体育祭目指して
なかなか話が進みませんが、ゆっくりご覧ください
カキーン カキーン
緑の網に包まれたこの空間、ここは学校の近くにあるバッティングセンター。礼二は放課後、子分の様に連れ回る同級生二人とよくここへ来ている。
礼二はがむしゃらに、ボールを打っていた。
「火照った体が我慢出来ないぜっ」
「礼二くん。どうしたんですか?」
「球技大会の後、純奈が俺のものになると思うと・・・。あの体、たまんねぇよ」
「それは楽しみっすね。でも、球技大会で負けたら諦めるって約束しちゃってますが、いいんですか?」
「ばっきゃろうっ!うちのクラスが、あんなひ弱なクラスに負ける訳がねえだろうが!」
「その通りですっへへっ」
「それに、こっちには裏技も用意をしてあるしな。ひっひっひっ。これで純奈のあの体は俺のもんだぜ」
志恩は生唾を飲み込み、喉の渇きを感じながら喋り始めた。
「私は先生の素敵な体に触りたい。その胸、そのお尻、私は我慢出来ません…」
「いいわよぉ~凄く上手、もっと感情込めて」
「先生、これって、パワハラですよ」
「何を言ってるの!授業で英語の翻訳をさせているだけですよ」
「そんな教科書に載ってない文書を訳してどうするんですか」
「あら、教科書に載ってないからこそ、実用性があって、テストに役に立つのよ。志恩くんは私の授業が嫌いみたいね」
「甲斐、シェリー先生の授業に文句言うなっ」
「そーだそーだ」
「ぶーぶー」
クラスの男子はみんなシェリーに丸め込まれてやがる…
志恩の教室ではシェリーが真面目?に授業をしている。しかしシェリーがわざわざ志恩の学校に潜入してきた事には、何か訳があると志恩はずっと考えていた。
放課後、本人から聞き出さねぇとな。志恩は1日中モヤモヤした気持ちの中、イラつきながら授業を受けていた。
その日の放課後、シェリーを訪ねに行こうと教室を出たところで、ジャージ姿の愛莉に出くわした。
「あれ、志恩は帰らないの?」
「シェリー先生に用事があって、今からちょっとね」
愛莉は刺すような白い目で志恩を見つめ。
「はぁ~あ、志恩もやっぱり男なのね」
「おいおい、俺は本当に用事があってだな」
「まぁいいわ、その用事は長いの?」
「そんなに時間は掛からないと思うけど」
「じゃあ、終わったら体育館に来てよ。部活終わりに静香達と二人三脚の練習しようって話になってるからさ」
「オッケイ」
愛莉と別れ、志恩はシェリーを探しに職員室へと向かった。しかしシェリーは居らず他の先生に聞いてみると、シェリーは個人の自室を貰いそこにいつもは居るそうだ。
コンコン、「どうぞ」志恩は部屋へと入る。辺りをぐるりと見回し、怪しいところはないかチェックしてからシェリーの元へと向かう。
怪しいと言えば、この部屋自体が怪しい。と言うか妖しい!黒魔術の道具や儀式を行えるペンタグラムなど、妖しい部屋と化していてる。
志恩がシェリーの元へと近付くと、シェリーは立ち上がり志恩へと襲いかかった!
両手を広げ志恩の頭を胸元へ抱き抱え、志恩を窒息しさせるかの如く。
「あーら、シオン私の部屋へ夜這いにでも来たのかしら」
志恩はシェリーの拘束から逃れ、肩で息をしていた。
「ぜぇ~は~ぜぇ~は~。殺す気かっ!」
「あら、友情の挨拶よぉ」
「はぁー、もぅいいや。で、シェリーは何故ここに来た?そして、この部屋は何なんだ?」
「あらやだ、せっかちさんね。まぁいいわ、そこに座って、お茶でも出すからゆっくり話しましょうか」
そう言って、椅子を勧めるとシェリーはお茶を入れ始めた。
シェリーは自分の机に着いて、おちゃらけながらも話を進めた…
志恩達がシェリーを探し出す前から、シェリーは転生と転生者達について調べていたらしい。
転生については神業としか考えられず、調べても結果の出るものではなかったので、すぐに諦めたそうだ。転生者は警察が調べたものとあまり結果は変わらなかった。シェリーの調べで大きく分かったのは、転生による転移によってこちらの世界に持ち込まれた危険な物についてだった。
何人かの転生者魔法使いは新たなる転生を予想して、転生後もアイテムなどを使えるように、マジックポケットやアイテム作成魔法、時空の隙間にリンクしてアイテムを収納するなど、色々な方法を考え、行使したものと思われる。
それによって、こちらの世界に異世界の力をそのまま持ったアイテムが出回ってしまっていて、問題を起こしているそうだ。
