。
バキンッ
「おいおい、お嬢ちゃんの邪魔してんじゃねぇよ」
リュウジの一閃で、デーモン達の初撃を跳ね返す。
そして!
『インタセプトフィールド』
リュウジがソードスキルを使い、アリサの前で剣を構える。
初撃を弾かれた敵が体制を立て直し、アリサに再度襲い掛かるが、リュウジのスキルによる結界内に入った瞬間、リュウジの剣から繰り出される閃光に弾き跳ばされる。
「くそっ、何をしている。近付けぬのなら魔法で叩き潰せ」
デーモン達は魔法を唱え、掌から巨大な炎の玉を作り出しアリサへ投げ付けた。5つの炎はアリサに向かい飛び、爆炎を立てて爆発、燃え上がった…
炎の煙りが消え去ると、そこには無傷のアリサとリュウジが。
「少し遅かった様ですね。私の召喚は完成しましたよ」
そう言うアリサの後ろには、5mはあろう人形の燃える様な赤の髪に黒い死神の様なローブを纏い、下半身は風で掻き消えいる精霊神ボレアースが見下ろしていた。
『さぁお願いよ、悪魔達を倒して』
アリサの言葉にボレアースは頷き、魔法を唱えた。すると、ボレアースの頭上に複数の小さな竜巻が現れると、そこから次々と風の刃が発生しデーモン達へと襲い掛かる。
デーモンは前方に結界を張り防御姿勢を取るが、風の刃は、結界を打ち破り、デーモンの体を切り刻む。後に残されたのは、切り刻まれバラバラになったデーモンの亡骸だけであった。
「ひぃぃ」
ギャルソンは、尻餅をつき驚きおののく。そんなギャルソンを蔑む視線で見下ろしながら、ベクトルは、残ったグレーターデーモンへ叫んだ。
「あやつらを葬れっ」
グレーターデーモンは、後ろを恐れる‥そんな行動をしたかと思うと、背中の羽で上空へ舞い上がると、体を丸め何やら言葉を紡ぐ。すると、グレーターデーモンの体に向かい、黒い靄の様な物が集まり、体を赤く染め上げていく…
「あれはちょっと不味いわね」
「ああ、あれによく似た攻撃を見たことがあるが、かなり強力だぜ」
アリサとリュウジが、敵の攻撃を警戒していると、グレーターデーモンは、真っ赤に染った体を大きく開き、残った片腕を構えた直後、その掌から黒ずんだ紫の光をアリサ達へ向けて放つ。
「ボレアース!」
アリサの叫びにボレアースは、体を風の渦と変化させ敵の放つ光に激突。激しい閃光と爆風を放ち、消え去った。
ボレアースは役目を果たし、精霊界へ帰っただけである。アリサは気に止めることなく、続けて魔法を放つ。
『バキュームデス』【真空の死】
グレーターデーモンは、動きをピタリと止め、体から蒸気の様な湯気を上げ、もがく。そして数秒後、グレーターデーモンの周りが半透明の球体に包まれる様に見えた次の瞬間、その球体は点まで一瞬で縮小し、グレーターデーモンの姿を消し去るのだった。
ギャルソンは目を丸くし、ただ口をパクパクと動かす事しか出来なかった。
その背後に居たベクトルは、驚きと供に歯痒い思いを顔に浮かべ「くそっ、この屈辱忘れぬぞ」そう言うと、指に付けた指輪を口元に近づける。
『リターン』
次の瞬間、ベクトルの姿が一瞬でその場から掻き消えるのであった…
「ちっ逃がしたかっ」
リュウジは、舌打ちをする。
そして、持っている剣をギャルソンの首元へ添え「観念しな」と言うと、ギャルソンは力なく項垂れるのであった。
辺りに敵の気配が無くなると、アリサは肩の力がスッと抜けるのを感じる。そして、アデルとジルバが手当てされている仲間の元へと駆け寄るのだった。
アリサがロラント達の元へと駆け付けると、ロラントが口を開く。
「こちらの少年は治療の効果があり、今は意識を失って寝ていますが、時期に目覚めるでしょう」
そう言って、アデルを指し示した。
アリサは胸を撫で下ろし「良かった」と落ち着いたが、ふと説明が足りない事に気が付く。
そして、ハッとし「もう一人の少年は?」と、尋ねる。すると、ロラント達はうつむき黙り込んでしまった。
そんな素振りのロラント達にアリサは焦りの表情を浮かべ、
「どうしたの?答えて。ジルバと言う少年は?」
アリサはロラントに食いつくが、ロラントはただ黙って頭を左右に振ることしか出来なかった…
悲壮な顔のアリサにロラントが語り出した。
「少年は、致命傷を負っていて虫の息だった。最大限の治療魔法を施したのだが、もう手遅れの状態だったのです。そして、譫言の様に言ってました。『勇者アリサごめんよ、父さん母さんごめんよ』と、繰り返し繰り返し、息を引き取るまで…」
アリサは色々な思いを胸に、静かに目を閉じる。すると、頬を伝って一筋の涙がこぼれ落ちるのであった。