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先輩とお昼

ショートショート3本を、3日連続で更新してみます。

お昼の話2本と、焼き肉の話。食べ物ばかりです。

 秋も終わりが近づいて、木枯らしが少し肌寒い時期。今日は良く晴れていて、小春日和が心地よい天気だ。思わず遊びにいきたいくらいだけど、今日は平日。通常通りお仕事です。


「良い天気ですね……せめてお昼くらい、良い景色を眺めながら食べたいな」

「良い景色ね……墓地でも行ってくる?」

「お断りします」


 狩野さんのくすくす笑いが聞こえてきたから、冗談だってすぐわかる。私がむすっとふくれると、狩野さんがゴメンって笑いながら謝罪する。


「じゃあ……今日は伊勢崎君と二人で、お昼のんびりしてきたら」

「「え?」」


 先輩と私の声がはもった。そんなに忙しくないし、一人で留守番してるよ。行っておいで……と、見送られる。一応……狩野さんは私を好きなはずで、先輩は恋のライバルで……なのにこんな敵に塩を送るような事するあたり、狩野さんって余裕があるな。

 さて……どうしたものかと迷っていると、さっさと勝手に先輩が歩き出す。慌ててついていくと、黄色く染まった外苑の銀杏並木が見えて、思わず見蕩れた。

 外苑銀杏並木は、有名な銀杏の名所だ。まっすぐにのびた一本の道の両側に、ずらっと銀杏並木が並び、道の奥には美術館の建物が見える。この銀杏は糸杉のように先が細くなるように、綺麗に形を整えられ、手前が高く、奥が低くなるように、わざと剪定されている。

 手前が高く、奥が低く……というのは、遠近法で奥の美術館が、実際より遠く見えるという、演出らしい。


「この近くで良い景色って言ったらここだろう? 銀杏並木の下にベンチがあるし、なんか買って行って昼飯にするか」


 確かに。ここの並木道の下で食べるランチは美味しそうだ。コンビニ飯のテイクアウトだってごちそうになるかもしれない。そう……思ったのだけど、先輩はその近くにある、地下の店に入って行く。何のお店だろう? と覗き込むと、そこはキッシュとシュークリームの専門店だった。

 店内は狭くてテイクアウト専門。こんな店が近くにあるなんて知らなかった。そしてさすが先輩。お昼を買いにきたはずなのに、視線はシュークリームとエクレアに釘付けですね。

 キッシュもオーソドックスに、ベーコンとほうれん草もあれば、お米を使ったキッシュなんて変わり種もあって面白い。そして……先輩。シュークリームを3個とエクレア2個も買うんですね。しかもシュークリームの一個はスワン型。猫の顔のシュークリームと、どっちにするか迷ってる姿は、乙女度高すぎです。

 私はキッシュとシュークリームを一つづつ買った。ランチセットでスープもついてくるのが嬉しい。


 キッシュとシュークリーム片手に銀杏並木を歩く。平日なのに結構人が多い。休日になるともっと混むんだよね、ここ。銀杏の落ち葉が道に黄色の絨毯を作り出して、それをさくさくと踏みしめる。銀杏並木の隙間から見える青空も綺麗だ。

 しばらく歩いてやっと空いてるベンチを見つけて座る。さっそくフォークでキッシュを切って一口。


「美味しい!」

「だろう? ここ、結構美味いんだよ」


 そう言いながら、先輩、キッシュより先にエクレアですか。上機嫌の笑顔なので、ツッコミ入れづらい。ついてきたスープも暖かくて優しい味。これは今度コンビニ飯じゃなくて、ここにお昼を買いに行こうと決めた。

 美しい銀杏並木を眺めながら、隣には上機嫌で笑うイケメンがいて、美味しいキッシュとシュークリーム。……かなり贅沢な昼ご飯だ。この後仕事だって忘れそう。

 ちらりと先輩を見ると、キッシュを食べてるんだけど、鼻の先にクリームがついてて思わず吹く。


「先輩、クリームついてますよ」

「え! どこに?」


 恥ずかしそうに慌てる先輩を見て、くすりと笑いながらティッシュを取り出す。動かないでくださいって言って、私は手を伸ばして鼻のクリームをティッシュで拭った。


「先輩って、可愛いですよね」


 照れてる先輩が可愛いから、笑いながら素直にそう言ったのだけど、ティッシュを持つ手首を掴まれる。


「あのさ……古谷。俺が古谷の事好きだって事忘れてないか?」

「へ?」

「無防備に笑いながら可愛いなんて言ってさ……なんか本当に男扱いされてないんだな……って感じがちょっとイラっとする」


 むすっとすねる先輩。しまった……どう、フォローしよう。男として見てないわけじゃないけど、まだお付き合いする覚悟も無いし、変に期待させるような事いうのも……と躊躇っていたら、先輩の指が私の口元に触れた。


「クリームついてる」


 そう言って、私の口についてたクリームを先輩が親指で拭った。そしてその親指のクリームをぺろっと先輩が舐める。その気障な仕草にドキドキがとまらない。顔が火照る。でも……私だけじゃなく、先輩も自分でやっておきながら、相当照れたようだ。がたっと立ち上がって「先に帰る」と言って勝手に歩き出す。耳まで赤い先輩の背中を呆然と見送った。

 先輩の唐突すぎる甘い行動は、本当に心臓に悪い。

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