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大人になって来たね!

志恩の1日は、まだ終わりそうにありません。


2018.5.9 誤字脱字修正 表現補足

 夏、真っ盛りの強い日差しの中、夏休みだと言うのに学校のまでの道のりを、自転車に股がり嫌々向かう志恩の姿があった。


 志恩は午後の約束の為、少し早く学校へ来ていた。


「ちょっと早く来すぎたかな?」


 まだ校庭では、運動部が午前の練習をしている様子が見えた。


「剣道部は確か体育館だったよな、ちょっと迎えがてら、練習風景でも覗きに行ってみるか」


 志恩は、軽い足取りで体育館の方へと向かった。


 志恩が体育館に近付くと、中から練習とは違う怒鳴り声や唸り声が聞こえてきた。


 志恩は何やら気になり、急ぎ裏の入口まで走り、中を様子を伺った。


 体育館の中では、剣道着を着た女子と‥あれは空手着?を着た数名の男子が何やら揉めている様子が見えた。


「時間で交代なんだから、場所を空けてください」

 剣道着姿の静香が、体格の良い空手着姿の男子に(ひる)むことなく抗議をしていた。


「うるせぇな!まだ練習で忙しいんだよ」


「ちょっと、早くどきなさいよ」


「あっち行ってろ、こっちは大会を控えてるんだ。女子のチャンバラごっこは、他でやってろ」


「確かに去年までは、人数も少なかったし、大会にも勝てなかったけど、今年は違うんだから!早く練習場所空けなさいよ、時間で交代だって決めてあるでしょ」


「俺ら空手部は、毎年全国大会出場校として忙しいんだよ。万年1回戦敗けの弱小剣道部とは違うんだ。チャンバラゴッコは外でやってろ」


 そして抗議していた静香とその傍に居た愛莉目掛けて、隣で組み手の練習していた空手部の男子が、組み手の防御で防ぎきれずその勢いのまま二人にぶつかってきた。


 静香と愛莉は男子空手部員にぶつかられ、そのままの勢いで後ろへと弾き飛ばされ、倒れ込んだ。


「いったーい!何すんのよ。」


「そっちが練習しているところに入って来たのが悪いんだろ」


「なんですって、場所も譲らないで、どこまであつかましいの」


「いたっ!」

 愛莉は足を抑えて座り込んでいる。

 転んだ時に(ひね)ってしまったようで、周りの女子部員が心配そうに駆け寄る。


 空手部員の男子は「はっ」と悪びれる様子もなく「邪魔なんだから、外で練習してろ」と捨て台詞は吐く。


「くっ、先生に言ってやる」

 静香は相手を睨みながら言った。


 しかし、相手はそんな言葉を気にも止めず「学校も活躍している部活が大事だよ!はっはっは」とあざ笑った。



 その時‥


「出てくのはお前達だろ」


 そんなセリフと共に志恩が現れスタスタと体育館の中を進み、倒れている愛莉を横目で一瞬チラ見をしてから、空手部の男を睨み、その相手へと詰め寄っていった。


「はあ?!誰だお前、部外者は黙ってろ」


 突然現れた私服の志恩に対し、空手部男子が睨み返す。


 志恩は、相手の正面に立ち、なに食わぬ顔で答える。

「一応、剣道部入部希望見学者ってところで、関係者には入るかな」


「はぁ?だからどうした!お前も痛い目に遭うぞ」


「口先だけの空手部だけあって、口は達者だね」


