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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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冬の虫◆何かの間違い

 ボクが下駄さんと出会って、まだ三ヶ月にも満たない。

 この出会いは運命的な何かを感じるほどボクの人生に影響を及ぼした。


 そんな特別な感情を抱いている相手が僅かな間でボクの前から姿を消してしまい、その理由が重い病気だった(仮定の話だが)と知る。


 そんな非現実的なことがボクの平凡な人生に起こりうるだろうか。

 そんなタイミングよくこのボクの元にこれほどの大事が訪れたりするものだろうか?


 いや、そんなはずはない。これは何かの間違いだろう。


 病院にいたのだって単なる風邪かもしれないし、薬が同じと言っても手にとってまじまじと見ないかぎり、どの薬も似たような形で見分けが付かないはずだ。

 すべてボク達の思い過ごしで、明日になれば何事もなかったかのように戻ってくる可能性も大いにある。


 ゴン太君と目が合ったので、ボクは首を素早く左右に(小さめに)振った。


 ボクの気持ちが伝わったのか、ゴン太君はウンと頷いてから礼を言って富美男とばあさんを店の中に返した。


「どう思いますか?」


 富美男たちを見送ってからボクの方に向き直ると、眉毛を少し下げながらゴン太君は言った。

 その表情はいつもの大人びた感じではなく二十歳そこそこの少年のものだった。


「病気に関しては何とも言えないですけど、とりあえず病院にいたのだけは確かなようなので、明日、ボクがその病院に行ってきます」


「そうですね、じゃあ俺も行きます」


「いや、ゴン太君はパチンコ打っててください。ボクはこれで生活しているわけでもないし、一日二日打たなくても大丈夫なんで、一人で行ってきます」


 本当のところ、病院に行ってあまり良くない事実が待っていたら、それをゴン太君には知ってほしくない気持ちがある。

 彼はボクよりもずっと長く下駄さんと行動を共にしてきたのだからダメージも大きいはずだ。

 ボクの方も心を痛めているゴン太君を気遣う余裕を持てる自信がない。


 どんな事実を前にするにしても、ボクが一人で受け止めるのが一番良い。


 ゴン太君は斜め下の生け垣の辺りをジッと見つめる事でボクの提案を拒絶する意思を示している。


 ゆっくりとした風が時間のページをめくるように吹いた後、ボクは覚悟を決めてもう一度、告げる。


「大丈夫です。明日、ボクがちゃんと探してきます。それに下駄さんがここに顔を出すかもしれないですから、ゴン太君はここにいてください」


 ゴン太君は、目を合わせずに頷くと、森を彷徨う亡霊のような足取りで店の中に戻っていった。

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