また事件! これは始まりでしかない。
2018.5.6 大幅改正しました。
都会の駅からさほど離れていない高層マンション。
3LDKのゆったりとしたマンションの一室で、女性の悲鳴が聞こえる。
リビングには、体格のいい男が1人ソファーで静かに寛ぎ、その傍らには黒パーカーに黒ズボン、フードを深く被った怪しい男が、静かに立っている。
リビングから廊下を隔てた大きなベッドを置いた寝室。4人の男が目を血走らせながら裸同然の姿で騒いでいた。
その部屋には化粧をしていても呆気なさの残る二人の少女が、半裸状態でベッドに横たわっており、1人は目を虚ろにさせており、もう一人は男達に押さえつけられながら暴れている。
「やめて!放して!」
「ぎゃーぎゃーうるせーなー!大人しくしろ」
バシッ
男の平手が女の頬を叩く。
「これ以上騒ぐと、お前の連れみたいに静かにさせるぞ」
少女は何か思い付き、スッと力を抜いて抵抗するのを止め、
「わかったから、トイレとシャワーだけ行かせて、汚いのは嫌でしょ」
少女をベッドで押さえ付けていた男2人は、顔を見合わせてから、
「聞き分けがいいのは嫌いじゃないぜ。なんなら手伝ってやってもいいぜ、ひっひっひ」
「洗ってるところなんて、見たくないでしょ?」
「まぁいい、早く行ってこい、おい、お前付いていけ」
少女を連れ男は部屋を出ると、女性をバスルームへと入れ、シャワーの音がすると、男は眠たそうな顔をしてトイレへと入った。
少女は見張りがトイレに入るのをバスルームの扉の隙間から覗いていた…
少女は走った、静かに、かつ全力で。その姿はTシャツにバスタオルと言う頼りない姿のまま、目には涙を浮かべながら‥
晴天に恵まれ、爽やかな日差し。渋谷の街は平日にも関わらず、人で溢れていた。
志恩達はそんな渋谷に繰り出し、休日を満喫していた。
午前中はウィンドショッピングをして女子の買い物のお付き合い。
ランチはピザパーティーで盛り上がり、午後はゲームセンターにボウリング、カラオケと1日中遊び尽くした。
日が暮れ始めた頃、遊び疲れた7人は線路横にある人気のない公園のベンチで缶ジュースを片手に、休憩を取りながら話に花を咲かせていた。
「今日は遊びまくったね」
「本当。楽しかった」
静香は猛を指差し。
「猛のバカ力にはびっくりだよ~!隣のレーンにボール投げちゃうんだから!」
「いやいや、ほとんど始めてみたいなもんなんだから、よくあることじゃん!」
「「「ないない」」」
「でも、柚木は歌上手いよな。そこいらの歌手に負けないんじゃない!」
「そうそう、びっくりだよ」
「えっ。そんなことないよ~、みんな上手かったし~」
「ま~猛以外は、上手かったかな」
「うるせ~、俺の歌は、心に響くんだよ」
「心じゃなくて、ビルにひびを入れたんじゃない?」
「「「ハハハハハ!」」」
くだらない話でも、楽しく時間が過ぎるのを忘れさせてくれた。
7人が話に盛り上がっていると、公園の入口の方で男の怒鳴り声が聞こえてきた。
「こぉらぁー!やっと追い付いたぞ、手間掛けさせやがって!」
「いや、放して」
「大人しくしねぇとぶん殴るぞ!!」
志恩達が立ち上がり、声のする方へと近付くと、Tシャツにバスタオル姿で裸足の少女、それを囲むガラの悪そうな男が4人。
どお見ても被害者と加害者の姿に見える。
志恩達はその姿と怒鳴り声を目撃し、
「ちょっと不味いんじゃない」
「誰か大人を呼んだ方が」
「こんな場所で、すぐに助けてくれるような大人なんていないよ」
「じゃあ、見ない振り?」
「そんなの無理っしょっ」
