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ミラクル・グッバイ その3

移動時間だけで書いているので、投稿が遅くなってますm(._.)m

 強面(こわもて)の男達が厳重に警戒する中、料亭の一室。


 ガシャーン


「てめぇ達、何やってんだ!まだ犯人は捕まらねぇのか」

 盃を壁に投げつけ、怒鳴りつけている初老の男、鈴木正蔵、悪徳組組長である。

「あまあま親分さん。こちらも調べましたが、奴は凄腕の殺し屋らしく簡単には見つからないかと。今回は誰に雇われたのかそちらもあたってますから」

 正蔵の向かいに座るスーツ姿の男は、この場には似つかわしくない営業マンのような顔立ちで、正蔵と酒を酌み交わしながら、話をしている。

「俺も命は狙われるが、プロまで使って狙われたことねえ。いったいどこのどいつの差し金だ、ちくしょう」

「大丈夫です。こちらも既に手は打ってあります」

 スーツの男は、人を平気で殺しそうな笑い顔で応えた。






「たっだいまー」

 元気な声で愛莉が帰って来た。

 志恩と佳澄は、台所で昼食を用意している。

 愛莉は1度台所を覗き、すぐさま自室で私服に着替えると、急いで食卓へと降りてきた。

「ごめんなさい佳澄さん、手伝わさせちゃって、後は私がやります」

 食器を並べている佳澄の皿を愛莉は受け取ろうとしながら言った。

「いえいえ、私こそ、助けて貰った上に居候までさせてもらって、何か少しでも手伝わさせて欲しいの」

 そこまで言うのではと、愛莉は佳澄と二人で志恩の作った昼食を並べていく。


 昼食を終え、片付けも終わった頃、愛莉は佳澄の手を取り話す。

「ねえ佳澄さん、これから私とお出掛けしましょう。何か記憶が戻る切っ掛けになるかもしれないし」

 佳澄はどうしたものかと、言葉に困っていると。

「おいおい、佳澄さんはまだ怪我が完治してないんだし、そんな急に外に連れ出さなくても」

 志恩が間に入り、愛莉に言い聞かせるが‥

「何言ってんのよ志恩。佳澄さんは早く記憶が戻った方がいいに決まってるじゃない。自分が分からないなんて、不安でしょうがないと思うよ。さっ佳澄さん、用意して出掛けましょう」

 こうなると、愛莉は言い出したら聞かない事は志恩には分かるので、半ば諦め、志恩は佳澄に目配せをするのだった。


「で、なんで志恩も付いて来るの?」

「そりゃあ、治りかけの怪我人と愛莉二人じゃ心配だからだよ」

「ほんとに~」

「本当です」

 などと、話ながら駅へと向かった。


「取り敢えずどこに行くんだ?」

 志恩が何も考えて無さそうな愛莉に、質問してみる。

「えっと~、そうね~」

「おいおい、やっぱり何も考えてないのかよ」

「しっ失礼ね~考えているわよ‥」

 愛莉は少し遠くを見つめてから佳澄を見ると、閃いたかの表情に変わり。

「そうそう、まずは佳澄さんが事故を起こしたであろう場所の近くへ行くってのはどう?」

 愛莉の話を聞いた瞬間、佳澄が少し驚いた様子から気まずそうな表情へと変わった。

 ーー現場近くへ行くのは、まだ悪徳組が彷徨(うろつ)いているから不味いな。佳澄さんもそう感じたのだろう…

「あのさぁ愛莉、現場近くに行くのは、もう少し後の方がいいんじゃないかな?佳澄さんも事故はショックだっただろし、刺激が強すぎると思うんだ。本人もちょっと辛そうだし」

