田舎でのひととき
遅くなりました。
ちょっと遅い田舎でのお盆です。
温泉話を入れ忘れました。後で差し込むかもしれません。
青い空、緑の山々、大地に広がる田畑、代わる代わる車窓から飛び込んでくる長閑な風景。
自然の中に居ると、つい昔の戦いに明け暮れていた日々を思い出してしまう。今は、戦いなどない平和な現代なのに…
隣には肩にもたれ掛かり、幸せそうな笑顔で眠る可愛い妹の姿が。殺し合いなど無縁な世界だからこそ、安心して寝れているのだろう。
田舎道を走っていると、大きなトラックとよくすれ違い、その度に、大きく揺れて愛莉が寝ながら腕にしがみついてきた。
志恩は今、父親の車で母親の実家へ少し遅いお盆のお墓参りに向かっていた。
向かっているのは、父親と愛莉と志恩の3人。一番上の姉は、連絡を一切寄越して来ない。
向かっているのが、なぜ母親の実家なのかは、志恩の父親は既に両親共に亡く、お墓も母方実家の側に移したからである。
事故で早くに一人娘を亡くした母親の両親に、孫の姿を見せに行くのがうちの父親の罪滅ぼしでもあるようだ。
「おいっ、そろそろ着くぞ、愛莉起こしておけ」
「はーい。おい愛莉起きろ」
母方の実家は田畑に囲まれた山奥にあり、農業を中心に畜産もやっている。
母は大学までは普通に行きたいと、祖父と喧嘩をして県立の普通科の大学に通い、そこで父と出会い数年の交際後、結婚。父が田舎暮らしは無理だと知り、祖父に結婚の反対をされたが逃げるように東京で結婚。実家と連絡を絶っていたが、母親の事故後、連絡を取るように成り仲直りをして、お墓を移し今に至る。
暫く田んぼ道を進むと、平屋の大きな家が見えてきた。
これから行く実家は、周りのお隣さんまで5分は掛かろうかと言う家で、垣根に囲まれた縁側もある昔造りの家である。
牛と鶏も少数飼っており、家の裏手に牛舎等がある。馬も趣味で2頭いて軒先では、いつも犬の鉄郎と猫のミコが遊んでいる。
車が庭先まで入ってくると、鉄郎が吠えて車の周りを駆け回る。その声に、愛莉はパッチリと目を覚まし、嬉しそうにしていた。
車を停めて降りるなり、鉄郎は尻尾を千切れんばかりに振りながら、愛莉に抱き付き愛莉も嬉しそうに抱き締めた。そんな愛莉を横目に、志恩は肩にミコを乗せながら、荷物を家の中へと運んでいった。
玄関から祖父と祖母が出て来て、3人を温かく迎えてくれる。
「あらあら、遠い処、お疲れ様」
「お義父さんお義母さん、ご無沙汰しております。お盆に間に合わず、すいませんでした。今年もお世話になります」
「いやいや、孝雄くん忙しい中、来てくれただけでも嬉しいよ」
「ささ、上がって、志恩ちゃんも大きくなったね」
「おばあちゃん、1年しかたってないんだから、変わらないよ」
…中身はだいぶ、歳を取ったけどね。
一息ついた後、志恩は家の裏手をぶらついた。昔は怖くて近寄れなかった馬も、今の志恩なら造作もない。異世界では裸馬を乗り回し、剣を振るっていたのだから。
「志恩。まだ馬怖いの?」
愛莉は昔から、怖いもの知らずと言うか何にでも物怖じしない性格だ。
「何だろう、もう、怖くないよ」
そう言って、慣れた手付きで馬のタテガミなど撫でて、馬をあやしていた。
「驚いちゃった。去年まで近付くのさえ嫌がってたのに」
「そうだっけ?…ほら、男って1年もあれば、変わるもんだよ。うんうん」
「何を1人で納得してのよ」
「ほうぉ、志恩も馬が好きになったか」
「あっおじいちゃん!」
「どうだ、明日でも馬に乗ってみるか?」
「まだ早いよおじいちゃん」
「そかそか、じゃあ、散歩くらい連れてってやってくれ、最近運動不足じゃからの」
「おじいちゃんも一緒にね」
「勿論じゃとも、最初は危ないからの」
「あ~ずるい、私も!」
「うんうん、愛莉も一緒じゃな」
外はもう夕日が落ち、暗闇が覆い初めていた。田舎の夜は街灯も少なく、ネオンやビルなどもないので、暗くなると少し先もなかなか見えなくなる。
そんな田舎にミスマッチな車やバイクのエンジン音が、最近よく聞こえてくる。