猛と静香は拳をギュッと握りしめ、男達へと駆けて行く。
志恩は残った4人に向かって指示を出す。
「みんなは警察を呼んで来てくれ」
「志恩は、どうするの?」
「俺は乱闘にならないように、上手く時間を稼いでくるよ」
「でも…」
「大丈夫!それに近くに奴等の仲間が居るかもしれないから、4人で纏まって行った方が安全だ、早く行って助けを呼んで来てくれ」
愛莉は不安げな顔で志恩の腕を掴み、
「わかった、でも危なくなったら逃げてね」
志恩は、掴まれた手を軽く叩き、
「任せろ、逃げ足には自信があるからさ」
そう言って微笑むと4人を見送り、志恩は騒ぎの元へと駆け付けるのだった。
静香と猛は既に男達と対峙していた。
静香は臆することなく、男達に怒鳴っていた。
「ちょっと、その子から手を放しなさいよ」
男達は静香と猛を睨み付け、ガンをつけてきた。
「なんだ~このクソガキは」
静香は一瞬たじろぐが、グッと留まり言い返す。
「手を放して立ち去らないと、警察呼ぶからね」
「おいおい、このガキ共うぜぇな、黙らせてから行くか」
そう言うと1人は少女の腕を掴み、残り3人の男達が猛と静香に向かって距離を詰めてきた。
いくら剣道部期待の新人だからと言っても、3人の男達は体格のいい大人であり、それに多勢に無勢である。不利なのは猛も静香も分かっているが、覚悟て決めている顔付きだ。
志恩にとって、モンスターを倒すだけなら攻撃魔法で瞬殺なのだが流石に人間に対して、それも街中で派手な魔法は使えない。それに猛と静香にも魔法を使うなど、知られてはならない。
3人の男が猛と静香に迫る中、志恩は暫く考えた据え男3人へ向けて魔法を唱える。
『パラライズショック、サーズ』
猛と静香に襲い掛かろうとした男達は、突然体を大きく震わせ、顔を痙攣させながら動きを止めた。
猛と静香は一瞬戸惑ったが、不思議がりながらも恐る恐る男達の間を通り抜け、後ろで少女を捕まえている男に向かい、真っ直ぐ腕と指を突き刺し、
「その子を離しなさい、さもないと私達が相手するわよ」
男は顔をひきつらせながら、「お前ら、こんなことして、ただじゃ済まねぇぞ」などと訴えるので、猛と静香は呆れ顔でお互いの顔を見合せ、
「それはこっちの台詞よ、もうすぐ、警察も来るからね」
静香の突き付ける言葉に、男は歯ぎしりをし、
「くそっ覚えてろよ!」
男は少女を突き飛ばし、1人走って逃げて行った。
その時、公園の片隅で一部始終を見ていた人影が、驚きの表情をさせながら様子を伺い、暫くすると人影は闇の中へと姿を消した。
助けた少女の名前は一条美沙。志恩達と同じ高校1年生だ。スタイルが良く、化粧をしているので少し年上にも見える。
志恩達3人は美沙をかくまい、事情を聞いた。
「大丈夫?何があったの?怪我はない?」
「ありがとうごさいます。実は友達と渋谷の街を歩いてたら、突然声を掛けられスカウトしたいので話をさせてくれと言われ、強引に近くのマンションの部屋に連れ込まれたんです。友達がまだそこに居て、監禁されてるんです。お願い助けて。」
美沙は震えながら静香の腕を掴んでいた。
「よし、助けに行こう」
静香はやる気に満ちた顔だったが志恩は、
「いや、これ以上は危ないから、警察に頼んだ方が良さそうだ」
志恩の考えに猛も冷静に頷き、
「そうだな、ここからは警察に任せよう。でもさ後ろの男達、急に動かなくなってどうしちゃったんだろうな」
「危ないクスリとかやってたんじゃないの?」
志恩は焦りつつ、惚けた発言をしてみた。
「副作用?それにしては同時に動かなくなるって、よっぽど危ない奴らなんだね」
「そっそうだね‥」
