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ミラクル・グッバイ その4

 ティラリラ~ティラリラ~


「は…ぃ、もしぃ…もし‥」

「朝早くからすまんな、葛城だ」

「何時ですか?」

「5時過ぎかな」

「・・・・」

「君に頼まれた、佳澄と言う女性の事で、早く知らせておきたくてな」


 ガバッ


 志恩は一気に目を覚まし、布団を被って話始めた。

 葛城警部補がワザワザ急いで連絡してくるのは、何か重要な話だと察っした。

「何か分かったんですか?」

「いや、その逆だ。何も分からない事が分かったんだ」

「・・・・」

 志恩は、朝早過ぎて、自分がボケているのか葛城がボケているのか、言葉を失う。

「ちょっと唐突だったな。警視庁のデータバンクで調べてみたが、彼女のデータがみつからないんだ。そして、全てのデータを確認したところ、川原佳澄と言う人物が見付かったんだが…」

 葛城の言葉が途切れる。

「どうしたんですか?有ったなら問題ないじゃないですか」

 志恩の言葉に「うう~ん」と言葉を詰まらせてから、話始める。

「実は、生きていれば今は二十歳なんだよ」

「えっ?確かに彼女は、今二十歳って言っていましたけど、生きていればってどう言う意味ですか?」

「彼女は12歳の時に事故で家族全員死亡しているんだよ。そして、唯一生き残った4つ下の妹が居るんだが、その後親戚に引き取られ育てられたようなんだが、その親戚も既に死亡していて、妹の消息も取れていないんだ」

「えっ、じゃあ今、家に居る女性は誰なんですか?」

「写真を送って貰ったが、確かに12歳の川原佳澄の面影はあるんだ。取り敢えず、昨日の銀行強盗の件もあるから時間を作って欲しいんだが、そこに居る女性から目を離しても欲しくないんだ」

「‥‥分かりました、上手く話せる時間を作りますので、葛城さんもその後の調査をお願いします」

「了解した」


 佳澄さん…きみはいったい…





 コンコンコン


 ドンドンドン


 ガチャリ


「しっおーん!おはよう」

 部屋へと愛莉が元気に入ってくるが、志恩は布団の中へ逃げ込んだ。

「愛莉さん、ノックって知ってますか?ノックしたら、返事を待つもので、入ってしまったらノックにならないですよ」

 「ぼーん」と叫びながら、愛莉は志恩のくるまる布団へダイブする。

「ぐへっ」

「いつまで寝てるのよ。屁理屈言ってないで、早く起きてよ。今日は佳澄さんと動物園に行くんだからさぁ」

「・・・・」


 ガバッ 「きゃん」


 志恩は愛莉ごと布団をはねのけ、起き上がるり叫んだ「動物園?」





 志恩、愛莉、佳澄の3人は、駅から動物園の入口に向けて歩いていた。

 駅は年末と言うこともあり、人で混雑していたが、動物園への道のりになると、ぐんっと人の量が減ってきた。一部、何かのコンサートでもあるのか、派手な服を着た若者達が目に付く。

「もぉ~なんでこんな朝っぱらから、動物園なんて来るんだよ!佳澄さんの記憶と関係ないだろ」

 志恩は、寒さで体を震わせながら愚痴を溢す。

「夜、佳澄さんと話をしてたら、動物園に来たことがないって聞いて、是非1度は見て欲しかったの」

 愛莉は頬を膨らませながら、志恩へ抗議する。

「でもなぁ、こんなに寒いんじゃあ、動物だって冬眠してるぞ」

「えっ本当!‥‥ンな訳ないでしょ!だったら、動物園がやってないし」

 愛莉と佳澄は、楽しそうに会話をしながら、動物園の入口へ向かい、志恩はその後ろを付いて行くのであった。



 動物園は、平日の開園間もない事もあり、閑散(かんさん)としていた。

 愛莉は佳澄の手を引きながら動物を観て喜び、佳澄も時々顔をほころばせていた。佳澄の笑顔は本物なのだろうか……志恩は時折考えて見てしまった。

 時計の針も上を向き始め、お腹も少し減り始める。今日のランチは、愛莉が出掛けにお弁当を作って来ておりー勿論、志恩が担いでいるー志恩は食べる場所を探して来ると言って、愛莉と佳澄の側を離れた。




「お待たせしました。わざわざこんな所にすいません」

「いやいや、君こそトラブルを抱え込むのが好きだね。勇者の宿命ってやつかい」

「なんか、不幸な男みたいで嫌ですね…」

 動物園には似つかわしくないスーツ姿の男女に、年齢的にその子供とは呼びづらい少年が、休憩所のテーブルでコーヒーを飲んでいる。

 志恩は、動物園で葛城と落ち合う手筈を整えていたのだ。

「例の女性は?」

「近くで妹と動物を観てます」

「そうか。それで志恩くんが知っている彼女の事を教えてくれ」

「分かりました」


 志恩は、佳澄が怪我をしている所に偶然出会せ助けた事、悪徳組に追われている可能性がある事、彼女が纏う鋭い何か、銀行での一件、と、一通り話した。


「実は最近、悪徳組の組長が何者かに襲われ、車の事故で何人かの組員が死亡しているんだ。その一件と関係があるかもしれんから細かく調べてみよう。しかし、銀行の一件は派手にやらかしたな」

