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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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ファミレスにて◆カエルの置物

「下駄さんは……」ボクはそう言いかけたところで言葉に詰まった。


 どう聞けば失礼にならないのかがわからない。

 ずっと聞きたかった下駄さん自身がパチンコを仕事としていることをどう考えているのかということ。


 ともすれば下駄さんを見下しているように聞こえてしまう可能性もある。


 いや、そんな風に考えている時点で、ボクは実際にパチプロというものを見下していると思われても仕方がないだろう。

 もちろん、ボクの意識の中にそんなものはないので、無意識の世界での話だ。


「下駄さんは……パチンコを仕事にしていることで不安になることはないですか?」


 結局は中途半端な物言いになってしまったが、下駄さんは表情を変えず、改めて考える素振りもなく答える。


「人間は不安になる生き物だ。パチプロだからって特別不安になるようなことはないな」


 自分で聞いておいて何だが、そういうことが聞きたいのではない。

 でも、下駄さんはボクの問いかけに正しく答えているのだ。


 悪いのはボクだ。

 こんな回りくどく言い回していることは他人行儀でかえって失礼にあたる。


「わかりました、正直に言います。下駄さんと初めて話をした時は何て無礼で意味のわからないことを言う人だろうと思いました」


 下駄さんは口を真一文字に結び、目を丸くしてパチパチと何度も瞬きをしながら聞いている。

 昔、薬局の前に置かれていたカエルの置物に似た感じだ。

 どんな感情がその表情を導き出したのかはわからない。


「でも、接しているうちにこの人は本当に正直に生きている人だと感じました。そんな生き方が出来ることを尊敬もしています」


 真一文字の口が僅かに、ほんの僅かに弧を描く。


「だからこそ、聞いてみたいんです。人は良い仕事をする為に良い高校に入り、良い大学に進学して、良い会社に入る。そうして人の為になる仕事をすることで幸せになるのだとしたら、下駄さんはそれらとはまるで違う人生を歩んでいます」


 一息でそれだけ話したので、少し苦しくなって胸がチクリと痛んだ。

 或いはそれは別の痛みなのかもしれない。


「失礼なことを言っているかもしれないですけど、ボクは下駄さんがパチンコを仕事としている自分の人生をどう考えているのか聞いてみたいんです」


 下駄さんは窓の外を一度見てから、店の天井にある蛍光灯を数秒眺め、サラダのミニトマトをフォークで二、三度突いた後、僅かに残ったコーヒーを口に入れると、いつものようにうがいをすることなくゴクンと飲み込んでから口を開いた。


「人間というのがこの世に生まれたのはいつだか知ってるか?」

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