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勇者達[夢から覚めると‥]第2話

 その日の夜、自宅のベッドで寝ていた志恩は、夢の中で清々(すがすが)しい気持ちを体験していた。

 綺麗な空気、小鳥の(さえ)ずり、優しい風、全てが大自然に抱かれた寝心地で… ただ、ちょっと背中が固くて痛いかな。


 そんな、瞼に朝日を感じながら寝ていると、不意にお腹への重圧を感じる。これはアサヒの仕業だな、と気付いたので無視していると、アサヒはお腹の上で跳ねながら騒ぎ出した。

「こらっ、起きろシオン!早く起きるのだ」


「五月蝿いなぁ」


 志恩はゆっくり目を開いたが眩しさで何も見えず、暫く光に目を慣らしていき、辺りがおぼろ気に見え始めてきたのが、理解に苦しむ、夢?


 志恩の目に見えた景色は、青空が目の前に広がり、辺りに大きな木々が立ち並び、空には太陽‥その隣に青い月?


 志恩は、もう一度、目を閉じるのだった。


「こらーー。ちゃんと目を開けて見んかい」


 アサヒが猫パンチで志恩の顔を叩きながら叫び、志恩は渋々、目を改めて開けた。


「んんー、やっぱり夢から覚めない…」


 自宅のベッドで寝ていた筈なのに…


 志恩は、体を起こし冷静に辺りを眺め、アサヒを抱き抱えて立ち上がった。


「シオン、もう気付いたであろう。そう、ここはアルビスじゃよ」


 何度も観た景色、何度も味わった朝の風景。

 そう、ここは(かつ)て志恩が暮らしていた世界、もう来ることも観ることもないと思っていた世界。


 「夢?幻?」志恩はアサヒに問い掛けてみる。


「残念だが、これは現実だ。そもそも私に魔法幻術(そういった)もんが効かんのは、シオンも知っておるだろう」


 ーー確かに、神獣(アサヒ)には精神干渉するような魔法も特殊能力もまず通じない。すると、ここは間違いなくアルビス大陸なのかーー



 志恩は、呆然と立ち尽くしてしまう。すると、どこからか風に乗って、馬の(いなな)きと人の叫び声が聞こえてきた。





「へっへっへ、今日は大漁だ。女、子供は生け捕りにして傷付けるなよ。野郎はいらねぇ、ぶっ殺してしまえ」


 2台の幌馬車を13人の荒くれ者達が取り囲み、手に武器を持って襲いかかる。幌馬車からは4人の武装した護衛の男達が幌馬車を守っているが、既に1人が殺され、残り3人も手傷を負っており、殺され掛けている。

 馬車の中には、身を寄り添いながら商人風の男や女、子供が震えながら1つに固まっている。


 馬車の外では、更に1人の護衛が殺され、残り2人も瀕死の状態だ。


 ガシャ


「へっへっへ、ほら、てめぇら降りろ」


 馬車の荷台が壊され、盗賊が乗り込む。そして、馬車に乗っていた人達を馬車の外へと降ろしていった。

 先頭の馬車から出されてきたのは、裕福そうな洒落た服装で着飾った男女の大人とそれに寄り添う男女二人の子供、それと動きやすい少し汚れた服を着る使用人風の少女1人。


 盗賊達が馬車から降ろされた家族連れの男と女、子供達を引き離す。

「あなた」

「パパー」

「旦那様」


「今日は大儲けだな。男は早く殺しておけ」


 盗賊の1人が家族の父親を馬車から引き離し、子供達が泣き叫ぶのを聞いて、笑いを浮かべながら剣を頭上に掲げ「死ねやぁー」、振り下ろす…


「ギャー、痛い、痛い、俺の腕が‥」


 誰もが目を瞑り、惨劇から目を背けたが、父親の断末魔は聞こえず、代わりに盗賊の叫び声が聞こえた。

 皆が目を向けると、父親を殺そうと振り下ろした盗賊の腕が綺麗に無くなっており、肘から先の剣を握っている盗賊の腕が地面に転がっていた。


 すると、何処からともなく男の声がした。

「もうちょっと早く着ければ良かったかな。でも、なんとかギリギリセーフだね」


「だっ誰だっ」


 声は馬車から降ろされ、残された女性や子供達の後ろから聞こえ、盗賊が振り返り見ると、そこには片手に剣を持った寝巻き姿の志恩が立っており、その足元には、盗賊の屍が転がっていた。