 そう、志恩が話を佳澄に振ると、佳澄も合わせたように。

「えっえぇ、ちょっとそれはもう少し後の方が助かります」

 愛莉はちょっと残念そうな顔をし、

「そうかぁ。佳澄さんが言うならしょうがないなぁ」

 また、暫く考えてから。

「じゃあ、先ずは少し人の多い街にでも行こうか。何か見覚えがある場所とかあるかもしれないし」

 そう言って、駅へと向かうのだった。

「ちょっと待って、その前に銀行へ寄ってもいいかな?生活費を少し卸しておかないと、帰りに食材とか買えなくなっちゃうからさ」

 志恩の言葉に、愛莉が「なんで今日なの!」と、少し不満げではあったが、生活をする上では仕様がない事である。渋々、駅前の銀行へ3人は寄るのだった。



 銀行に入った3人は、志恩がキャッシュディスペンサーに並んでいる間、窓口前のソファーで(くつろ)ぎながら時間を潰していた。

 今の時間、年末としては比較的空いていて、それほど混んではいなかった。

 志恩は順番を並んで待ち、そろそろ自分の番が回ってこようかとしたその時‥


 バーン! ガシャーン!


「キャー」

「動くな!静かにしろ!」

「キャー」


 バーン! 「黙れ」



 志恩が振り返った時には、2ヶ所ある入り口に1人づつ、カウンターに2人、目出し帽を被った男であろう者達が4人、皆銃を構えて叫んでいた。まさに銀行強盗である。

 犯人は直ぐに入口のシャッターを閉めさせ、ATM付近に居た10人程と窓口付近に居たお客と従業員15人程の2グループで人質は集められた。先程、2度の発砲で本物の銃を所持しており、大型のナイフも所持しているのが分かる。

 この時、志恩は愛莉と別けられてしまった事に愛莉を側で守れない悔しさと後悔を感じていた。

 カウンターに居た2人は、すぐ様1人の銀行員を射殺、その後他の銀行員2人の手と足に発砲、その為、銀行員は死の恐怖を感じ抵抗することなく、犯人の要求を次々進め、犯人は手際よく現金や債券を獲ることが出来、カバンに詰めていった。

 ーーこいつらやり方がエグいが、プロだ。手際が良く、手慣れている。不味いかもしれない…

 それは犯人が、必要ならば逃走のために躊躇(ためら)いなく人質を殺す事を意味していた。


 志恩は素早く行動に移る。

 先ずは人質を見張る2人の犯人。たまに話す言葉を聞いていると、どうやら外国人のようだ。主犯と思われるカウンターの犯人は流暢(りゅうちょう)な話し方から日本人と思われる。見張りの二人の動きを見る限り、他の二人と違って動きが覚束(おぼつか)ない、多分、急拵(きゅうごしら)えの仲間だろう。先ずはこいつらから制圧することにした。

 1番側に居る犯人を麻痺の魔法で動きを封じる。続けて、もう一方の見張りの犯人も麻痺させた。

 カウンターの犯人は、直ぐ様、異変に気付く。

「おい、ブラウンどうした?ブラックも突っ立ってないで返事をしろ」

 どうやら犯人はお互いに色で名前を付けているようだ。

「おい、ブルー。何か様子が変だ」

 カウンターで全体を見ていた犯人が現金をカバンに詰めている仲間に警戒を呼び掛けた。

 志恩は次の行動へと移る。

 スモークの魔法で人質が集められている場所から少し離れた銀行の入口にスモークを張る。人質に煙幕を掛けてしまうと、人質が無差別に撃たれる可能性があるからだ。

 そして煙幕により、犯人や人質達の視線が煙幕へ募集中する。煙幕が掛かる入口から、警官隊等が突入してくるのではと思わせられたようだ。

 志恩は人質の輪から抜けると、テレポートの魔法で、カウンターに居る二人の犯人の死角へと移動し魔法を唱える。


『ライトニングボルト』【電撃攻撃】


 奥で鞄に現金等を詰めていたブルーと呼ばれている犯人は、魔法の落雷に体を焦がし、その場に倒れる。一瞬、視線をもう一人の犯人がブルーへ向けた隙に、志恩が犯人へ襲い掛かった。

 志恩の接近に気が付き犯人は銃口を向けるが、志恩の上段蹴りで銃を弾かれる。男は空かさず左手で腰のナイフを逆手に抜き取り、志恩の顔に一閃。志恩は素早くダッキングをして頭上にナイフを通過させ、男へタックル、男は後方へと吹き飛んだ。