志恩は美沙に取り敢えずと言って聞いてみる。
「そのマンションの場所を教えてくれるかな?警察が来るまで、俺が見張りに行ってくるからさ」
志恩の言葉を聞いて、猛と静香も。
「それなら、俺(私)も行くよ」
志恩は、猛と静香の肩を掴み、力説をする。
「ちょっと待ってくれ、まだそこの男3人もいつ動き出すかもしれないし、他にも奴等の仲間が居るかもしれない状況だから。彼女を守ってあげてないと」
「でも、志恩1人でなんて危ないよ」
「1人だから隠れ易いんだよ、それに逃げたり場所を変えないか見張りに行くだけだからさ」
猛と静香は嫌そうだったが、時間がないからと囃し立てると渋々、
「ん~、わかった。でも気を付けてね」
「わかってるよ」
志恩は美沙にマンションの場所を聞き、直ぐに向かった。
『インビジブルカーテン』
目的のマンションに到着した志恩は、幻影の魔法を唱え、姿を人の目には映らない様にした。
勿論、防犯カメラなどには見えてしまっているのだが。
「えっと、10階の1号室っと、ここか!」
ガチャガチャ
鍵は閉まっているようなので‥
『アンロック』【解錠】
ガチャリ
志恩は部屋の中へと静かに入っていく。すると、奥の部屋の方から何かに叫んでる声が聞こえた。
声の聞こえる部屋へと志恩は静かに近付き部屋の中へ。
そこには先程、最後に逃げて行った男が、受話器を片手に何やら叫んでいた。
「親父、変な奴等に追っ掛けられてるんだよ。それに警察も騒いでいるみたいで・・・確かに悪さはしたけど、もうしないから助けてくれよ」
ーー親への救援コールかな?志恩は呆れながら聞いていたが、いつまでも電話させておく訳にはいかない。
電話機に向けて魔法を放つ。
『アッシブショック』【空気弾】
ボンッ
男がかけていた電話器が弾け飛ぶ、その拍子に男は尻餅をつき、その場に座り込んでしまった。
志恩は男の前に突如姿を現すし、
「おいっ、もう一人の女の子はどこだ?他に仲間はいるのか?」
男は志恩が急に現れ驚いき慌てふためくが、辺りを見回し志恩が1人だけなのに気が付くと、
「なっなんだお前、1人か?どうしてここまで入って来れた」
「さぁね、どうしてでしょう?まあ、俺1人だしちゃちゃっと終わらせたいから、知ってること話してよ」
「ふっ、1人で来るとはバカな奴だ。いくら俺でもお前みたいなひ弱そうなガキ1人に舐められてたまるか」
と、近くにあったゴルフクラブを握り締め、志恩に向かって挑発してきた。
志恩は呆れ顔で男を眺めてから、男へ手を翳し。
『ストップスタイル』
ピタッ
男は体の動きが止まる…
「なっなにしやがった」
「他には誰も居なさそうだね。いいから余計なことを言わないで女の子はどうしたか話しなよ。早くっ」
「この不思議な力は‥、お前もあの人と同じ力があるのか!?」
男は声を震わせながら顔をひきつらせる。
「!」
「お前、この力を使う奴を知っているのか?」
志恩は動揺し、男に詰め寄った。その時…
ガタガタッ
隣の部屋から物音が‥
志恩は質問するのを止め、男に一撃を喰らわせ意識を奪った。
その後、警戒しながら、隣の音のした部屋へと志恩が入ると、大きなベッドの横でサイドテーブルが倒れていた。そして、その傍らには裸の少女が横たわり何かを訴える様に口を動かしている。
志恩は、急いで駆け寄り助け起こすと、掠れた声で少女が声を発した。
「みっ水をちょうだい!苦しい!助けて」
悲壮に満ちたか弱い声で、少女は訴えかける。
これは何かを飲まされたか、投与されている様子。異世界にも、こう言ったものは存在する。