 相手の顔つきが変わり、怒りを(あらわ)にした。

「この一年坊主、教育が必要そうだな」

 その言葉に、何人かの空手部員が集まってきた。


 志恩は、空手部員が集まって来ても顔色一つ変えずに応える。

「何か教えてくれるんですか?だったら、立合で話を決めますか?」


 相手は顔をひきつらせながら、怒りを露にして「よく言ったな1年、試合場の真ん中に来いよ」と手招きをする。


 志恩は相手に誘われるまま試合場のセンターラインまで進み出る。まるで散歩でもしているかの様な軽い足取りで…


 それを見ていた剣道部の女子達は、驚きと心配そうな顔でその様子を見ていた。


「ねぇねぇ、あれって愛莉のお兄さんでしょ?」


「兄って言っても、同い年だけどね」


「お兄さんって、剣道とか空手の経験あるの?」


「ないと思うよ、この前それっぽいことは言ってたけど全然聞いたことないよ」


 静香は愛莉の腕にしがみつき、

「これって、志恩ヤバいんじゃないの!愛莉が怪我させられたから、怒って無茶なことしてるんじゃない?」


 すると、愛莉の手当てをしていた子が「先生か男子呼んだ方がいいよね?」と周りに促す。


 しかし、そんなやり取りをしている間にも、すでに志恩はセンターラインに立って体をほぐす動作をしていた。


「よーし。こんな一年坊主、俺が一撃でのして、上級生への態度ってヤツを教育してやるぜ」

 そう言って出てきたのは、2年生で胸に山田と書いた190センチはあろうかと言う大きな選手だった。


 気が付けば、いつの間にか試合が始まる体制が整い、志恩と山田は向かい合う。審判役の男子が二人の間に立ち試合開始の合図を出すため手を上げようとしたその瞬間、「始め」の合図が掛かるのも待たず山田はその巨体から腕を志恩目掛けて振り下ろして来た。


「ずるいっ」


「危ないっ」


 そんな言葉が志恩の耳届いた時には、志恩は相手の振り下ろされる拳を受け流しつつ腕を掴み、勢いをそのまま拳の進行方向へ腕を引っ張り、相手は腕を伸ばした方向へ体制を崩し前のめりになる。その隙を見逃さず、志恩は相手の膝裏(ひざうら)に蹴りを入れた。

 相手は曲がりかけた膝裏を蹴られたことにより、一気に膝が曲がり、前のめりに倒れ、両膝を床に着き、両手を前に着いて倒れ込んだ。


まるで土下座をしている様な姿勢になって…


「はい、土下座してちゃんと謝ってね」

 志恩は、愛莉の方を向いて笑いかけた。



 その背後では、土下座姿勢のまま、怒りに頭から湯気をだしながら、熊!もとい、山田先輩が飛び起きた。


「こぉーのクソガキーただじゃおかねぇぞー」


 周りの空手部員も流石に不味いと山田を止めようするが、山田に手を触れた瞬間、ことごとく弾き飛ばされていく。


「あらあら」

 志恩は呑気にその光景を眺めながら、傍観していた。


 山田は志恩に接近し、両腕で掴まえようとしたが、志恩はするりと山田から伸びる腕から逃げた。


 すると今度は激しい正拳を右、左と次々応酬してくるが、志恩は軽やかなステップで、右へ、左へとかわし続ける。


 攻撃の手を止めない相手に志恩は「オーガに比べたら、大したことないね。でも、そろそろ終わらせないとな」などとよそ見をしながら口にしていた‥


 と、その時!