「すいません、彼女が手を貸しあそこまでやるとは思わなかったもので」

「まぁ、その件はこちらでなんとかしといたので、大丈夫だ。ただ、その場に居た客の口は塞げないので、どこまで情報が流出してしまうかは分からないがな」

「そのことは警戒しておきます」

「そうだな、まずは‥」


「きゃーー」

「だれか~」





 時は少し戻り。

「志恩が探している間、もう少し観て回ろう」

 愛莉と佳澄は、志恩がランチの場所を探しに行ってる間、動物を観て回っていた。

「あっちにハイエナの生態だって、行ってみましょう」

 愛莉達が来たのは、腰の高さまでコンクリートの塀で囲ってある円形のくぼ地で、深さは5m程ある。塀のすぐ下には落下防止の網が張り巡らされている。下には何匹かのハイエナが、群れを作って行動していた。

「もうすぐ餌の時間だって、私達みたいにお腹空かせてるんだね。みんなヨダレが凄いよ」



「ねぇねぇ、見て見て。はっよっとっ」

「こら、危ないからそんなところ、降りなさい」

「大丈夫だって」

 愛莉達の横で元気そうな男の子が、塀の上でふざけて遊んでいて愛莉の近くに寄ってきた。

 愛莉が「ぼく、危ないよ」と言うと、男の子は「へっちゃらだよ」っとおどけて見せる。


 その時、 ビュー 一陣の風が吹き、砂ぼこりが舞う。愛莉が目を伏せた先で「うわぁ~」先程の男の子の叫び。愛莉は必死に目を見開き男の子を掴もうと腕を伸ばすが、愛莉の手は虚しく空を切り、男の子はバランスを崩し堀の中へ落下した‥


 ガシャン


 と、思ったが男の子は落下防止の鉄網に乗っかり、下までの落下を免れる。

 愛莉は「良かった」と愛莉は今度こそ男の子に手を差し伸べ掴もうとした、その時…


 バキッ


「えっ」


 男の子の乗っていた鉄網の留め具にヒビが入り、愛莉が差し伸べた手が宙を舞った。

 男の子は、そのまま下へと落下してしまう。

 母親は、悲鳴を上げ、愛莉は助けを叫ぶ。

 男の子は堀の下へと真っ逆さま。幸か不幸か、落下した場所は土がむき出しの地面になっており、男の子は落ちた衝撃で意識を失っているだけのようだ。出血するような怪我は負ってないように見える。

 愛莉が係員を探している時、またもや男の子の母親が悲鳴を上げる。愛莉は母親の視線の先に目をやると、そこには腹を空かせたハイエナの群が男の子ににじり寄って来ていたのだ。

 愛莉は塀から身を乗り出すが、流石にこの高さには尻込みしてしまい、躊躇う。すると、塀に手を乗せる愛莉の腕を、ギュッと掴む手が‥愛莉が振り返ると、そこには優しく微笑む佳澄の顔があった。

 佳澄は愛莉にひとつ(うなず)くと、ワンステップで塀の上へ飛び乗り、愛莉が「かすみさ‥」言葉を掛ける間すら待たずに、落下防止網の向こう側へと軽やかにジャンプするのだった、まるで水溜まりを軽く飛び越えるかの様な軽やかなステップで…


 男の子周りをハイエナの群がジリジリと間合い詰めて近付いていたその時、男の子の側に舞い降りるかの如く、1つの影が降り立った。

 ハイエナは驚き、一瞬退く。そして様子を伺い、自分達の前に現れたのが、体の線の細い雌だと知ると、再び「ヴぅ~」と唸りながら距離を詰めて来た。

 愛莉は「誰か助けて~」と叫びながら佳澄の姿を見つめ続ける。

 ハイエナの群れが攻撃の間合いに入り、今、一斉に飛び掛からんと身を屈めた… その時、佳澄は立ち上がりハイエナの群れを睨み付ける。次の瞬間、ハイエナの群れはそれぞれ耳を畳み尻尾を巻いて「クゥ~ン」と弱々しい鳴き声を立て、散り散りにかすみの側を離れて行った。

 それを観ていた愛莉は、ホッとしたのか、その場にヘタリ込むのだった。そして、志恩が到着した時に見た光景も、愛莉がヘタリ込む姿だった。


 ハイエナ達はきっとその時、自分達が殺される光景を見たに違いない。後で、ハイエナが散って行った話を聞いた志恩は、そう思った。




 その後、男の子は救急車で運ばれたが、特に外傷は無かったので、無事であると思われる。男の子の母親は、佳澄に何度も何度も御礼の言葉を掛けていた。

 志恩達は、動物園の人に感謝され、色々サービスなどしてくれる話をされたが、目立ちたくなかったので丁重にお断りをし、ランチの出来そうな原っぱに向かった。


「佳澄さんまた、助けてもらっちゃって、ありがとうございます」

 愛莉はお弁当を広げながら、嬉しそうに佳澄と話している。

「愛莉ちゃんを助けた訳じゃなくて、男の子を助けたのよ。そのお母さんには一杯御礼を言われたし」

 佳澄は少し照れた感じで愛莉に応える。

「ううぅん、だって私が助けたかったのを代わりに助けてくれたんだから、ありがとうです。でも、佳澄さん凄い運動神経してますよね。あの高さからあんなに軽やかに飛び降りるなんて、体操の選手みたいでしたよ」

「そうかな」

 佳澄は照れながら志恩と目が会うと、キッと顔を引き締め「早く食べましょう」と話を切り、お弁当に手を伸ばすのだった。




短くすいません。

次回、まだまだ動物園の1日は続く。

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