ミラクル・グッバイ その8
読み直ししてないので、近日中に誤字脱字の確認をします。
志恩と真里亜は、交通事故の処理を早々に済ませ[ここでも葛城警部補に来てもらい身元引き受け人になってもらった]シスターの勤めている教会へ、3人で一旦引き揚げた。
「先程も交通課の警察官には言ったけれど、改めて自己紹介しますね。私はこの教会で臨時のシスターをしている、早乙女真里亜です。普段は近くの保育園で保母さんをしてるのよ」
真里亜は首をかしげ、舌を出して頭をコツンと叩き、可愛い子ぶったポーズを取るが、それを見ている志恩の視線は冷たい…
〓ここで先に説明して起きますが、早乙女真里亜は勇者一行の最後の1人で、格闘の出来る僧侶、そうモンクなのです。そして現在の年齢が29歳、と言うことは、シオンと最後に冒険をしていたときは、44歳だったと言うことになります〓
「やだぁ~シオンくん、冷たい目で私を睨まないでぇ~」
「・・・んっうぅん。えっと、俺は甲斐志恩、高校生で今日は買い物に来た帰りだ」
二人の元気なやりとりを見ていた少女は、呆気に取られ只、見ていただけになっていたが、二人が自分の方を黙って見ているのに気が付き、下を向いてしまった。
真里亜は、少女の背中にそっと手を添え「大丈夫、みんなあなたの味方だから」と優しく呟いた。
すると少女は顔を上げ、帽子を取りマスクを外し、自分の姿を見る二人の表情を睨み付けた。
彼女の顔は1/3が爛れて傷付き、頭皮も火傷を負っていて、突然見せられれば、普通の人であれば一瞬動揺してしまう。
しかし、志恩や真里亜にとっては、異世界で、もっと傷付いた人を見たり、もっとおぞましい化物と戦っていたのである。多少傷を負った人の顔で驚いたり、軽蔑したりすることなど微塵もなかった。
そんな微動だにしない二人の顔を、少女は逆に驚いてしまうのだった。
「お二人は、私の顔を見ても驚かれないんですね」
「「なぜ?」」
志恩と真里亜は、ハモってしまい顔を見合せた。
「だって、こんな顔だし…」
俯いた少女に、
「別に顔なんて気にしないよ。それより、君の名前は?」
今まで彼女の顔を見た人は皆、驚きと同情、恐れと嫌悪しか抱かなかった。しかし、この二人は揃ってそんな感情を欠片も見せず、普通の人と話している様に、ただ名前だけを聞いてきたのだ。
「フフフ、ごめんなさい、ちょっと可笑しくって」
「「??」」
今度は志恩と真里亜が、キョトンとしてしまった。
「えっと、改めまして、私の名前は川原由依16歳です」
「なんですってぇ~!私に内緒でクリスマスパーティーだなんて、志恩、酷すぎますわっ」
麗香は携帯を置くと暫く考え、ポンッと手を叩くと、電話を掛け始めた。
「もしもし、お父様。ちょっとお願いがあるんですが‥」
愛莉は自宅のリビングでリサと佳澄の3人で、風変わりな女子トークをしながら、ティータイムを楽しんでいた。
「佳澄さんて、そんなに綺麗なのに、全然遊んだりしてないですね」
愛莉の言葉に佳澄は、自分の顔を触りながら「綺麗?私が‥」と呟き、不思議そうな顔をしていた。
「愛莉ちゃんだって、テレビに出たら間違いなく人気が出る程の美人顔だよ!今度、私の妹分ってことで、デビューしてみたら」
リサは面白そうに、愛莉に言ってみる。すると愛莉は、顔を少し赤らめながら、
「やっやだ~リサさんたら、テっテレビだなんて…どうしよう…もし、人気出ちゃったら…志恩はファンになるかな…忙しくなったらどうしよう…」
愛莉は、1人ブツブツと世界に入ってしまい、リサは「アハハハ」と、困り顔でコーヒーカップを手に取るのだった。
ーーそれにしても、シオンの奴遅いなぁ~、折角私が来ているんだから、早く帰って来なさいよ!ーー
リサは内心不貞腐れていた。
「そうだ」リサは、突然声を上げ立ち上がった。
「ねぇねぇ、愛莉ちゃん。愛莉ちゃんのお部屋見せて欲しいなぁ~」
「いいですよ、そんな変わった部屋じゃないですけど。でも、自分の部屋にリサさんが入るなんて、すっごく感動です」
リサの希望で愛莉の部屋へと向かう3人。