それを危惧していた矢先に、タイミング良く隆二からの連絡が有り、警察とのコネも出来て動きやすくなったそうだ。そしてこの街、その中でもこの学校が、一番狙われ易く尚且つ動きやすいので、ここの先生と成るべく御上の力を利用して潜入し、調査部屋も用意してもらったそうだ。
「にしても、この部屋妖しいだろ」
「あらやだ、何も知らない人には、西洋の美術品やまじないグッズにしか見えないわよ」
「・・・そうかなー…」
「そうそう、来てすぐだけど魔力を少し感知したわよ、それも多数。多分エンチャント(装備強化)されてる物を持つか装備してる可能性が高いわね。注意して校内を見ておいた方がいいわよ」
「わかった、探してみるよ」
そう言って、志恩は部屋を出ようとする。
「そうそう、この学校では先生ですからね。ちゃんと敬いなさいよ」
「はぁー…はいはい、分かりましたよ、シェリー先生。では、失礼いたします」
志恩は部屋を出て、自分の教室へと帰っていった。
教室へと戻った志恩は愛莉との約束を思い出し、渋々体操着に着替えると剣道部練習場所の体育館へと向かった。
体育館に着いた時、剣道部の男女共に片付けをしている最中で、愛莉が志恩に気付き声を掛けてきた。
「用事は終わったの?」
「大体ね」
「丁度こっちも終わったところ、部室に片付けて来るから、ちょっと待ってて」
そう言って、体育館を出て行った。
体育館ではまだいくつかの部活が練習をしていた。志恩は呑気に他の部活を眺めていると、後ろから。
「よお、久しぶりだな」
志恩はその微かに聞き覚えのある声に、振り向く。そこには2ヶ月程前に関わりあった空手部の青木先輩と他に4人の部員達が立っていた。
「ども、お久しぶりです」
「お前は剣道部には入ってないのか?」
「そうですね、色々と忙しくて」
「だったらどうだ、空手部に入らないか」
突然の言葉に志恩は驚いたが、志恩以上に他の空手部員達が驚き、その中でも最初に志恩に絡んで来ていた2年生の山田が騒ぎ出した。
「部長、なんでこんな1年に声を掛けるんですか?この前の借りも有るし、こんな奴、俺が叩きのめしますよ」
山田は前回の事をまだ根に持ってるようだ。
そんな山田の声を余所に青木は志恩に向かい。
「前は次に会ったときに決着を付けると言ったが、もうその気はない。実はたまたま夏の剣道大会で、お前の試合を観てな、貴様が本物だと知ったよ。お前を認めたからこそ、喧嘩の様な闘いは必要ないと思ってな。それよりも、お前の事を空手家として見てみたくなったんだ」
山田は青木の前に出ると再度口を開く。
「部長、前回みたいに部長に止められなければ、こんな奴俺が叩きのめします」
山田の言葉に青木は少しニヤリと笑い。
「甲斐だったな、うちの山田と試合をしてくれ、別に竹刀を使っても構わない。山田が勝ったら空手部に入部する、山田が負けたら俺からはお前を諦める。どうだ?」
「分かりました」
志恩がやれやれと頷くと青木は志恩だけに聞こえる声で。
「遠慮はいらん、怪我をさせても俺が責任を取るから、全力で相手をしてやってくれ」
志恩は青木の顔を見て呆れた。
青木は端から剣道部にも入らない志恩が空手部に入るとは思ってないようだった。多分、山田の鼻をへし折るのが目的だろう。
志恩は「分かりました」と再度、青木に返事をするのだった。
試合場の角に他の部員が立ち、青木が審判を勤める。
唸りを上げる山田に対し静かに対峙する志恩。その雰囲気に体育館で練習をする全ての者達が手を止め、息を飲み観客と化した。
青木は手を挙げ「初め」の声と同時に手を払う。流石の山田も、前回の様に不意討ちをするズルはしてこないようだった。
志恩は異世界からこちらの世界に帰ってから、衰えた高校生の体を鍛えていた。最近は、多少向こうで培った動きに体がついていける様になっていた。
そんな志恩だからこそ、勝負は一瞬だった。
山田が中段蹴りを開口一番放って来た。志恩は1歩下がり紙一重で蹴りをかわすと、そのまま下がった足で床を蹴り、山田へと間合いを詰めようと動く。山田は待ってましたとばかりに、蹴った足を軸足に切り替え、反対の脚で中段回し蹴りを繰り出した。しかし志恩は既に山田の懐に入っており、山田の軸足を蹴りで刈り取り、山田の蹴りを放った足を掴むと蹴りの威力をそのまま引っ張り上げ、山田を仰向けに倒し鳩尾へ踵を落とした。
山田はお腹を抑え、唸っている。