その日の夕食は、沢山の料理が並べられていた。台所の食卓は大きく、10人は座れる木製のテーブルが置かれており、その上に処狭しと並べられた料理の数々。
「こんなに食べきれないよ」
「太っちゃうよ~」
「おじいさんも張り切って作ったんですよ、沢山召し上がってね」
志恩は食卓の会話の中、少し気になることを祖父に尋ねた。
「ねぇおじいちゃん。最近この辺りって、何か変わった?」
「なんでだい?」
「来る途中もそうだけど、トラックや車の量が凄く増えてる気がしたからさ」
祖父はあまりいい顔をしないで、語った。
「何でも近くに高速道路と、その降り口が出来るそうでな、ここらに一帯に何か作るとか言う取ったわ」
「それにしてはこんな時間過ぎても、車やオートバイの音が、うるさいね」
「それは最近急に、ガラの悪い若い連中が増えたからかのぉ。志恩も外に出るときは、気を付けるんじゃぞ」
「ふぅ~ん、急に…」
時計の針も日付を変え、辺りは静まり返る深夜。少し離れた場所で、車などの騒音が聞こえてきた。
そんなに近くではないけれど、こんな静かな田舎では騒音として気になってしまう。
志恩はそっと起き手早く着替えを済ませると、部屋の襖を静かに開ける。玄関までは、板張りの縁側廊下。
玄関を目指して静かに向かう志恩。
ミシ、ミシ、ミシ
ミシ、ミシ、ミシミシミシ
ミシミシ、ミシミシ、ミシミシミシ!
志恩は素早く振り返る!
「!」
「な、に、してるの?」
小さな声で、質問してくる愛莉の姿があった。
「お前こそ、何してるんだ?」
そう言って、暗がりに見える愛莉は、しっかりと外出着を着ていた。
「志恩、早く」
「・・・・」
二人はそっと、玄関から家を抜け出し。
「志恩、どこに行くのよ!?」
「散歩だよ、散歩! それより、何で愛莉は服まで着替えているんだよ?」
「それは、隣の志恩の部屋から物音が聞こえたからね」
「それで、何故着替えるの?」
「遠くで騒音聞こえてたし、志恩のすることはお見通しだからね」
最近、油断も隙もなくなってきたな。気を付けて行動しないとな。
志恩はそう心の中で呟いていたのだった。
志恩は仕方なく愛莉を連れて、夜中の道を騒音のする方へと向かって行った。
田舎の夜道は、街灯以外の灯りがない為、街灯が当たらない場所は、真っ暗で気味が悪い。
愛莉は志恩のTシャツの裾を引っ張る様に握ってついてきている。この暗がりが怖いのかもしれない。
志恩にとって、暗闇もお化けも恐怖の対象にはならない。なぜなら、異世界の夜は、街灯などなく真っ暗が当たり前である。
それに、お化けは実際に存在し、戦い、倒すものであったのだから、お化けの存在が恐怖の対象ではなく、お化けと戦って負けないことが重要になってくるのだ。
そんな志恩の堂々とした態度が、愛莉には不思議でならなかった。
「志恩はこんな真っ暗な夜道、怖くないの?」
「んっ?怖いって、誰かに襲われるかもしれないとか?」
「そうじゃなくて、お、お化けとか…」
「お化けね~ふ~ん」
そう言って、志恩は真っ暗な暗がりに視線を向ける。
その目線に釣られて愛莉も振り向く。
志恩は聞き取れるか取れないかの小声で呟いた『フィンダ』これが聞き取れたとしても、古代語である。アラビア語か何かにしか聞こえなかっただろう。
その目線の先で火の玉が一瞬出て消えた。
先程の呪文は着火の魔法であり、何か対象物に火を付ける魔法である。従って、何も物がない場所に火をつけても、直ぐに消えてしまう。
しかし、今の愛莉には効果絶大であった。
「キャー」と悲鳴を上げ、志恩の腕にしがみついた。
「いっ今、出たよね!!ぜーたい出たよね!」
「いや、俺には何も見えなかったけど」
「うそうそうそうそうそうそっ!」
「取り敢えず、ここから離れるから、俺からも離れてくれ」
「無理無理無理無理無理!」
