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狩野さんとお昼

 今日も先輩は「帰りがけにコンビニで昼飯買ってきて」と言って、職場に居残った。最近狩野さんと二人での昼ご飯が増えた気がする。それが偶然なのか、先輩なりの気遣いなのか、まだよくわからない。


「お昼何がいい?」

「たまには狩野さんが行きたい所にしませんか?」


 いつも私に気を使って、オシャレにカフェ飯……って感じだけど、気を使わずに、狩野さんの好きな所に行ってほしいのだ。いいの? って狩野さんが楽しそうに笑う。最近狩野さんの本音の笑顔がなんとなくわかるようになってきた。それがちょっと嬉しい。

 それで連れられて行ったのはラーメン屋。


「ここのチャーシュー麺好きなんだよね。チャーシュー倍増しにして」

「本当に肉がっつり、ジャンキーですね。狩野さん」


 昼時を少し外してたのに、ほとんど席が埋まってて、結構人気店なんだな……と、驚く。会社の近所にこんなラーメンの名店があるとは。さて……私は何にしよう?


「今月の期間限定に海老塩豆乳麺あるよ。古谷さん好きそうじゃない?」

「好きです! 豆乳とか、ミルク系大好き……って、狩野さん? 今月まだ始まったばかりなのに、何で今月限定メニューもう知ってるんですか?」


 狩野さんがしまった……という表情をして目をそらす。


「一昨日の夜、仕事帰りに食べにきたから」

「……狩野さん。ラーメンばっかりじゃなくて、もう少し食生活どうにかしてください」

「……すみません」


 しゅんとする狩野さんが可愛い。でもどうしてか私が怒るといつも嬉しそう。


「そうやって怒ってくれるのは、心配してくれてるからでしょう? その気持ちが嬉しいから、叱られるのが嬉しいんだ」


 心配してくれる人がいない方が寂しいんだよ。そう言葉を付け足した。たぶん……奥さんも同じように、狩野さんに怒ったりしてたんじゃないかな……と思うと、なんだかせつない。

 海老の香ばしい香り漂う優しい豆乳スープと、もちもちした太麺が美味しいラーメンだけど、これニンニクがっつりだし、ちょっと恥ずかしいな。狩野さんは一緒だから良いけど、ニンニク臭漂わせて帰ったら、先輩どう思うかな……。


「ニンニク気になるの? これ……使う? 職場帰ってから歯を磨けば大丈夫だと思うけど」


 そう言ってくれたのはブレスケア。さすが狩野さん、用意がいいな……手慣れてるな……。取引先との顔合わせの機会が多いから、身だしなみや匂いとか、狩野さんが結構気を使ってるのはわかる。今までもニンニク臭い食事の後は、ブレスケア……だったのかな?


「伊瀬谷君にはニンニク料理は内緒にしておこうか?」


 茶目っ気溢れる笑顔を浮かべながらそう言った。たわいもない事なのに、内緒って言葉がなんだか気恥ずかしくて嬉しい。


「先輩には帰りかけにコンビニでチョコ一杯買って帰れば大丈夫ですよね」

「古谷さんも甘いものいらないの?」

「ラーメンの後に、スイーツは……ハイカロリーだし……」

「ダイエットとか気にしない、気にしない。たまには美味しい物食べて、自分へのご褒美ってしてないと、いつか潰れちゃうよ」


 仕事が忙しすぎて、遊ぶ余裕も無いから、ストレス発散方法って食べものだけなんだよね。狩野さんや先輩が自分の好きな食べ物にこだわる理由が最近わかるようになった。


「美味しいもの食べたら……それはストレス発散になるけど、これ以上顔が丸くなったら、鏡見る度にストレスですよ」


 体は太ってないのに、頬だけぷっくり丸顔って、昔から私のコンプレックス。この頬が憎たらしい。そんな風に思っていたら、狩野さんの指がふにっと頬を撫でる。


「ふっくらした頬も、君のチャームポイントなんだ。可愛いよ」


 狩野さんの柔らかな笑みを見たら、お世辞じゃないんだって思って、頬が赤くなる。ふにふに私の頬を突く狩野さんが楽しそう。


「だから……コンビニでハーゲンダッツ買ってあげようか?」


 狩野さんがにこっと笑って悪魔の誘惑を囁く。狩野さんは、最近私を甘やかし過ぎだと思う。


「アイスなんてハイカロリー……でもダッツの誘惑は抗いがたいですね」

「だよね。人間、欲望に素直な方が生きるの楽だよ」

「狩野さん……なんだか嬉しそう。そんなに私を太らせたいんですか?」

「女の子が太ったくらいで、幻滅するような、情けない男がよってこなくなりそうでいいよね」


 私を太らせて男避け? 狩野さんの発想がよくわからない……。


 ラーメンを食べ終わってコンビニまで歩く。もはや何のアイスにしようか……と私の気持ちはアイスに釘付けだ。バニラも良いけど、ストロベリーやチョコもいいな……期間限定品にも弱い。

 秋の冷たい突風が駆け抜けて、驚いて立ち止まる。狩野さんも足を止めて私を見下ろす。目と目があって一瞬ヤバいって思った。狩野さんが笑ってない。どうしたんだろう?


「古谷さん。私も……デザートが欲しくなった」

「狩野さんが甘いものって珍しいですね」


 小首を傾げたら、突然肩を抱き寄せられて、唇が重なった。


「デザートなら、甘いお菓子より君の方が良い」


 そんな殺し文句を耳元で囁いて、私から離れて行った。狩野さんはまったく悪びれてない艶っぽい笑み。思わず見蕩れる程セクシーだ。私一人ドキドキ、顔を真っ赤にして慌てて馬鹿みたいだ。

 ニンニク臭漂うキスなのに、甘すぎて蕩けそう。

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