 馬車の先頭に居た、盗賊のリーダーらしき人物が、叫ぶ。

「何者だてめぇ。俺達相手にただで済むと思うなよ。お前ら、全員でそいつを殺せ」


 リーダーらしき人物の周りにいた盗賊達が集まり、志恩ににじり寄るが、後続の馬車を襲っていた盗賊達が集まってこない。

「おいっ、後ろの奴ら、聞こえないのか。こっちに来て手伝えっ」


 盗賊が叫ぶが、後続の馬車から姿を見せる仲間が一向に現れない。

 それを聞いていた志恩が、盗賊に喋り掛けた。


「後ろの奴らは来ないぜ、俺の相棒が相手をしてるからな」


 後続の馬車に乗り込んでいた盗賊達は、アサヒの魔法で既に倒されおり、残っているのは、先頭に居る5人だけとなっていた。


「くそっ、こいつ只者じゃねぇな。仕方ねえ、ここは引き上げるぞ」

 そう言って、生き残った盗賊達が、(きびす)を返し走って逃げ去っていく。


「盗賊をそのまま逃す訳にはいかないんだよ」

 そう、盗賊は生きていれば、また人を襲う。昔から、盗賊は皆殺しにしなければ、後でまた悲しむ人が出てしまうのだ。


 志恩は腕を前に突き出すと、大きく叫んだ。


『ファイヤーボール』


 すると、志恩の腕先から出現した大きな炎の玉が、逃げていく盗賊達に向かって飛んでいき、盗賊達の中心で爆発、盗賊達は弾け飛び、動かなくなった。


 危険が去った事を知った一行は大喜びをし、志恩に御礼の言葉を述べていった。


 襲われていたのは、商人を生業(なりわい)としているヤジルさん一行で、今回は隣町に住む親戚の結婚式に家族で参加した帰り道とのことだった。

 一時期、盗賊やモンスターの(たぐ)いは激減していたのだが、半年前に各地の冒険者や実力者達が一斉に空の彼方へ消えてからは、また人々の生活を脅かす類いが増え始めたらしい。


 半年前に消えた各地の実力者達とは、現代に戻った自分達の事だと志恩は推測し、その事から、志恩達がいなくなってから、ここと同じ時が流れたのだと実感した。

 この世界でお世話になった人達は、元気にやっているか懐かしさに心を馳せるのであった。


 助けたヤジルさん一行は志恩に御礼がしたいとのことで、この先にある自分達の住む町まで一緒に来て欲しいと言ってきた。行く宛もない志恩は、町までの護衛も兼ねて、同行することにした。


 一行が向かったのは、アルビス大陸の北西部にある町で[ルイドール]。人口は4,000人程で、首都と首都を繋ぐ貿易路の途中にある町として栄えている。農作業も盛んで葡萄の栽培もしている。それによって、ワインが名産として有名だ。


 志恩は馬車の中でこの世界が今どんな状況なのかなど、ヤジルさんに色々と話を聞き、情報収集をしながらの旅を続けた。






「ハクしょ~ん」


 男の側には小川が流れており、朝日に照され光輝いている。川縁の風は冷たく、男の体を冷していった。


「お兄ちゃん、この人生きてるよ」

「そうみたいだな、行き倒れかと思ったぜ。死んでたら、身ぐるみでも貰おうと思ったんだけどよ」

「どうする?放っておくの?」

「そうだな、取り敢えず起こしてみるか」


 2人の少年が川辺で寝ている男を起こそうと、男の体に手を伸ばしたその時、男の手が伸ばした少年の腕を掴んだ。


「うわぁぁぁぁ」

 手を掴まれた少年が、その場で尻餅を着いて転び、もう一人の少年が慌てて掴まれた少年の手を引っ張り返そうとする。


「なんだ、お前達は?ここはどこだ?」


 男は起き上がり、少年の手を放し立ち上がる。

 少年達は、突然手を放され、2人して後ろ向きに転がった。


 ジャージ姿のこの男、名を槙村隆二。そう、ここにも異世界に飛ばされてしまった仲間が居たのだ。

 少年2人は兄弟で兄はジャン、弟はジョシュア、年齢は10歳と7歳である。二人は近くにあるザクソン村で暮らす孤児で、両親は盗賊に殺されてしまって、今は二人で村の手伝いをして生活していた。


「ここは俺らの村の側の川原だよ。おじさんこそ、ここで何しているんだ?変な格好しているし、どこから来たんだよ」


 ジャンは弟と身を寄せ合いながら、隆二に言い返した。


「村?お前らの格好‥」

 そこまで言い掛け、空を見上げた。

「やっぱり、ここはアルビスかっ」


 空には太陽とその側には青い月、少年達は粗い布を簡単に縫っただけのシャツにズボンを着て、形のいびつな布の靴を履いていた。


 隆二は、少し考えた素振りをすると、少年達を上から覗くような姿勢で、

「おじさんは勘弁してくれ、俺の名前はリュウジだ。なぁ少年、お前達の村は近くなんだよな?そこに大人は居るか?案内してくれないか」

 そう言って、ニッと笑顔で両手を差出した。


「少年じゃないよ。俺はジャンでこいつが弟のジョシュアだ。リュウジは何者だ?何でこんなところで寝ているんだい」

 少年二人は、すねた様な笑いを浮かべ、リュウジの手を各々掴み立ち上がった。


「俺もよく分からなくてな、気が付いたらここに居たんだ。だから、この辺の事を少し知りたくてな」


 リュウジが困った顔で話しているので、少年達は、

「しょうがねぇな、村には沢山、大人は居るぜ。案内してやるよ。付いてきな」


 ジャンはジョシュアの手を取って、川上の方へと走って行く。リュウジは見失わない様に、小走りで後を追って付いて行った。



 リュウジは、ジャン達を見失いながらも、走って行った方向へと向かうと、小さな村が見えてくる。村の反対側が森へと繋がり、村の端から端まで見渡せる程度の村だ。


 リュウジが村の入口に到着すると、村の中程から何人かの大人が現れ、その手には(くわ)(なた)などを握りしめ近付いてくる。その後ろにジャンとジョシュアが付いて来ていた。