そして3人が愛莉の部屋の前まで行ったとき、リサが隣の部屋の扉を見つめ…
「隣って志恩の部屋?」
「そうですよ」
「へぇ~ちょっと覗いてもいいかな?エッチな本とか出てきたりしないかな」
「別に構わないですよ、大した物もない、結構殺風景な部屋ですよ」
リサは志恩の部屋のドアノブをゆっくりと回し、扉を開けた。そして、1歩部屋の中へと足を踏み入れる。
ーーあぁ、ここで彼は人生を紡んで来たのねーー
次の瞬間、リサは徐に志恩のベッドへ倒れ込み、枕に顔を埋めて沈黙する。
そんなリサの行動を、愛莉は呆然と眺めてしまい、『リサさん、あなたはいったい‥』と、心の叫びを押し殺していた…
ガチャッ 「ただいま~」
愛莉とリサは、ビクッっと正気に戻り、直ぐに玄関へ降りて行くのであった。
教会で志恩、真里亜、由依は話込んでいた。
話している内に分かった事は、どうやら由依は佳澄の妹のようだ。そして、由依の引き取られた親戚が突然亡くなってしまい、施設に送られそうなところに佳澄が姿を現し、由依を引き取り育ててくれている。
「なるほどね。それで、由依ちゃんは学校へは行ってないの?」
志恩の質問に、由依は少し辛そうな顔をし、俯いた。
「ごめん、何か嫌な事を聞いちゃったみたいだね」
志恩が謝ると、由依は頭を左右に大きく振り。
「うぅぅん、そうじゃないの。私も学校へは行きたいけど、この容姿と足だと、なかなか受け入れてくれるところがないし、学校へ行っても、イジメとかで辛い思いをするから… だから、お姉ちゃんも学校へは行かなくてもいいよって」
「そっかぁ」
志恩は由依に掛ける言葉が、思い浮かばなかった。
「だけど、ここ数日、お姉ちゃんと連絡が取れなくって、前からたまに怪我したりして帰ってくる事もあって、凄く心配で神様にお姉ちゃんの無事をお願いしてたの」
志恩は、由依と話をしていく内に、佳澄に何があったのかが、朧気に見えてきた気がするのだった。
「そうだ由依ちゃん、今日このあと、俺の家に来ないかい?会って欲しい人が居るんだよ。勿論、このお姉さんも一緒だから、心配はいらないよ」
急に話を振られた真里亜が「私も?」と驚いていたが、「当たり前だよ」と志恩が言った。
始めて会った男の家に、少女1人を行かせる訳にはいかないだろう。それに、久々に真里亜に顔を見せたい人も居るし。あと、由依の車椅子の修理に明日まで掛かるので、自由に動けない由依にとっては、都合が良いのではないかと言う配慮であった。
真里亜は神父様にお伺いしてくるとその場を離れた。
「あのぉ~」
由依が恥ずかしそうに話掛けてきた。
「なんだい?」
「私、着替えとか何にもなくて、1度帰った方がいいかと」
「なんだ、そんなことなら心配無用だよ。家には由依ちゃんと同じ年の妹が居るから、貸してあげるよ」
「でっでも‥こんな私に、洋服を貸すとか‥嫌がるんじゃないですか?」
「おいおい、俺を見て思わなかったのかい?俺の妹が、そんなこと思ったり、況してや言ったりなんてしないよ」
「は…はあ」
「お待たせ、神父様が今日はいいから、一緒に行ってらっしゃいって。全ては神の御心のままにってさ」
「よっしゃっ!では、いざ、我が家へ…」
愛莉が階段を降りながら志恩の姿を見たとき、足を踏み外し、ドッドッドッ、三段ほど階段を落ちる。
「なっなに?」
愛莉の言葉に、
「えっへっへ」
と、志恩が照れ隠しの様な顔をしていた。
志恩は、女の子を背中におんぶをして、その後ろにはナイスバディーなシスターを伴っていた。
愛莉は、呆れながら「遅い、何やってたの」と、怒鳴り始めたその時、愛莉の言葉を遮り、
「由依!」
佳澄が愛莉を押し退け、志恩の元へと駆け寄る。
「おっお姉ちゃん!」
志恩におぶさった少女も驚きの声を上げていた。
更に階段上から降りてきたリサが、
「マリア!」
その声に、シスターは顔を上げて階段から降りてくるリサを見て、
「アリサ!」
と驚きの声を上げ、その真ん中で愛莉は、訳が分からず、キョロキョロとするしかなかった‥
リビングで全員一度座り、お茶を啜りながら、改めて話を進めた。
