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勇者達[亜理沙の胸騒ぎ]第16話

アデル  妖精の森で亜理沙が助けられた精霊使い


ジェラルド伯爵 ペルソタの街を統治するラズベ ルク侯爵に次ぐ貴族


ジルバ 盗賊として修行する少年


「おはようございます」

「おはよう、夕べはぐっすり寝れましたかな」

「はい、ぐっすりと休ませてもらいました」

「それは良かった。さ、さ、座って座って」


 亜理沙とアデルは、ジェラルド伯爵の屋敷にある食堂へと赴き、先に着席していた伯爵に迎えられ、席へと着いた。

 食堂には、ジェラルドとその奥方と見られる綺麗な女性、その隣に10代半ば程の少年の計3名が席に着いていた。テーブルには既に、朝食としては豪華な食事が並べられ、アデルのお腹が叫び出す。


「さぁさぁ、お話は食べながらにして、先ずはいただきましょう」

 奥方と思われる女性が、アデルのお腹の音に気を使って食事を薦める。

「もぉ~アデルったら」

「へへへ」


 亜理沙とアデルが席に着き、直ぐに食事が始まる

。そして食事が始まり少し経った頃、御礼の言葉と供にパスティーニ家の自己紹介が始まった。

 綺麗な中年女性は、ジェラルドの妻でミラル・パスティーニ、そして、少年はジェラルドの長男でエリウッド・パスティーニ15歳。昨日、誘拐未遂にあった子供は、ジェラルドの次男でフォーデル・パスティーニ4歳である。フォーデルは、昨日のショックもあり、部屋で祖母が介抱して寝かしつけているそうだ。


「ところで2人はペルソタへ、仕事か何かで来たのかね?」

 ジェラルドの質問に、口一杯食事をしているアデルに代わり亜理沙が話をする。

 亜理沙は、仲間を探す旅をしているのだけど、モンスターに襲われ荷物を失い、アデルとその親の世話になりここまで来た事、それと昨晩押し入ってきた盗賊の(ねぐら)を見付けたので、冒険者ギルドに報告したことを説明した。


「なるほどな、盗賊の件は私からも協力するので、率先して取り組むように働き掛けておこう。盗賊の件が片付いたら、アリサ殿の人探しの件、協力させてもらうよ」

「ありがとうございます」

「いやいや、礼を言うのはこちらの方さ、盗賊の件は、言わば私の仕事であるのだからな」


 亜理沙とアデルは、ジェラルド邸で朝食後も寛ぎ、そののち冒険者ギルドへと赴いた。その際、冒険と旅に必要な装備と足りない物を揃える資金をジェラルドに断る事も許されず渡されるのであた。


「なんか得しちゃったね」

 アデルは、ニコニコ顔でギルドへの道のりを歩く。

「そうね、困ってはいたので助かったけど、あまりお世話になりすぎるのもちょっとね」

 亜理沙は、苦笑い気味な表情で答えるのであった。











「やれやれ、こんな朝っぱらから面倒な事だ」


 昨夜の襲撃犯である盗賊達を、ジェラルド邸から留置場を完備する警備駐屯所まで、ジェラルドの指示で警備兵が移送していた。

 ペルソタの街は、アルビス大陸の北東に位置する王国、カザミカリアの領土にある街で、ミラルド・ラズベルク侯爵が統治している。ペルソタの街を守るのは、ミラルド侯爵に仕えるカザミカリアの兵士であり、街の警備だけでなく警察の様な役割もはたしている。


 兵士が、ジルバ含む盗賊達を縄で縛り、駐屯所まで連れて歩いていると…



 シュッ シュッシュッシュッ


「ぐぅあぁ」

 数本の弓矢が、兵士達を襲う。

 何本かの矢が兵士に当たり、5人居た兵士の内3人が負傷する。

 人通りの少ない道で朝方と言うこともあり、辺りには人の気配がない。そこへ現れた4人の盗賊が剣や斧を振り上げ襲い掛かり、負傷しなかった3人の兵士が迎え撃つ。兵士と盗賊が斬り合っている最中、盗賊の1人がジルバ達の手枷を外し、多勢に無勢の体制で一斉に襲い掛かってきた。

 その場に居た兵士は、(ことごと)く倒され、ジルバ達はその場から姿を消したのであった。











 亜理沙とアデルが、冒険ギルドに到着した頃、その一報は届いた。


 【街中で衛兵5人が盗賊を移送中、何者かに襲われ惨殺、捕虜の盗賊も取り逃がしてしまう】


 盗賊の仲間が救出に来たことは、誰の目にも明らかだが、それが街中だったと言う事に衝撃が走った。街中に容易く盗賊の侵入を許してしまった事にである。事態は更に重く見られ始めた。


 既にジェラルドからギルドへは指示が出ており、亜理沙達がギルドへ到着するとすぐ、ギルド長の部屋へと通される。そこには、立派な髭を(たずさ)えた大柄な中年の男が立っていた。