「これは不味いな、しょうがない」
志恩は、少女に頷きながら優しく体を抱えて唱える‥
『ファミリアルフレッシュ』
少女の体は光に包まれた後、顔色が良くなり呼吸も落ち着いてゆく。
そして少女が再び目を開くと、突如、志恩を突き飛ばしその場に踞りながら突然叫び出す。
「やめてーー!助けてーー許してーー」
志恩は、近くにあった毛布を掛けて「もう大丈夫だから、落ち着いて」と、声を掛けるが少女は一向に落ち着く様子がなく、暴れる一方である。
ーー余程辛い思いをさせられたんだな。
志恩は強く握った拳を緩め、少女の肩へと手を添え…
『チャームディメンションコントロール』[記憶操作]
ーーちょっと記憶を書き換えて、辛い思いを忘れて貰おう。そうしないと、この子の心が壊れてしまう。
魔法を掛け終わると、少女は顔の力を緩ませ落ち着いた表情になり、意識を失った。
その後、警察が到着し、事情を説明して一通りの手続きを終えると、既に辺りは暗くなっていた。
「なんか、大変なことに巻き込まれちゃったね」
静香が歩きながらぼやいている。
「巻き込まれたって、自分が飛び込んだの間違いだろ」
志恩の突っ込みに、静香は腰に手を当て、反論した。
「そんなことないよ。それにあれを放っておくなんて、私達には出来ないでしょ」
貴司は軽く頷きながらも、真面目な顔つきで静香に「今回は運良くなんとかなったけど、あんまり危ないことには首を突っ込まない方がいい。大人に相談しないと」
「でも、あいつら危ない奴らだっな」
「ま~みんなが無事なら、それでいいんじゃない?」
「なんか、ホッとしたらお腹が空いてきちゃった」
「あー俺もー」
「私も~」
それから7人は地元に戻り、ファミレスでご飯を食べた後、解散して帰路へと着くのだった。
志恩は家に帰り着き、寝る前に自分の部屋で今日の出来事を、頭の中で整理しようとした時‥
コンコン 自室の扉がノックされる。
「どうぞ」
「ごめんね、遅くに」
枕を抱え、パジャマ姿の愛莉がうつむいて立っている。
「どうしたんだ?」
「なんかね、今日あんなことあったから、眠れなくて…」
「そっか寝れないのか、じゃあ、一緒に寝ようか?」
「うんっ」
愛莉は満面の笑みでベッドに座る。
「いやいやいや、ジョークだよ!ジョーク!この歳で一緒に寝るなんて」
「こんな歳って、まだ16だよ、駄目なの?」
「駄目とかいいとかじゃなくてさ」
「じゃあ、いいでしょ!」
と、愛莉は素早くベッドの中へと潜り込んだ。
「いやいや、俺達兄妹だよ」
「うん、だから一緒に寝ておかしくないでしょ?」
「ま~そうなんだけど、そうじゃないようなあるような」
「早く寝よっ」
「あ~、ま~、う~ん」
昔って、どんな気持ちだったっけ?
などと困惑しながら、渋々ベッドへと入り眠りに着く志恩であった。
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眠れんっ!
隣では幸せそうに寝息を立てる愛莉の寝顔が…
結局、目が覚めてしまい、ベッドの中で色々と考え事ばかりしてしまう志恩であった。
ーーそう言えばあの後、すぐに警官とか来て、奴に聞けなかったけど、俺と同じように向こうの世界から来てる奴が居るってことかな?
それとも、もともとこっちの世界でも、魔法はあったってことなのか?
今後は魔法の使用にはもっと気を付けないといけないな。と頭の中で自問自答していた。
数日後…この事件が尾を引く事になるとは、この時、誰も考えはしなかった‥
悪者は諦めが悪いのか!
事件は何処までも広がりをみせる。
夏休みに入り、部活も盛んに‥