やって後悔してしまう。ちょっとからかうつもりが、そのあと愛莉は志恩の腕を離そうとはしなかったのだ。そして、志恩が一番困ってしまうのは、愛莉が寝起きのまま、Tシャツにカーディガンしか上に着ていないことである。お願い、離して。
騒音のする場所は工事現場の様で、工事用の照明が明るく点灯しており、車のライトで更に明るさを増していた。エンジン音以外に、車からは音楽が流れており、ガラの悪そうな連中の集まりになっているようだ。
工事現場は、2階建てのプレハブが2棟建っており、広々と平地が広がっていた。これから、何かこの場所に作っていくのだろう。
流石に、何か悪さをしている訳ではないので、志恩が成敗する理由もなく、今は愛莉も連れていると言うこともあり、ここは大人しく引き返すのが、賢明と思われた。
「危なそうな奴等が集まってるな、気付かれないように帰ろうか」
「うん、その方がいいね」
その場を後にした帰り道、1台の車が志恩達とすれ違って停車した。
ガチャッ
「なんだ、志恩と妹じゃねえか」
車から出てきた3人の男達。
秋山和夫、田舎のガキ大将で志恩が実家に来ると、必ず嫌がらせに来ていた。高校3年生。
秋山哲二、和夫の弟。志恩と同い年。いつも兄貴の後ろに付きまとっていた。スネ○っぽい。
山下吾朗、和夫の幼なじみ。昔からよく和夫と一緒に悪さをしたり、志恩に嫌がらせをしていた。
「泣き虫愛莉も一緒か!こんなところで、兄妹そろってお散歩か?」
「いいや、昼間に落とし物をしたから、探しながら帰るところだよ」
「ほー落とし物ね~。そうだ、お前ら車に乗れよ、これから楽しいパーティーに連れてってやるよ」
不味いな、方向的にさっきの溜まり場に向かうのだろう。志恩1人なら是が非でもないが、今は愛莉も一緒だ。ここは何とか回避しないと。
「いや、夜も遅いんで、帰るよ。じゃあ」
「おいおい。はいそうですかって、帰すと思ってんのかよ!」
面倒だな、しょうがない。
志恩が車の中の後部座席の荷物に『フィンダ』と唱えると、車の後部座席から火の手が上がった。
「なにっ!おい、燃えてるぞっ、早く消せ」
「バカやろー!煙草でも消し忘れたか」
志恩は、愛莉の手を強く握り走り出した。
「走るぞ愛莉」
「うん」
家に着いた二人は静かに部屋に戻ると、布団へ潜り込んだ。
次の日の朝は二人とも眠そうに遅く起きて来て、父親に怒られてしまった。
朝は実家の手伝いをし、午前中にはお墓参りを済ませた。
お墓参りから帰ってみると、実家の前には見慣れぬ車が停まっていた。そして玄関の方で祖父の怒鳴り声が聞こえる。
志恩達が玄関まで来ると、祖父とスーツ姿の中年男が言い争っていた。
「この土地は昔からわしらの住んでいた場所じゃ。誰にも売りはせん、早く立ち去れ!」
「こんな価値のない土地に、金を払ってやると言ってるんだ、早く売った方が身のためだぞ」
「うるさい!早く帰れ」
そこへ志恩達が入ってきた。
「おっと、可愛い娘さんだね。お名前は何て言うのかな?」
「その子に構うな、愛莉早く入っておいで」
「愛莉ちゃんって言うのか。可愛いね、こんな可愛いお孫さんに何かあったら大変ですね」
「愛莉に指一本触れてみろ。お前らと刺し違えても許さんからな」
「おーこわ。今日は帰りますけど、考えておいて下さいね」
「ぺっ!2度と来るな。ばーさん!塩持ってこい塩」
祖父達と居間に戻って話を聞くと、なんでも高速道路のインターになることを切っ掛けに、この辺一帯を買い占めてリゾート施設を建設しようとしているらしい。その為に、この辺りの土地を老人達から安く買いたたき、断る者には最近この辺りを彷徨いているガラの悪い若者に、悪さをさせているらしい。
祖父の家も売ることを断り続けていて、牛を1頭殺されたり畑も荒らされたらしい。
そんなガラの悪い連中にこの土地を渡したくないと、祖父は断固反対している。
ちょっと、やり過ぎの連中みたいだな、こんな時は利用出来るものは利用しておこう。志恩は葛城に連絡をして、調査を依頼した。
その夜、丑三つ時。
志恩は目を覚ました。いち、にい、さん、よん、ご。気配は五つか!
