勇者達[ジルバの真実]第17話
アデル 妖精の森で亜理沙が助けられた精霊使い
ジルバ 盗賊として修行する少年
ギャルソン 盗賊団首領
ベクトル ギャルソンの客人
オラクル 盗賊団討伐で敵アジトの入口で残党退治に残った冒険者グループのリーダー
「おいっボウズ、これでも喰うか?」
アデルは、干し肉を差し出す髭面の冒険者ジンに振り向く。
「えっいいの!ありがとう」
盗賊の棲みかへと向かうアデル達討伐隊は、目的地到着を目前に休息の時間を取っていた。
「もうすぐ敵の棲みかだ。しっかり頼むぞ」
「ああ、任せてよ」
アデルは肉を囓りながら、ジンに向かって胸を張るのだった。
後から追い付いた街の兵士達との打ち合わせを済ませると、アデルを先頭とする冒険者達は、盗賊達の住む森へと進軍するのだった。
冒険者達討伐隊が森に入って行くと、後続の兵士達は、左右へと展開する。包囲が完成し次第、兵士達は森へと進行する手筈となっていた。
「しっ、この先に敵の洞窟の入口が在って、見張りが居るんだよ」
目的地到着を目前に、アデルが今回討伐隊のリーダーとなったプラチナ冒険者リーダー『エリック』に囁く。するとエリックは、手早く自分の仲間に指示を促し、その指示は全体へと伝わっていく。
流石、手練れの冒険者達だけあって、各々素早く行動に移していくのだった。
洞窟に到着すると入口前には、髭面の背が低い男と坊主頭のひょろっとした男が見張りとして立っていた。
2人の魔法使いが手で合図を送り同時に魔法を唱える。
『スリープミスト』
魔法の詠唱から数秒遅れて、6人のアーチャーが弓を構え、先頭に立つエリックの合図を待つ。
坊主頭の男がドサリと眠りに落ちると、髭面の男が驚き、倒れた男の傍へ近付き様子を伺う。そして、不自然な眠りに落ちたのを見て自分も虚ろになっていることに気がつき辺りを見回した‥次の瞬間、6本の弓矢が一斉に2人の男に襲い掛かり見事に命中。見張りの2人は、声を挙げることも出来ず絶命した。
「よし、手筈通り中へ進行する。別れ道に差し掛かった際は、事前の打ち合わせ通り別れて進むように」
「「了解」」
「ボウズはどうするんだ?後ろから付いて来るか?」
ジンがアデルへと話し掛ける。
「うぅ~ん。行きたいけど、危ない事はしないって、アリサ姉ちゃんと約束したし、後から来るアリサ姉ちゃんを待たなくちゃいけないから、おいらはここで留守番してるよ」
「そうか、それなら仕方ない。じぁっ、ちょっくら盗賊の掃除でもしてくるか」
そう言って、ジンは洞窟へと姿を消して行くのであった。
ドーン
パラパラ
洞窟内に爆発音が響き渡り、天井の砂がこぼれ落ちてくる。
「何事だっ、騒がしい」
ギャルソンは、自室を出て近くを走る子分に詰め寄る。
「そっそれが、冒険者達が大挙して押し寄せ、かなりの仲間達が殺られちまったみたいなんです」
「なにっ」
そんな会話をしてる間にも、洞窟内部を金属のぶつかり合う音や叫び声が響き渡っていた。
「ちっこれじゃあ勝ち目がねぇな」
ギャルソンは、自室の隣に作った客室へとノックなどぜず、豪快に扉を開けて入る。
「おいっ、ベクトル。例の話、実行してくれ」
黒いローブを頭から被り静かに佇むベクトルは、突然の来訪者にも驚いた様子も見せず、まるでこうなる事が分かっていたかの如く、うっすらと笑みを溢すのだった。
洞窟の入口では、逃げ出して来る盗賊を撃退するために残った冒険者グループとアデルが様子を伺っていた。
洞窟の入口を担当する冒険者グループのリーダー『オルクル』は、洞窟の入口が良く見える物陰に隠れ、周りに展開する仲間達へ、いつでも指示を出せる体制を整えながら隠れていた。
「ねぇオルクルさん。何か急に静かになっちゃったよ」
アデルがオルクルの傍らで呟く。