志恩は空手のルールは知らないが、顔面や金的などを行わなければ構わないのかなと、思っていた。
「それまで」
と、青木が試合を止め決着が付いた。
青木は志恩の肩をトントンと叩き、「お疲れ」と言葉を残した。
そして、全てが終わったかに見えたその時、事件は起こった。
青木が山田を起こそうとした時、志恩は確かに見た。山田がポケットからそれを出し、指にはめるのを。
山田が様子が変化したのはその時である。
今まで痛がっていたのが嘘のように飛び上がると、唸り声を上げ辺りを見回す。青木は「どうした?」と山田に手を差し伸べるが、山田は青木に対して飛び掛かった。
山田の突然放った回し蹴りを青木は咄嗟にかわす。青木も間髪入れずに、容赦のない蹴りを山田の横っ腹へ放ち命中させた。青木は蹴りの入り具合から、山田のあばら骨を何本かは砕いた感触を実感し、戦闘体勢を解き他の部員に声を掛けようとした。
次の瞬間、山田は青木の顔面目掛けて頭突きをお見舞いする。虚を突かれた青木は諸に頭突きをくらい、鼻血を豪快に撒き散らしふらつくところへ、透かさず山田は金的を放ち命中させる。流石の青木も後ろへ吹き飛び泡を吹いて倒れる。それを目の当たりにした他の空手部員は、山田目掛けて攻撃を仕掛けるが、体の制御を失った190㎝から繰り出される正拳や蹴りに、吹き飛ばされ手も足も出なかった。
静観していた体育館のギャラリーは、その一瞬の出来事に我を失っていたが、誰かが悲鳴を上げると同時に、一斉にパニックへと陥った。
志恩はそんな一瞬の出来事を冷静に観察し、次なる行動へと移した。
山田を変化させたのは間違いなく彼の指にはめられた指輪である。あれを奪う、もしくは破壊出来ればこの騒ぎは収拾出来るであろう。
志恩は暴れ回る山田の背後から懐へと潜り込もうとしたが、山田の素早い反応に見つかり、志恩に向かって鋭い回し蹴り。
志恩はしゃがんでその蹴りをかわし、やり過ごそうとしたとき、山田の蹴りは志恩の頭上で停止し、そのまま真下へと落下してきた。
山田のあり得ない動きを見ているだけで、脚の靭帯などが切れていく様子が伺える。このまま放置すれば、山田の体は再起不能になるだろう。
志恩は躊躇いを捨て、迫る蹴りに対して攻撃呪文を唱えた。山田の脚は体ごと宙を舞い、受け身も取れずに床へ落下した。志恩は素早く山田の手にある指輪に触れると。
『アーティファクトブレイク』[装飾品の破壊]
指輪は粉々に砕け散った。
そして、『テレパス』を使いシェリーを体育館へ呼び出した。
『テレパス』は魔力を持っており、名前と顔を知る人物に対して、言葉の交信を行える魔法である。
それからは騒ぎを聞き付け愛莉達が戻って来て、あれこれと聞かれたが、空手部の喧嘩があったとだけ伝え、志恩は傍観していたとしらを切った。
流石にそのあとは練習どころではなく、生徒達は駆け付けた先生達に皆帰された。
その後、体育館へ駆け付けたシェリーが素早く空手部の手当てをし、空手部の行き過ぎた練習だったと言う事で、その場を収めたようだ。
この日、午前中は雨だった為、志恩と愛莉はバスで通学していた。
バスから降りて家へ帰る道の途中で、愛莉は立ち止まり志恩の腕を掴んで止めた。
「どうしたんだ?」
志恩が尋ねると、愛莉はアヒル口をして不満げに話す。
「だって~折角練習出来ると思ったのに~」
「しょうがないだろ。なにか事故が起こっちゃったんだから」
「志恩は練習したくなかったの?」
「俺も練習したかったよ…たぶん」
「え"っ何か言った?」
「いやいや、俺も愛莉と練習したかったな~てね」
「じゃ~練習しよ」
そう言うと愛莉は鞄を志恩に持たせ、ハンカチを取り出すと志恩と自分の足に結ぶ。
「おいおい、まさかこんな道端で練習するのか?」
「そうだよ。でも、走らなくていいや。足取りの息が合ってればいいんだからさ」
愛莉は鞄を受け取り志恩と反対側に持つと腰に手を回し、しがみついてきた。
「これって練習になるのか?なんか恥ずかしいな」
「何言ってんの!こうやって、息を合わすんでしょ。志恩も早く手を腰に」
ーこれって練習になってるのかな?まぁ愛莉が満足感してるならいっか…
志恩と愛莉はバス停からの道のりを、腰を寄せ合い歩いて行った。
まるで熱々のカップルの様に。
ただ、会話の内容は違ったようです。
「「いちっに、いちっに、いちっに…」」
次こそは体育祭を終わらせたい。