志恩は魔法で庭先にテレポートすると、台所の外で人の気配と声が聞こえた。
声のする方を覗いてみると、台所の裏手に5人のうち二人の男がポリバケツから液体を振り撒いている姿が見えた。
「不味い、あれはガソリンか!」
その声に5人が振り向き叫ぶ。
「チッ見られた、捕まえろ」
ポリバケツを持たない3人が、志恩に襲い掛かってきた。
『アッシブショック サーズ』
3つの空気弾によって、3人男が吹き飛ぶ。
「何が起きた?なんかヤバいぞ、おいっ、引き上げだ」
そう言って、火の着いたマッチを液体をまいた場所へ投げ込んで立ち去る。
すると液体はたちまち炎を上げて燃えた。
男達は走り逃げるが、それを追っている暇はない。志恩は炎に手を向け魔法を唱える。
『フリーズストップ』
詠唱が終わると、志恩の掌から消火器の様に白い冷気が噴射して、炎の上がった一帯は瞬く間に凍り付いた。
流石に火の手の上がる音や臭いに、寝ていた家族達も起きてくる。
「どーしたんじゃ」
「なになに」
「どうした志恩」
志恩は取り敢えず家の中に入り、事の成り行きを説明する。
男達の事、火を着けた事。消火に関しては、警察の知り合いから、たまたま瞬間消化が出来る道具を貰っていたと説明。偶然、火が消せて良かったと話をくくった。
それにしても、放火までするなんて手段を選ばない連中である。しかし、証拠がなければ何を訴えても揉み消されてしまうだろう。
明くる朝、祖父は町役場へと赴き、昨夜の放火の件を訴えに行った。
暫くたって、家に戻った祖父は肩を落とし落胆している。
「おじいちゃん、どうしたの?元気ないよ」
「おおぉ、愛莉か。町役場まで行ったんだが、相手にしてくれんでのぉ」
志恩は少し憤慨な気持ちで、祖父に促す。
「どうしてだよおじいちゃん。町の人が困ってて、放火までされたのに相手にしないって」
「町長がな、この町の発展には、今がチャンスなんだから、協力せにゃいかんと、取り合ってくれんでのぉ」
「あれ?今の町長ってだれだっけ?」
「ほれ、二人と年が近い近所の兄弟の父親じゃよ。名前は確か、秋山宗一だったかのぉ」
「なるほどね」
と、そこへ祖母が‥
「おじいさん、大変ですよ」
「どうした婆さん?」
「サクラがおらんのじゃ、タイチはおるんがのぉ」
「何!サクラが」
「柵が何かで壊されとった、きっと驚いたんじゃろう」
サクラは裏手で飼っている馬の牝馬でタイチは牡馬である。
「おじいちゃん、俺探してくるよ」
志恩はそう言って駆け出して行く。
「待って、私も行く」
愛莉もすぐ志恩の後を追って出て行った。
馬が走るなら障害物のある山などではなく、きっと平坦な丘や原っぱに違いない。
志恩は近くの思い付く場所を探し回った。きっと、昔の志恩だったら、こんな必死に馬を探したりはしなかっただろう。しかし、今の志恩は15年分の動物への愛情が培われている。
大事な馬、サクラを見付けてやりたかった。
日が暮れ掛けた頃、志恩はようやくサクラを見つけることができ、手綱を引いて家まで連れて帰ってこれた。
玄関先では祖父と祖母が志恩達の帰りを心配そうに待っていた。
祖父と祖母は志恩の顔を見るとホッとしてから、嬉しそうな優しい顔になりホッとする。
しかし、突然二人の顔が驚きに変わる!
