新たな仲間との再開
2018.5.8 誤字脱字修正 内容・表現補足
日本の政治の中心霞ヶ関、その近くにある建物の立派な執務室で、部屋の主が揺ったりと自分の椅子に座り、机を挟んでスーツ姿の男と何やら話をしている。
「だいぶ派手にやったようだね」
「はい、後処理に少々お力を頂ければ助かります」
「もちろんだよ。報告にあった、例の大臣も芋づる式に処理出来て、こちらとしても助かったよ。今後も、内密に事を勧めてくれたまえ。宜しくたのむよ」
「はっかしこまりました」
男は机に書類を置くと、静かに部屋を出た。
部屋の主は、残された書類をめくり「勇者かぁ」1人呟いた…
終業式も終わり、志恩達は夏休みへと突入していた。
今日は午前中、行ってみたい場所があり早起きした志恩だが、愛莉は部活の練習があるようで、更に早くから用意していた。
「も~夏休みに入ったからって、寝てばかりいたら駄目だからね」
「分かってるよ、だから起きてるじゃん」
「それって用事があるからでしょ。予定なくても、早起きしなよ。志恩も部活に入ればいいのに。今からでも剣道部だったら歓迎してくれるよ」
「そうだね~何か考えておくよ」
「なんかやる気ない返事~。じぁあ、私もう時間だから先に行くよ。午後の約束忘れないでね」
「わかってるよ、いってらっしゃい」
「また1人でどこかに行かないようにね。いってきます」
「はいはい、分かってますよ」
愛莉はあの日のことをまだ、疑っている。
この前、学校の校門に渋谷で関わった危ない奴等が仲間を連れて志恩達を捕まえに来た日、志恩はお腹が痛いと言って先に家へ帰った事にし、そいつらを退治してきたのだが、その後、愛莉が志恩よりも先に帰宅しており、散々質問攻めをされた。
お腹が痛いから病院で診てもらっていたと誤魔化してみたが、服から焦げ臭い匂いがするだの、どこの病院行っただのと、しつこく詰め寄られたのだった。
納得はしないまま、その日はそれ以上聞いてこなかったが、今でも疑っている。
心配させない為にも、隠し通しておきたい。
それに説明のしようもないしな…
平日午前中の秋葉原、夏の日差しが厳しく、スーツ姿のサラリーマンも半袖ワイシャツにネクタイを外しクールビズで仕事に勤しんでいる。電気街も外国人の買い物客以外は閑散としており、搬入のトラックなどが出入りしているくらいだ。
志恩はそんな秋葉原の街中を通り抜け、人通りの少ない裏路地を歩いていた。
えっと、記憶に間違いなければ、確かこの辺って聞いていたんだけどな‥おっ!あったあった!
「《ティー&ムーン》多分ここだ!」
志恩が辿り着いたのは、秋葉原の外れにあるビルの1階。古めかしい面持ちの喫茶店だ。
カランカラン
木枠とガラスで作られた扉を開け、扉に付いた呼び鈴を奏でながら店内へ入っていく。
店内は、カウンターとテーブル席が3つ、時間帯が早いせいもあり、店内には他にお客は居らずカウンターでは体格のガッシリしたマスターらしき男性がグラスを磨いていた。
「いらっしゃい、お好きな席にどうぞ」
マスターはこちらを見ずにグラスを磨きながら、出迎える。
男前な声だ。
志恩はマスターの正面に位置するカウンター席に着いた。
「何にしますか?ランチはまだなので、宜しくお願いします」
志恩は注文をせず、そのマスターの顔をじっと見据えた。
「・・・・・」
マスターは何も返事がないので、グラスを磨く手を止め、志恩へ振り返る。すると、無表情だった顔が驚きの表情へと変わり、そして満面の笑顔になった。
「シっシオンなのか!?」
「良かった、覚えててくれたんだな、リュウジ」
「当たり前じゃないか、何年一緒に旅したと思ってるんだよ」
「まぁそうなんだけど、時間が逆戻りしてるから、もしかしたらって思ってな」
「確かにな、俺もその点は考えていた」
彼の名は槙村隆二、28歳。異世界で俺と共に冒険をしていた仲間の1人だ。パーティーの中で戦士として先陣を切り、誰よりも先に敵と対峙していた。
パーティーではお兄さん的存在で、みんなの相談役もよくやっていた。