「そうだなアデル。中での掃討が終わったのかもしれん」
先程まで洞窟の入口から少し離れた岩影からでも、中で戦う魔法の爆発音や鉄のぶつかり合う音などが聞こえていたのだが、先刻から聞こえなくなり、静まり返っていた。
暫くして、オルクルが岩影から姿を現し合図を送ると、周りで隠れていた他の冒険者達も木の陰から姿を現す。
「なぁリーダー、中の戦いは終わっちまったのかな?」
オルクルの傍に居たオルクルの冒険者仲間がつまらなそうに洞窟内をのぞきながら話す。
「そうかもしれないな。何せ、こちらは精鋭揃いだったからな」
オルクルもつまらなそうに呟く…
しかし、次の瞬間、物陰に隠れていたままだったアデルは、恐ろしい光景を目の当たりにするのだった…
洞窟の入口に姿を現し、警戒しながら展開するオラクル達は、洞窟の中から1つの影が現れた事に気が付く。
「中から誰か出てくるぞ、一応全員用心しろっ」
オラクル達が警戒をしながら様子を伺っていると、洞窟から現れた人影は、太陽の元へと顔を出した瞬間、手に持っていた丸い物体をオラクル達へと放り投げる。
オラクル達は臨戦態勢を取り、構えたが、その放り投げられた物体は彼らの横をすり抜け地面へと転がった。
「・・・・!!!」
物陰から顔を覗かせていたアデルのその目に飛び込んできたのは、少し前アデルに干し肉を分けて会話をしていた髭面の冒険者ジンの生首だった。
「お‥じさん‥」
転がった物が、仲間の生首だと知ったオラクル達冒険者は、一瞬の動揺を見せたが直ぐに立ち直り、
「敵だっ!戦闘準備」
流石、手練れの冒険者、素早い動きで攻撃体制を整え敵へと視線を向ける。しかし、そんな冒険者達を上回る敵の存在がそこにはあった。
その相手は、洞窟の入り口から出ようとした瞬間、姿を掻き消し次に現わしたのは杖を持った魔法使いの背後、魔法使いの胸からは心臓を握った鷲の手の様な腕が突き抜けていた。
鷲の頭、蜥蜴の様な肌の体、太い腕の先には鷲の爪先、リザードマンの様な鱗の脚と尻尾を生やしていた。
「デーモン‥」アデルは、師匠の元で読んだ書物に有ったモンスターの名称を呟く。
デーモンは、魔法使いの胸から腕を引き抜くと、手にあった心臓を握り潰し、表情のない顔だが誰もがその表情が笑っているのを見て取れた。
「不味い!みんな、個々に応戦しつつ退避」
オラクルは、敵の実力を瞬時に分析し、最適な行動を指示する。
だが、相手が悪かった。デーモンは、一刀の元に次々と冒険者達を切り裂き屠っていき、気が付けば立っているのはデーモンだけとなっていた。
アデルは、目の前で起きた惨劇を、ただ呆然と眺める事しか出来なかった…
しかしその惨劇は、それで終わりではない。その後、洞窟から数体のデーモンが出てくると空へと飛び上がり四方八方へと飛び去る。
暫くしてデーモン達が洞窟の入口にへと舞い戻って来ると、その手は血にまみれ、いくつもの兵士の生首が掴まれていた。
アデルがその光景に体を震わせ、身動き出来ないでいると、洞窟の中から男の声が聞こえてくる。
「素晴らしい、素晴らしいぞベクトル。この力があれば、街を落とすなど容易い。いや、国だって手に入るぞ」
歓喜の声をあげながら黒いローブの男を連れ添い現れたのは、黒い革のレザーメイルに身を包んだ盗賊団の首領ギャルソンである。
ローブを被り細かい表情を読み取ることは出来ないベクトルは、
「ギャルソン殿が望むならば、それも可能でしょう」
と、寒ささえ感じる低い声のトーンで語る。
すると、そんな2人を追い掛ける様に洞窟から少年が飛び出して来る。
「ギャルソン様、あれはいったい何なのです」
ギャルソンは、歓喜に満ちた顔でジルバへと振り返る。
「なんだジルバ、見て分からぬか、この素晴らしい力を」
ジルバは、生首を足元に転がし腕から血を滴らすデーモン達に視線を向けてから目をしかめる。