 リュウジの前方を塞ぐ様に大人達が広がると、その中から老人が進み出るとリュウジに話し掛ける。


「私はこのクルト村の村長カタルジャだ。そなたは何者で、何処から来なすった。この村へは何用じゃ」


 村長の質問に、リュウジは少し考えてから答えた。

「俺はファーラグーンの首都メクトスから来たんだが、ここはどの辺りなんだ?ちょっと記憶が無くてな」

 リュウジは、自分で言っていて怪しい事を言っていると、実感はしていたが他に上手い事も思い付かず、そのまま答えた。


 村長のカタルジャと何人かの男達が何やらヒソヒソと話し合っているが、リュウジは流石に怪しかったかと、少し後悔をする。

 そして、村長が改めてリュウジに話し掛ける。


「この小さき村でおぬしにしてやれることは何もないのじゃ、早々に立ち去って貰えぬか」


 村人が警戒する気持ちも分かる。リュウジは村人達を困らせるつもりは無かったので、それ以上強引な行動はせず、言うことにしたがった。


「わかった、立ち去る。だから、責めてここから一番近い町と向かう方向を教えてくれないか?」


 リュウジの言葉に大人達が少しためらいを見せると、それまで後ろで小さくなっていたジャンが前に進み出て来て、

「村長、リュウジをここまで連れて来ちゃったのは俺だから、村の外まで俺が連れて行って案内するよ」


 ジャンの言葉に、村人達は頷き合い「分かった、村の外までお前が連れて行き、見届けて来なさい」と、村長は言い、ジャンは「はい」と頷いた。




「ごめんな、にいちゃん。村のみんな、普段は優しい人達なんだけど、最近、ピリピリしててさ」

 ジャンがジョシュアと一緒に、リュウジを街道まで送りながら、申し訳なさそうに話し掛けた。


「いや、俺が怪しいのは、自分でも分かっているし、仕方ないさ。でも、どうして皆、ピリピリしているんだ?」

 リュウジが不思議そうに問い掛けると、ジャンが困った顔をした。

「それがさぁ。最近、村の近くに盗賊が住み着いたみたいで、街道で襲われた人が何人もいるんだ。だから、盗賊が村を見付けて、襲ってくるんじゃないかと怯えているんだよ」


「そうかぁ、それは心配だな。領主か誰かに助けは求められないのか?」


「うん、村長は何度かお願いに行っているんだけど、被害も出てないのに直ぐには動けないって言われたんだって」


「それは困ったな。被害が出てからじゃ遅いだろう」


「うん…」


 心配で元気のなくなるジャンとジョシュアを見て、リュウジは、どうしたものかと考えていた。


 暫くそんな話をしていると、村からの道は、大きな街道へとぶつかる。


「にいちゃん、ここをあっちに進むと半日位でペルソタの街に出るよ」


 ジャンの指差す方向を眺め、リュウジは頷く。

「そうか、南があっちでペルソタの街がそっちか、大体、今居る場所が分かったぞ。ジャン、ジョシュアありがとう。ペルソタの街に着いたら、君らの村の事を街の役人にお願いしといてみるよ」


 ジャンは少し笑顔を作り「サンキュ、頼むよ」と、軽い返事で応えた。まぁ、何処の誰とも分からない男のお願いを街の役人や領主が取り合うとは思えないが、自分達の為に言ってくれる親切に、子供ながら応えたのだろう。


 リュウジは、二人が見えなくなるまで手を振り、別れを告げた。


 リュウジが街を目指し街道を歩き始めてから小半時程経った頃、街道とは少し離れた場所を土煙を上げながら、騎馬の集団が走って行く‥その方向は、ジャン達の村の方向だ。

 集団をよく見ると、寄せ集めの様な甲冑や皮の鎧を纏った小汚ない身なりの集団である。リュウジの知る限り、そう言った集団は盗賊の集団とみて間違いないだろう。

 そして、その盗賊達が向かうのは、どうみてもジャン達の村だ。


 気が付くと、リュウジは盗賊の集団を追い掛け、来た道を逆に走っていた!



新たに跳んだ展開ですいません。本当はもっと後に書こうと思っていたのですが、少しマンネリの世界観を早目に変えてみました。

仕事の休憩中にコツコツ書いていきます。

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