歳が離れていても、冒険者は敬語など基本使わない。そんな丁寧に喋っていたら、敵に殺されてしまうからだ。そして大抵は呼びやすい名前でしか呼ばないので、苗字を知らなかったり、呼びやすいあだ名しか知らない場合も多い。
リュウジからは現世での事も多少聞いていて、この店の場所も何となくだが聞いていた。
現代世界では親の喫茶店を改良して、昼は喫茶店、夜はbarを経営している。店内はアニメや特撮のキャラクターなどのポスター、フィギュア、CD、DVDなどがところ狭しと置かれていて、まさに秋葉原だった。
「俺とシオンの時間が同じなら、向こうから戻って半月くらいぶりになるのか?」
「そうだな、それくらいぶりだな」
お互い硬く握手を交わすのだった。
「で、今日訪ねて来たのはどうしたんだ?ただ思い出し話をしに来たって訳でもないんだろ?」
「流石、するどいね。実はこの間、悪い奴等とひと悶着あったんだが、その中に魔法を使う奴が居てね。こっちの世界に戻ってる人間ってどれくらい居るのかちょっと気になってな。何せ俺ってこっちの世界では唯の学生だから調べようがなくてな。そこで社会人でもあるリュウジなら、何か掴んでないかなと思ってね」
「それは丁度いいところに来たのかもな」
「と言うと?」
「俺もこっちに戻って、色々調べてみたんだ。ほら、俺は魔法が使えないから、今までと何も変わりはないんだが、特殊技能や魔法を使える奴は、こちらでもそれらの能力を残して使えるらしいのは分かった。シオンも魔法は使えるんだろ?」
「魔法と言っても、古代語魔法だけだけどな。体術や剣術とかも頭や体では覚えてるから、喧嘩くらいじゃ遅れはとらないぜ」
「まぁ~俺も武器を使った喧嘩でも、慣れてはいるから、遅れはとらないがな。あと、武器を使ったスキルも使えるみたいだぜ」
「へぇ、それはどんな武器でもいいのか?」
「あぁ、形態が同じならいいみたいだぜ。ただ、威力は落ちるし、武器がその威力に耐えれればだがな」
「成る程な。ところで、墜落事故のことがニュースになってないから分からないんだが、生存者とかどうなっているのかな」
「そうなんだよ、俺も飛行機に乗ってたから、あの時ヤバイと思ったんだが、なんの怪我もなく地上に立ってたんだ。なにか、ヤバい気もしたからその場を逃げちまったけど、後で刑事が店まで来てな、質問されたり確認もされたが、何も覚えてないってしらばっくれたけどよ」
「そぉか。てことは、飛行機の人間はみんな助かったってことなんだな」
「それが調べてみたらそうじゃないらしく、死体で発見された人もいたらしいぜ。ただ、死亡原因が飛行機事故じゃないみたいなんだ。死因を聞いた俺の予想なんだが、たぶん向こうの世界で死んじまった人間は、こっちに戻っても、生き返らずにそのまま死んだ時と同じ死因で、死んじまってるみたいなんだ」
「なるほどな、分かった、もし何か他に分かったら、ここに連絡してくれ、俺の携帯番号書いておくから」
「OK!俺の番号は今、ワン切りしておくわ」
連絡交換をして、今日のところは退散した。
また今度、ゆっくり顔を出すと約束して…
志恩は今日、午後からいつもの仲良し7人で集まる予定であった。
今日は学校にクリーニング業者が入るため、部活動が午前中のみと言う理由もあるが、もうひとつの理由は、この前渋谷で助けた女の子二人が、助けてくれた御礼をしたいと連絡してきたのだ。
そして、今日のランチをご馳走してもらうことになっていた。
彼女達にはお礼なんていらないと言ったのだが、お礼の為だけではなく、学校は違えど折角知り合いになれたのだから、友達に成りたいと言われ、それなら断る是非もないと話がまとまったのだ。
それに、その後の彼女達の様子も気になったと言うが、志恩にはあった。
そしてランチのあとは、みんなで来週、プールで遊ぶための水着を選びに行く予定にもなっている。
志恩にとって水泳はあまり得意ではないが、遊園地のプールは夏の醍醐味である。色々な楽しみも、きっとあるに違いない。
そう、ただのプールだけで終わればよいのだが…
槙村隆二 28歳(43歳)・・・勇者パーティーの1人
戦士【神速の剛剣】