「この化け物達は何なのですか?こんな化け物を使っていたら、女子供はおろか罪のない人々も殺してしまいます」
ジルバの叫びにギャルソンは、面倒そうな顔をして「何を言っている、この者達はお前のよく知っている仲間達ではないか」と言葉を吐き捨てる。
ジルバは、ギャルソンの言葉を理解するのに数秒の時間を有し、改めてデーモンを凝視する。
すると、1匹のデーモンの首に見覚えのあるペンダント「あれは‥」
ジルバはギャルソンに向き直り「まさか…あなたは仲間を…」
ギャルソンは、嬉しそうにジルバへ言葉を返す。
「そう、あれらは全て我らの仲間だ。皆に力を与えてやったのだ。お前も望むなら力を与えてやるぞ」と、言って高笑いをする。
ジルバの顔は青ざめ言葉を失う…
そして、奥歯を噛み締めてから、ギャルソンを糾弾する。
「あなたは何をやっているのか分かっているのか!仲間を犠牲に力を得て、それでいいのか。俺は、認めない」
ジルバの言葉にギャルソンは、興ざめし。
「俺様に歯向かうのであれば、お前にもう用はない。所詮、騙されて付いてきただけのガキは使い物にならなかったと言うことだな」
ギャルソンの言葉にジルバは喰って掛かる。
「なにっどう言う事だ」
「分からぬか?ならば教えてやろう」
ギャルソンは楽しそうにジルバへと語る。それはジルバがギャルソンの仲間になった時の話である。
ジルバがまだ幼かった時、ジルバは両親を失った。ジルバの父は、城使えの兵士で日夜、国の平和を願って仕事をしていた。そんな父をジルバは自慢に思いながら育つ。
そんなある日、悲劇は起こる。
ジルバの家族は、城の近くにある村で暮らしており、その日は父親が非番の日で家族3人過ごしていた。それは夕暮れ、突然村を魔物の集団が襲ったのである。
ジルバの父親は、母親とジルバを必死で庇い、逃がしながら魔物の手に落ちた。ジルバと母親は村外れまで落ち延びたのだが、追っ手の魔物に見付かり、母親はジルバを切り株の隙間に押し込むと、魔物の気を引きながら森へと消えた…
切り株の中で怯え隠れるジルバ。そのまま一夜を過ごし、日が辺りを照らす頃、隠れていた切り株から出て恐る恐る村へと戻る。
村は静まり返り、焼け落ちたり崩れ落ちた家々の周りには、無惨な村人の亡骸が転がっていた。
ジルバは自分の家があった場所へと戻る。そこには崩れ落ちた我が家と父親の亡骸が見るも無惨に存在した。
ジルバは父親の亡骸の傍で、ただ泣くことしか出来ずにただ座り込むのであった。
数時間が経ち、太陽が頭上に昇る頃、座り込むジルバに語り掛けたのが、盗賊団首領ギャルソンであった。
ギャルソンは、今回の魔物の暴走は、勇者の1人である『精霊使いのアリサ』が原因であると教え込み、復讐したければ付いてこいと、ジルバを盗賊団に誘ったのであった。
「お前の家族を襲った魔物達は、我等の主導者であった方が城を攻め落とす為に用意した兵隊だったのだ。お前の村がたまたま進行途中にあったので、滅ぼされたに過ぎぬわ。しかし、憎き勇者共のせいで計画は失敗に終わり、我等が逃げていた時にお前を拾ったと言い訳だ」
ジルバは、ギャルソンの話を聞き終わった時、怒りに歯を食い縛り口元から血を流しながら剣の柄を握り締め「お前だけは決して許さない」と言うと、剣を抜きギャルソンへと斬り掛かる。
ガギッ
ジルバの剣はギャルソンの前に立つデーモンに刀身を掴まれ止められる。
次の瞬間、ジルバの手から剣は放れ、ジルバは数メートル後方へと蹴り飛ばされた。
踞るジルバを見下ろしながらギャルソンは「その目、その姿、実に傑作だ。絶望を感じながら死ぬがよい」と、最後の言葉を吐き捨てるであった‥
仕事も少し落ち着いたので、少しずつ書いて行きます。次回は、2、3日の内にお送り出来る予定です。