「キェーーー」


 二人に駆け寄る影。


 そして走り込んで来た者から繰り出される鋭い横蹴りが山田の腹にめり込む。


 山田はお腹を抱え、その場に沈んだ。


 沈んだ山田の傍に立って居たのは、整頓な筋肉の付いた体を持ち、鋭い眼光を放つ学生服の男。


「「部長!」」

 空手部員達が声を揃えた。


 そこに居たのは1年の志恩でも、名前だけは知っている。空手部主将青木拳児3年生だった。


 学校の裏番長とも言われ、空手の全国大会で個人優勝するなど当校生徒なら入学前から知らない人はいないほどの有名人である。


「お前ら!これはどう言うことだ」


「「「すいません」」」


「そこの一年坊主が俺らを挑発してきたもので、立合で指導をしていたところでして」


 それを聞いていた静香が横槍を入れる。

「違います~そっちが意地悪してきたんでしょ」


 空手部の男が少し焦りを見せながら静香に唸る。

「うるせぇーこのブスどもー」


「バカモンが!」

 空かさず青木の渇が飛ぶ。


「「「すいません」」」


「大会前に何か不祥事でも起きたらどうする。それに、素人相手に空手を使うなど、弱い者いじめみたいな真似をするなっ」


 それを聞いて静香は言い返した。

「まぁあ、弱い者いじめって‥そもそも女子相手に喧嘩売る空手部の方が、軟弱なんじゃないですか?」


「ふっ、闘いに武器を使う剣道など、格闘技ではない!ただのチャンバラ遊びだ!それを弱い者と言って何がおかしい」


「なっなんですって、偉そうに」

 静香は頬を膨らませながら、不満顔を露にする。


 そんな静香を無視し、青木は志恩に視線を向け「だが、そこの1年はそこそこ出来そうだな」と言って、志恩を指差す。


「どうだ、俺と手合わせしてみるか」


 志恩は、周りをキョロキョロして自分の顔に指を指し「えっ俺っすか?」とあたふたする。


「そうだ、先程の動きを見ていたが少しはやるようじゃないか。お前は剣道部なのか?」


 青木の質問に、志恩は惚けた顔をしてから、

「えーっと、正式に剣道部って訳じゃないですが剣道部見習い、って感じですかね」


「それならそれでいい。お前は竹刀を使って剣道で来い、俺は空手で相手をしてやる。お前ら、場所を空けろっ」


「「うっす」」


 勝手に話を進めて、なんか面倒なことになってきたな~と、志恩はため息をついたのだった。



 志恩は、渋々竹刀を借りに愛莉達の元へ。


 愛莉は心配そうな顔で、志恩に話し掛ける。

「ねぇ志恩、剣道やったことあるの?」


 すると、志恩は照れ笑いをしながら「授業で中学の時に少しね」と答える。



すると‥


「「はあぁ~?」」

 愛莉と静香に声を揃えて呆れられた。


「無茶だよ!相手は主将の青木先輩だよ」

「そうだよ、謝って許してもらいなよ」


 そんな2人の言葉に「別に悪いことした訳じゃないし、どちらかと言えば向こうが悪いんだから、謝る必要なんてないじゃん」と気にした様子もなく志恩が言う。


「そうじゃなくって‥」

 最後まで言い終わる前に、志恩が口を挟み、

「大丈夫、なんとかなるよ」


「なんとかって、そんな相手じゃないでしょっ」


「じぁあ、ちゃちゃっと終らせてくるよ」


「ちょっとーーー」


 話を適当に切り上げ、志恩は愛莉達に背を向けて立つ。


 そして、志恩は竹刀を片手に青木と向かい合った。


「なんだ?お前のその構えは」


 志恩は竹刀を片手に持ち、両腕を開く形で構えに入った。


「構えにルール違反はありましたっけ?」


「知るかっ!なんでもいい、それでいいなら俺からいくぞ」


 青木は志恩との間合いを詰めると、姿勢を屈めて素早い足払い。

 志恩はバックステップで後ろへ軽くジャンプし、かわす。

 そして、志恩は着地と同時に前へ飛び込み竹刀をうち下ろす。

 飛び込み面。

 青木は横へ転がり竹刀をかわし、直ぐ様、立ち上がり上段回し蹴り。