 男と志恩がカウンター向こうで向き合い、間合いを見計らっていたその時‥


「そこまでだ、動くな」


 そう言って、人質の中から立ち上がった男の腕には、首元にナイフを突き付けられた愛莉の姿があった。

「近くで話を聞いていたら、この女はお前の知り合いみたいだな。この女の首が繋がっている内に、抵抗を止めろ」


 志恩は、大きな失敗を犯してしまった。ここまで手練れた連中なら、人質に仲間を潜り込ませておくことくらい予想出来たハズだ。

 こうなってしまっては、志恩が魔法を使うところを人に見られたとしても、愛莉を危険な目に合わせるよりはましだ。

 志恩は腕を下ろし、戦意を無くしたように見せ、ブツブツと呪文を唱え始めた…次の瞬間!


 愛莉を盾に立っている犯人の後ろで、スッと立ち上がる人影が。周りの人質の目線が犯人の後ろへ向いたのを犯人も気付き振り返ろうとしたその時、犯人の後ろに立った人物は、ナイフを持った犯人の腕を掴み、愛莉の膝の裏を軽く蹴る。すると、愛莉は膝が曲がり自然と腰が落ちてしゃがむ。犯人の腕から、スッポリ愛莉が抜け、掴まれたナイフを持つ腕だけ残った。呆気に取られたナイフを持つ犯人の腕を力強く手前に引き、同時に背中に寄り掛かる形で体を押す。


 「キャー」「うわっ」人質の何人かが見たものは、ナイフを首に刺して痙攣する犯人の姿だった‥

 そして、崩れ落ちる犯人の背後から、無表情で(たたず)む佳澄の姿が現れる。


 志恩の前方でその光景を見て唖然とし、立ち尽くす男目掛けて、志恩は新たに発動させた雷撃で打ち倒す。

 そして銀行員へと指示を出し、銀行のシャッターを開けさせる。すると、外で待機していたと思われる警官が銀行へ雪崩れ込み、犯人達を確保していった。

 愛莉は少し震えながら床に座り込み、その肩にそっと手を乗せ「怪我はないですか」と、佳澄が優しく声を掛け、愛莉はこくりこくりとただ頷くだけだった。佳澄の周りでは、佳澄の行動に恐れを感じ、距離を取る人達が観られた…


 志恩は、直ぐに葛城警部補に連絡を取ると、葛城警部補がその日は忙しいらしく、ヤス巡査長と三上巡査が来てくれ、志恩達をその場から解放してくれた。




 事件のせいで疲れた為、その日は軽くご飯を食べて帰る事に3人はするのだった。


 家に帰り、まだ興奮冷めやらぬ愛莉をお風呂に向かわせ、リビングで志恩と佳澄が向かい合ってお茶を飲む。

「まずは、愛莉を助けてくれたことには感謝している、ありがとう。だけど、今日のはやり過ぎだったんじゃないか?見た感じ君の実力だったら殺さなくても犯人を無力化出来たと思うんだ」

「攻撃対象は必ず無力化する。それが私のもっとうだ。だが、確かにあの時は少し感情的になっていたのかもしれない。私にも大切な妹が居る、だからキミの妹を危険にさらす輩を許せなかった」

「・・・・」

 心が無いように見える彼女でも、大切な妹が居て、妹の事には感情を剥き出しにしてしまう程、大事にしているのだと志恩にも伝わってきた。しかしあれはやり過ぎだと思う、後始末を葛城さんに任せるのを申し訳ない。と、志恩は考えていた。



 愛莉は、結果、犯人を殺してしまった佳澄に怖さを多少感じたが、殺されそうになった自分を助けてくれた感謝の方が大きく、事件の後、佳澄になつくように色々と話、仲良くなっていた。

 佳澄の方も、妹が居るだけあって、愛莉を可愛がってくれた。


 その夜、愛莉は自分の部屋で佳澄と一緒に夜遅くまで話をしながら眠りに就くのだった。



次回、迫る危機。

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