「初めましてだね。私がここのギルド長【ジェローム】だ、宜しく頼む。君達の事は、ジェラルドから聞いているよ。私とジェラルドは、昔からの友人で供に冒険にも出たことがある仲なんだ」

 ジェロームの挨拶が終わると、部屋のソファーを勧められ、2人は腰掛ける。


「先程聞いたのですが、捕虜の盗賊が逃げたとか」

 座って早々、亜理沙がジェロームに問い掛けるとジェロームは渋い顔をする。

「そうなんだ、情けない事に街への侵入を許してしまった。その事から住民への不安を解消する為にも、早々に盗賊達を討伐しなくてはならない」

 そう言って席を立ち上がると、ジェロームは自分の机の上にあるペルソタの街周辺の地図を広げる。

「君達が見付けたと言う盗賊達の住処の場所を教えてくれないか?まずは、上位ランクの冒険者をその住処に送り込み、それと同時に街の兵士を周囲に展開させて一網打尽にしてしまおうと考えている。既に冒険者の手配は済んでおり、兵士の準備もジェラルドの方が進めている筈だ」


 亜理沙とアデルは、ジェロームの広げる地図を見て顔を見合わせる。

「ジェロームさん、この地図を見てもこの辺の地形に詳しくないので、大体の場所しか分かりません。もしよかったら、私達も道案内としてこの討伐に参加させて貰えませんか?」

「いや、しかし…かなりの危険を伴うクエストになるぞ」

「はい。ですから、道案内としてで結構です」

「うーん‥」

 ジェロームは、暫く考え込む。


 亜理沙としては、危険を伴うこのクエストにアデルを連れて行きたくはないのだが、どうしてもジルバ少年にもう一度会って話をしたかった。その為には、道案内だけと言う約束でこのクエストに参加し、アデルに危険が及ばないようにしながら、討伐に紛れ込みたかったのだった。


「よしっ。では、道案内を頼む事にしよう。しかし大事なジェラルドの客人、危険のないように頼むよ」

「「はいっ」」


 こうして盗賊討伐のクエストは、始まろうとしていた。











 ここは盗賊団首領ギャルソンの部屋。部屋の主であるギャルソンとその傍に黒いローブの男が居た。


「おいっベクトル。お前の言う通り、ジェラルドの息子を拐おうとしたが失敗したじゃねぇか」

「それは、ギャルソン殿の部下が無能だったせいで、私の計画にミスはございません」

「くっ…しかし、今回は表だって動いたせいで、我々の存在が明るみに出た可能性がある。ペルソタの街を裏から支配しようとした俺の作戦が台無しだぞ」

「それならば一層(いっそ)の事、ペルソタの街を力ずくで支配したら宜しいのではないですか?」

「はっ、何を言っている。いくら小さくとも、カザミカリア王国の治める街、衛兵の数も強さも並みじゃねぇ。それにギルドの冒険者もいざとなりゃ街の守りにつく。どうやっても力じゃ敵わねぇ」

「ふっふっふ、もしその力に対抗出来る方法がある、と言ったらどうですかな」

「なに!」










「さあ、準備は整ったようだな」


 そこに集まったのは、冒険者でも中堅の強さを誇るシルバーランクやゴールドランクの者達でブロンズランクの冒険者も後方支援で参加しており、今回たまたま街を訪れていたプラチナランクの冒険者チーム『悪魔が恐れる者』も参加していて、強力な顔ぶれとなっていた。


 先頭を行くのは、今回の作戦とともにギルド長から冒険者達に道案内として紹介されたアデルと亜理沙であった。錚錚(そうそう)たる顔ぶれを前に、アデルは少し緊張気味で先陣をきっていた。


「みんな凄く強そうな人達だね」

 アデルが小声で亜理沙に話し掛け、亜理沙はアデルを可愛く見詰めて「フフ、そうね」と返す。

 オリハルコン級の冒険者であった亜理沙から見ても今回のクエストには過剰な戦力の冒険者達であったが、アデルを連れる亜理沙にとっては心強いものであった。況してやプラチナランクの冒険者まで居るのだ、何かあっても大丈夫だろうと高を括り油断していた‥



「アリサさん、アリサさん」

 亜理沙を呼ぶ声は女性のもので、街の門に差し掛かった辺りで聞こえて来た。

 亜理沙は、行軍する先頭を歩いている為、止まることは出来なかったが、速度を落とし亜理沙を呼ぶ者を待つ。すると、息を切らせながら冒険者ギルドの受付に居た女性が亜理沙に追い付いてきた。


「どうしたんですか?」

 亜理沙は歩きながら女性に声を掛けると、その女性は駆け足から歩みへと切り替え息を整えながら言葉を繋いだ。

「はーはーはー、実は、ジェラルド様からギルド長ジェロームに頼まれたアリサさんの人探しの件で、今朝、ギルドを訪れた旅の冒険者から有力な情報があるとの事で、その冒険者が街を去ってしまう前にアリサさんに会わせておきたいから、冒険者ギルドまで来て頂けないでしょうかとのことです」