佳澄は、事故に遇ってここに居る事。
リサは、偶然出会った事。
由依は、事故に遇って、助けて貰った事。
真里亜は、教会に由依が通っていて、今日は偶然、事故に遇っていた由依を助けた事。
志恩は、由依の事故に偶然居合わせた事。
などを各々話していった。
リサはこのあと仕事があるので、
「また、機会が有れば、お話しましょうね」
と愛莉に伝え。
「またね、危ない事に首を突っ込むのも、程々にね」
と志恩に言い。ーー落ち着いたらゆっくり会いたいーーと目でお互い訴えあった。
真里亜とは、何も言わず、ただ1度ハイタッチをしてすれ違う。
そして、甲斐家を後にするのだった。
真里亜も、ここなら由依も安心だね。と納得して、明日も忙しいよと、帰って行った。
その夜。佳澄と由依は愛莉の部屋で、志恩と愛莉は志恩の部屋で、寝ることにした。
「お姉ちゃんが無事で良かった。連絡ないから、すっごく心配してたんだよ」
「ごめんね由依。仕事もあって、連絡も取れなくってね」
「ねぇお姉ちゃん。危ない仕事しているんでしょ?それって私の為?だったら、そんな仕事辞めて、二人でどこか静かな田舎で暮らそうよ。私も出来るところは働くし、手伝うからさ」
「ありがとう由依。そうだね、今度の大きな仕事が終わったら、それもいいかもしれないね」
「本当!約束だよ」
「約束かぁ…」
「ねぇ志恩、真里亜さんとも知り合いなんだね。それにリサさんとはどんな知り合いなの?」
「えっ、真里亜とは‥‥そう、隆二を介しての知り合いなんだよ。それにリサとは葛城刑事の仕事の手伝いで」
「本当にそれだけ?」
「それだけだよ、何でそんなにリサの事で聞いてくるんだ?」
「だってぇ~、リサさん、志恩の部屋を見せたとき、思い詰めた感じだったからさぁ」
「そっそれは…疲れてたんだろう。忙しいトップアイドル様だからさ」
「それだけじゃない様な気がするんだよねぇ~。女の勘ってやつかな」
「なっなんだよそれ…さっ明日もあるし、寝た寝た、俺はちょっとお茶飲んでくる」
志恩はそう言って、リビングへと降りて行った。
「ふぅ、愛莉も変に鋭いところあるからなぁ。しかし、異世界から戻って、急に色々な人間関係が出てきたからなぁ。愛莉が不信がるのは当然だよな」
と、志恩はリビングで考え込んでいた。
ガチャッ
足音も無く、突然リビングの扉が開いた。
志恩は、一瞬ドキッとしたが、足音がしなかった事で、誰かはすぐに推測がたった。
「まだ、起きていたのですか?」
「あなたもね」
佳澄は志恩の向かいに座り、志恩は佳澄にお茶を出した。
「ありがとう」
「佳澄さん、聞いてもいいですか?」
志恩は改まって、真剣な顔を佳澄に近付けた。
「なっなにかしら、答えられる事だったら構わないわよ」
「佳澄さんは由依ちゃんの為に、暗殺者の仕事をしているんですよね?」
佳澄はピクッとお茶を飲む手が止まり、一瞬の静けさがリビングを覆う。次の瞬間、佳澄の放つ殺気が志恩を襲った。
しかし、志恩はそんな殺気を気にも止めずに、顔の力を緩め、佳澄を見詰めるのだった。
佳澄は「負けたわ」と言って、力を抜いて、志恩に微笑みを返した。
「何が言いたいの?」
「もし、由依ちゃんの体が治ったら、今の仕事を辞めて、一緒に静かに暮らせるかな?」
「ふっ、そんな夢のような話。でも、由依の体が治ったら、仕事は辞めても構わない。しかし、私は死んだ人間、生きる術がないんだけどね‥」
「成る程、佳澄さんの気持ちは分かったよ。何とかしてみる」
「ふふっ何か、志恩くんが言うと、嘘でも本当に聞こえるから不思議ね」
「それはどうかな」
志恩は静かにお茶を飲み干し、笑みで返した。
「明日、大きな、ラストにしたい仕事があるわ。朝から出掛けちゃうから、由依の事を宜しくね」
そう言って、佳澄は席を立った。
「どうしても、辞めることは出来ないのか」
佳澄は振り返り、
「そうね、これだけは、やり遂げないといけないやりかけの仕事だから…」
佳澄はリビングを後にした。
志恩は、1人、静かに考えを巡らすのだった。
次回、運命の歯車