「愛莉っ」
その叫びに志恩が振り向くと、そこには昨日の夜中に火を着けた車と見覚えのある3人の男が、愛莉を車に引きずり込む姿があった。
あっと言う間の出来事に何も出来なかったが、気を取り直し志恩は直ぐに行動する。
「おじいちゃん、サクラを借りるね!」
志恩の祖父は愛莉が連れ去られた事に動転していた。その上、孫の志恩の言葉の意味を一瞬、理解出来なかった。
「サクラをどうするんじゃ?」
「追うんだよ」
「なっなにを、鞍も着けておらん、無茶じゃ」
「大丈夫!」
志恩がそう言ってサクラの股と足を軽く叩くと、サクラは後ろ足を軽く折り曲げ、腰を落とした。
志恩は手綱を首に回しサクラの背中に飛び乗ると、サクラは当然の如く立ち上がり、志恩を乗せて車の走り去った方向へ駆け出して行く。
残された祖父はと祖母はその場にヘタリ込み、顔を見合わせた。
「志恩が裸馬のサクラで走って行ったぞ。あれは本当に志恩、ワシらの孫だったのかのぉ?」
逃げた車は田舎道なだけにそれほど速くは走れず、直ぐに追い付くことが出来た。
「おい、後ろ」
「ばっ馬鹿な。なんで、あんなに速く馬に乗れているんだよ」
「知るかよ。現に追って来てるぞ、どうする?」
「どうせ馬だ、車に追い付いたって何も出来やしねーよ」
暫く追うと車が田んぼ道に入り、それを見計らいタイヤを狙った!
『ライトニングボルト』
志恩の指先から放たれた閃光は、タイヤを見事撃ち抜きタイヤが破裂する。車はその反動でハンドルを取られて制御を失い、田んぼへと転落した。
志恩は馬から飛び降りると、車に目掛けて魔法を唱える『スリープミスト』。
車のドアを開けて中を覗くと、全員気絶しているのか寝ているのか分からないが、誰も動かない。
志恩は愛莉を抱き抱え、そのままサクラに股がり、実家へと戻る。
馬の蹄の音と嘶きで、家から家族が出てきたとき、馬に股がり妹を抱き抱える志恩の姿に、全員驚いた。
流石に今回の事はやり過ぎである。
しかし、前の様に懲らしめる為に力を使うのではなく、今回は大人の力を使って解決しようと、志恩は冷静に思う。
もうこんな遅い時間だが、葛城刑事に連絡をしてお願いをしてみた。
今回の事も、結果的には葛城刑事の手柄になるのである。多少の努力はしてもらわないと困りますと嫌みを言い、急がせる。葛城は既に調査の結果は出ていて、利権やその他、様々な不正や悪事の証拠を押さえているらしく、いつでも検挙は出来るらしい。それではと、今すぐ来てくれと、事を急がせ、2時間後には突入準備に入っていた。
葛城と合流したときは、葛城が苦笑いをし。
「志恩くん、人使いが荒いね。準備は出来ているんだから、明日とかじゃダメだったのかい?」
「ダメですね。明日だったら、自分が先に突っ込んでしまってますから」
「まぁ~しょうがないか、自宅放火に誘拐未遂だもんね。取り敢えず、県警からの応援と近隣の警官隊を集めたから、かなりの数になってるよ」
「ありがとうございます」
その日の内に、役場、町長宅、関連不動産、建設企業を家宅捜索し、
悪ガキ共の溜まり場である建設現場に来ていた。
警官隊に包囲され、集まっていた人間は全員摘発されていった。その中には、田んぼから脱出してきた、あの3バカも含まれていて、警官隊と一緒にいる志恩の姿に驚いていた。
しかし、驚くのはまだ早い!実は、志恩の腹の虫は治まってはいなかった。
「葛城刑事、建設現場には何もないし、誰も居ないですよね?」
「ああぁ、全員外の護送車やパトカーに乗せたぞ、中の人間も指示通り、全員退去させた。何を始めるんだ?」
「俺の憂さ晴らしですかね」
「おいおい、ほどほどにな」
志恩は詠唱へと入った
『我、神の力を欲し、汝との契約に基づき、雷光の雷を力とし願わん、光あらば……………きたれ』
『ケラウノス』
詠唱が終わったとき、天空にどす黒い雲が集まり、眩いばかりの閃光が走った!
天から注いだ光の火花は、建設現場へと落雷し辺りを揺るがす衝撃へと変化する。
建設現場は焦土と化し、それを見ていた者は足の震えが止まらなくなったと言う。
今回の件で、町長は逮捕され、新しい町長選が行われることになったみたいだ。町の開発も、国の支援で自然公園などが建設される予定になった。
今度は年越しにおいで、と老夫婦に見送られ、父の車で志恩と愛莉は都会の喧騒へと帰って行くのであった。
土日はちょっと忙しかったので書けませんでした。
次回は、夏休み後半です。