表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/72

嬉しい知らせ

 原稿届けに行った帰り道、コンビニによって食料を買い込んだ。新商品のカフェフラッペが出てたので、思わず買ってウキウキ気分で帰る。


「ただいま戻りました」


 靴を脱ごうとして気づく女性物の靴。お客さん?


「古谷さんお疲れさま。お邪魔してるわ」

「篠原さんお疲れさまです」


 篠原さんとの打ち合わせの日だって忘れてた。挨拶してすぐに篠原さんと先輩は、打ち合わせに戻る。先輩が打ち合わせする所を初めて見るけど、リラックスしながら無駄話もなく話が進む。相手が篠原さんだと、やっぱりやりやすいのかな?

 狩野さんにアメリカンドックとおにぎり2つを渡し、先輩のデスクにブリトーと菓子パン、それにチョコを何種か置いた。先輩は新商品や期間限定のチョコに弱い。だから私も見かける度につい買ってきてしまう。チョコは冬に新商品が多いけど、最近は夏チョコも流行ってて、風変わりな新商品あるよね。


 打ち合わせの途中、先輩が立ち上がってデスクに何かを取りにくる。その時買ってきた物に気がついたようだ。打ち合わせに戻る際、デスクに座る私の頭にぽふっとして「ありがとな」と言いテーブルの前に座った。

 最近先輩このぽふっが増えたな……嬉しいけどくすぐったい。


「伊勢崎君と古谷さん仲が良いわね」

「後輩だしな」


 先輩はさらっと受け流してたけど、私はドキドキした。篠崎さん、私と先輩との仲疑ってるのかな……。一度仕事帰りに2人で出かけた事はあるけど、あれは後輩指導って感じだったし、恋愛に発展する要素なんて無いと思うんだけど。

 打ち合わせが終わって立ち上がり際、ちらっと私を見た気がした。


「ねえ……伊勢崎君、今度飲みにいかない?」

「それ仕事?」

「ううん。友人として」

「考えとく。また連絡するよ」


 またって……プライベートでもよく連絡取ってるのかな? なんだか自然体に仲よいし。今は友人なんだよね? 篠原さんも心配なら、先輩とよりを戻せばいいのにな……。2人ってお似合いな感じだし。



 数日後、いつもの仕事中。でも今日の社内は、そわそわ落ち着かない雰囲気だった。今日伯母さんが来てパンフレットのデザイン案を見せる。次の仕事がもらえるかどうか、重要な日だからだ。

 約束の時間に伯母さんはやってきた。私も緊張しながらお茶をだす。身内なのに取引先って……なんだか複雑な気分。先輩と篠原さんもこんな気持ちなのかな?

 狩野さんが2種のデザインを見せながら説明し、伯母さんも質問しつつ確認する。


「では……こちらの原稿を持ち帰って、社内で検討致します。後日またご連絡しますね」

「よろしくお願いします。ご連絡お待ちしております」


 そっか……伯母さんの一存で決めるわけじゃなくて、社内で検討するんだ。今日結果がわかるかと思ってたのに、ちょっと残念。


「そうだわ。取引先への紹介の件。先方にお話進めてよろしいかしら?」


 伯母さんの不意打ちに狩野さんも驚いて少しだけ震えた。


「是非お願いします」


 狩野さんが深く頭を下げた。


「パンフレットどちらもとても良くて、甲乙付け難いくらい。お仕事お願いしてよかったわ」


 伯母さんがにっこり笑ってそう言うので、私までにやける。2人の仕事を認めてもらえて嬉しい。


「萌……ちょっと」


 伯母さんに呼ばれて一緒に部屋をでた。2人に内緒の身内話かな?