「えっしかし‥」

 亜理沙は、驚きと嬉しさ、そして気不味さを態度と顔に出してしまう。するとアデルが亜理沙の背中を叩く。

「行って来なよ。こっちはオイラだけで大丈夫だからさ。心配すんなって、オイラは道案内だけして危ない事には首を突っ込まないからさ」

「でも‥」

 亜理沙が悩んでいると、後ろを歩く冒険者達が声を掛けてきた。

「おいおい、俺らがこれだけ付いて来ているんだ、心配する方が失礼ってもんだ」

「そうだそうだ」


 亜理沙は、申し訳なさそうな顔をし、

「ありがとうございます。用事が終わったら直ぐに合流しますので、アデルを宜しくお願いします」

「おう、しかし嬢ちゃんが戻って来る頃には、全部終わってると思うけどな。ははははは」

 そう言って亜理沙を送り出す冒険者達一行にお辞儀をしながら、足早に冒険者ギルドへと引き返すのであった。



 異世界と言うこの世界をあまくみていた自分に亜理沙は後悔する事を、この時、知るよしもなかった…










「ここでお待ち下さい」

 亜理沙は冒険者ギルドの中にある静かな部屋へと通される。暫く待つと扉の前に人の気配が…


 コンコン


 扉が開き現れたのは、ギルド長ジェロームを先頭に3人の見知らぬ冒険者、そして最後に扉から現れたのは、無精髭を生やしこの世界に馴染みきっている中年ともとれる野暮な戦士‥

「おっやっぱりお前か!」

「リュッリュウジ」

「久し振り‥‥‥



 数日ぶりとなる隆二との再開、亜理沙にとっては、数年ぶりともとれる気持ちであった。

 懐かしさを語り合い、現状の確認をお互いに取り合いながら、今後について話し合うのだった。


 隆二が組んでいたパーティーは、魔法使いのペジーニ男性、僧侶のロラント男性、狩人のマイヤー女性である。彼らは街から街を移動しながら旅をする冒険者で、元々は隆二を抜いた5人のパーティーだったそうだ。だが、前回のクエストで失敗して、壁役の戦士を二人喪ってしまい、命からがら近くのペルソタへ逃げているところで隆二と出会い、事情を聞いた隆二が新たな出会いがあるまでパーティーを組む事にしたそうだ。


 隆二は、自分の都合でさっさとパーティーから脱退する訳にもいかず、当面、亜理沙をパーティーに加え旅を続ける事にした。そこで亜理沙も一人でない事を伝えた時、アデル達の事を思い出し、まずは最初のクエストに参加してくれるように頼むのだった。


「俺は構わないが、皆はどうする?」

 隆二が亜理沙の突然のクエスト参加に対して、他のメンバーへ尋ねると、今はリーダー役を勤めるロラントが笑顔で答える。

「勿論、これからパーティーを組んでいく仲間が引き受けたクエストなら、私達も参加させてもらうよ」


 亜理沙は感謝の言葉を伝えるのであった。




 亜理沙は、アデル達と別れて2時間以上の時間が経過している事に気付くと、隆二達に頼み足早に後を追うのであった。


「そうかっはっはっは、アリサも大変だったな」

「笑い事じゃないわよ、突然こんな場所にまた連れてこられて。そりゃあ、前回よりは不安はないですけど、びっくりしてるんだから」

「そうだな、前回は只の現代人だったからな。しかし今回は、経験豊富な冒険者だから、何とか成りはするからな」

「まあね‥」

「それより、目的の場所はどのくらいなんだ?」

「半日も掛からない場所よ」

「そうか。しかし、それだけの戦力で行ったなら俺らが行く必要ないだろうが、アリサの連れが向かっているんだから、早く合流してやらないとな」

「そうね…」

「んっ、どうした?浮かない顔して」

「うっ‥うん。なにか‥」








 目的の森が近付くにつれ、亜理沙の胸騒ぎが現実となっていった。

 森の所々で煙が立ち上ぼり、森を囲んでいた筈の兵士の姿はなく、殺伐とした雰囲気だ。

 それを見た亜理沙達は、駆け足で森の入口まで来て辺りを見回す。近くには、さっきまで居たであろう多くの足跡や戦いに備える備品が残されていた。



 ガサガサ


 低い木々が揺れる音がし、全員が臨戦態勢をとる。


 ガサッ バタッ


 そこに現れ倒れ込んできたのは、街の兵士と思われる者で、背中から大きく出血していた。

「どうした?大丈夫か?」

「早く回復を」

 怪我をした兵士は、口を静かに動かし、

「あ‥く‥ま‥‥‥」

 そこで息絶えてしまった。


「いったい何が…」

 隆二が呟く。


「急ぎましょう」

 亜理沙の強張(こわば)った顔が不安に溢れるのであった…


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