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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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冬の虫◆旧商店街

 もし何らかの病気が原因でビッグキャッスルに来られなくなったのだとしたら、下駄さんは今頃どこかに独りぼっちでいるのかもしれない。


 ただでさえ病と闘うのは辛いことだろう。

 それをたった一人で耐えているのであれば、それは下駄さんが言っていた宇宙に一人取り残されたに等しい孤独な状況なのではないか。


 ふとそんな思いが頭を過ぎった。


 一度そんなことを考えてしまうと、そうに違いないという気持ちが夕立のように遠慮なくボクの心を濡らしていく。

 例え宇宙がどれほど広くても、ボクが下駄さんを探し出して『あなたは一人ではない』と伝えなければならない。いや、伝えたい。


 駅に戻る道を歩きながら考える。


 だが、どこをどう探せば良いのか見当もつかずに苛立ちが募るばかりだ。


 駅前に続く商店街に入ると急に人が多くなる。その大半は年寄りで、まるで皆が自分の死に場所を探して彷徨っているように見える。


 この商店街は距離にすると二百メートルはあろうかという一直線に伸びたメインストリートを軸としてヤシの葉のように左右にも道が拡がっている。

 その左右に伸びた細い横道ですらいくつも店が軒を並べていて見る限り人の出入りも激しい。


 病院に向かう時にはまだ開店前で気がつかなかったが、何軒かパチンコ屋もあるようだ。


 となると、下駄さんがこの街のどこかのパチンコ屋にいる可能性はそこそこ高いのではないだろうか。


 病院に来た時に、たまたま入った店の状況が良くてしばらく通ってみようと思ったとして不思議ではない。


 とりあえず目につく一番近くの店に入って店内をぐるりと一周してみる。

 年寄りが多い街なのもあって客の多くが年寄りだ。

 下駄さんがいれば目立つはずで、どうやらこの店にはいないようだ。


 店を出て商店街を歩きパチンコ屋を見つけたら中を見て下駄さんを探す。

 そんな作業を何店舗かで繰り返して、結局、下駄さんは見つからないまま駅前まで戻ってきてしまった。


 まあ、そんなに都合よく見つかるはずもないか。そう思って駅構内へ向かおうとしたが、ふと商店街とは反対側に伸びる一本の道を見つけた。

 この道も呼ぼうと思えば商店街と呼べなくもないのだが、今来た道と比べると人通りは明らかに少なく、見た感じ廃業してシャッターを降ろしている店が多い。


 一言で表すなら旧商店街といったところで、多くの街灯のガラスが割れていたり、店先に飾られているセールの旗も、歴戦の海賊船の海賊旗のように所々破れてしまっている。

 あらゆる場所から終わってしまった空気が滲み出ていると言わざるを得ない。


 道の先を覗き込むと三十メートルほどいったところにパチンコ屋があるのが見える。

 かなり古そうな建物だが、ネオンはついているので営業はしているようだ。


 よし、最後にあの店だけ見てから帰ろう。そう決めて歩を進める。


 建物は遠くから見たよりもずっと古かった。外壁のコンクリートは作り始めて五分ほどしか経っていないジグソーパズルのように穴だらけである。

 入口は今時珍しい手動で開閉するもので、店の中が歪んで見えるほど分厚いガラスで出来ている。


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