 志恩はお辞儀をする姿勢で蹴りをかわし、そのまま下から斜めに振り上げ、胴払い。

 青木は苦しい姿勢でなんとか後ろへ飛んだ。

 紙一重でかわしたが体制を崩し、片膝を着いく。

 志恩はその隙を見逃さず、勝負を決めに踏み込もうとした‥


 その時‥


「あなたたち、何をしてるんですかー」

 志恩は、その声に動きを止める…


「もう、部活終了時間ですよ。業者さん来ますから、速やかに下校しなさい」

 先生の声に志恩は竹刀を下ろし、青木は「ちっ」とゆっくり立ち上がる。


「先輩、この辺で許してもらえますか?」

「くっ。お前、何者だ?」

「ただの一年坊主です」

「この次は容赦しないからな」

 いやいや、もう出会いたくもないよと、志恩は心の中で叫んでいた。




 先生が来たあと、すぐに業者の人間も体育館へ入ってきて、そこに居た生徒達はみな、解散していった。


 志恩は愛莉の元へと駆け付け、声を掛けた。

「愛莉、大丈夫か?」

「ちょっと足が痛いかな」

「立てるか?」

「立てるけど、歩くと凄く痛い」


 すると、女子剣道部の上級生が志恩と愛莉の側に来て、

「志恩くんだっけ、妹さんを保健室まで連れてってあげて」


「俺?」

 志恩が、自分の顔を指差していたので、静香が志恩の背中を叩き、

「当たり前でしょ。男子はあなた1人しかいないんだし、それに兄妹でしょ」


 そして、静香は周りを片付けながら「愛莉の荷物は片付けておくから、早く連れてってあげて」手を振る。


「うぅ~そうだよね。了解。さっ愛莉行こうか」


 志恩が往生したようで、愛莉に手を差し伸べると‥


「うん。は~~い」


 愛莉は立った姿勢で両手を前に伸ばしている…


「はーいって、何してるの?」

 志恩は、愛莉をじっと見て突っ込む。


「歩けないんだから、おんぶに決まってるでしょ?」

 愛莉は、なんの躊躇いもなく、当たり前の様に答える。


「決まってるって、誰が決めたの?」

「早くー、今、私が決めたんだから、拒否は出来ません」

 愛莉は腕をバタバタさせながら頬を膨らます。


「なんでそうなるの?」

「ぶつぶつ言ってないで、はーやーくー」

 志恩は、話の進まぬ会話を諦め、愛莉の傍で背を向け、そして、志恩は愛莉を背負い、保健室へ歩き始めた。


 志恩に背負われながら、愛莉はニコニコしている。

「ねぇ志恩」

「ん?」

「志恩は、私が怪我をしたから怒ってくれたんでしょ?」

「ま~兄としては当然だな!」

「ふぅ~~ん、でも、志恩があんなに強いって知らなかったな」

「まぁね!、素質はあるから、ちょっと習えばあんなもんさ」

「そうなんだ?でも、志恩が来てくれて嬉しかったよ」


 愛莉は志恩の肩から腕を首に回し、ギュッとしがみついた。


 いやはや、汗ばんだTシャツ越しに背中に当たる‥何が?何かが!

兄妹と言っても、精神的には15年も会ってなかった訳だし、大人な俺には、精神的ダメージ半端ないよ…なはは‥


「ねぇ~お兄ちゃん」


 おっお兄ちゃん?!突然の言葉に志恩はドキッとする。


「私も成長したでしょ~」


「なっなにが!」

 志恩は、ちょっと口ごもってしまった。


「色んな、と・こ・ろ」

 耳元で愛莉は小さく囁いた。


「けつの青い子供が、何を言ってるんだか」

 ふんっと言葉を誤魔化すが、鼻の下を伸ばしながら下を向いていた。


「まぁー失礼しちゃう、お尻だって青く無いですよ。今度お風呂で確認してもらいますからね」


「はいはい、今度悪さして、お尻ペンペンするときにな」


「もぉ~志恩のバカ」


 そんな会話をしながら二人は保健室に向かうのだった。



 志恩は愛莉を背負いながら保健室に近付いて来たとき、静かに口ずさむのだった。


『ファミリアルフレッシュ』




4、5部と一日の出来事なんで、早目に区切って書いていきます。

まだ、1日は続きます。

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