「今ちょっと仕事が忙しくて時間が取れないのだけど……今度一緒に食事しましょう」

「うん。私も仕事に余裕があれば大丈夫だよ」


 そう言った後、突然伯母さんが私を抱きしめた。


「お、伯母さん? どうしたの」


 伯母さんの声が少し震えてた。


「唯から……連絡が来たの。萌のおかげだわ。ありがとう」


  私もはっと驚いた。お姉ちゃん……伯母さんに連絡してたんだ。私が少しでも伯母さんの役にたったなら嬉しい。


「もしかして……それで取引先紹介してくれるの?」


 伯母さんがゆっくり離れて苦笑した。


「あのね……萌。私だって身内の身びいきだけで紹介なんてしないわ。下手な会社紹介したらうちの会社の信用にも関わるのよ。紹介するのはちゃんと実力があるって思ったからよ」


 自分の甘えた考えに恥ずかしくて俯く。そうだよね……伯母さんにとってもこれは仕事なんだ。


「あの子綺麗になってたわね」


 びくっと身が震える。お姉ちゃんに会ったんだ。私はまだメールしかしてない。でも頭の中の想像は派手なキャバ嬢の姿で、そんなお姉ちゃんを伯母さんは見たんだろうか?


「お姉ちゃんに会ったんだ。どうだった? 派手なメイクとかしてたり……」

「そんな事なかったわよ。上品なOL風な感じで。ネイルだけ凝ってたけど、ネイリストの勉強中で練習なんだって言ってたわね」


 流石にキャバ嬢やってるなんて伯母さんには言わないか。上品なOL風のお姉ちゃんを想像して少し安心した。それは記憶の中のお姉ちゃんにとても似合ってたから。

 その日お姉ちゃんにメールした。伯母さんと会ってくれてありがとうって。すぐにお姉ちゃんからも返事が来た。


『萌にも会いたい』


 今まで何度かメールのやりとりはしてたけど、会いたいって言われたの初めてだ。意地はらずに会った方がいいのかな……と思いつつ、まだ躊躇う気持ちもあって結局返事ができなかった。


 それから伯母さんが紹介してくれた取引先との打ち合わせも進み、10月から新しい仕事が始まる事になった。うちの会社が担当するのは、雑誌の中の10ページ程度で、それほど大きな仕事ではないけれど、ページ単価はいつもの仕事より高いらしい。


「図やグラフが多くなるから、古谷さんに色々頼む事が増えそうだよ」

「私が役に立つなら、頑張ります」

「最初の基本デザインどうします? 狩野さんがしますか?」

「伊勢崎君に任せるよ」


 大事な仕事を任せると言われて先輩も嬉しそう。新しい仕事が決まったお祝いだって、週末飲みに行く事になった。それ程暇じゃなかったから土曜の休日出勤の後なのだけど。

 狩野さんが「今日は肉が食べたい」って言うから、お店は手頃な価格の焼き肉屋さん。狩野さんも上機嫌だな……。よかった。


「8月のお盆はまた忙しくなるかもしれないし、10月は新しい仕事が始まるから、その前も慌ただしい。余裕があるのは7月までかな……」


 お盆もゴールデンウィークみたいな修羅場になるのかな……想像しただけで憂鬱だ。


「今年は古谷さんのおかげで仕事も余裕があるし、7月に夏休みとろうか」

「夏休み? そんな余裕うちにあるんですか?」


 先輩は信じられないという顔で聞き返す。


「まあ……夏休みって言っても、交代で平日1日。土日と組み合わせれば三連休ってくらいだけど」


 三連休で夏休み……って言えるんだろうか……と思ったけど、先輩は「三連休って正月以外にも存在したんだ」なんて呟いてた。飼いならされた社畜にとって、三連休は絶滅危惧種らしい。

 色々相談して、先輩が最初に金曜日に休んで、次の月曜日に私が、その後の金曜日に狩野さんが休む事に決まった。


「せっかくだから久しぶりに実家帰ろうかな……」

「先輩の実家ってどこですか?」

「茨城。ギリギリ通えなくもない距離だけど、通勤が辛いし、終電早いし……だから都内で一人暮らししてる」


 なるほど……。意外に近いな。私は千葉だし親近感がある。千葉と茨城はお隣さんだから、地元話で盛り上がった。


「狩野さんは?」

「滋賀だよ。3日間の休みで帰るにはちょっと遠いね。それより温泉とか行きたいな。日頃の疲れをリフレッシュで」

「温泉良いですね。泊まりは費用的に厳しいけど、私もスーパー銭湯くらい行きたいな」


 夢の三連休の話でわいわいしつつの焼き肉。美味しかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