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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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一万円

 絶好調の中、ご機嫌で確変を消化する支店長の横で、イチとイチの姉は揃って当たりを引けずにいた。


 とは言え、まだ昼を少し過ぎた時間で、それほど大きく負けているわけではないだろう。

 イチもイチの姉もこの程度の投資には慣れたもので、特に落ち込んだ素振りもない。


 しかし、支店長は常連でもなく、イチ姉妹のことなど何も知らない。

 自分がドル箱を積み上げている隣で当たりを引けずにいる姉妹のことが気の毒だと思っているようで頻りに様子をうかがっている。

 イチの目が見えないということに同情の気持ちもあるに違いない。


 確変はその後も続き、そして、事は十二回目の確変を引いた時に起こった。


 確変当たりを確認した支店長は『よしっ』いった感じで一人頷くと、急に男前の顔になり、徐ろに自分の財布を取り出して、そこから一万円札を一枚つまみ出し、イチの姉に

「これ取っといて、二人で使ってよ」と言って渡した。


 見ず知らずの人に突然一万円札を渡されて戸惑わない人はいないだろう。


 イチの姉も慌てて「いえいえ、そんな、貰えません」と言って返そうとするが、支店長は「いやいや、いっぱい出てるから大丈夫、これで遊んでよ」と強引に渡してしまった。


 イチの姉は仕方なく「すいません、ありがとうございます」と頭を下げながら礼を言う。


 支店長は良いことをしたと益々上機嫌になり、カッカカッカと水戸光圀公のような笑いはしばらく止まることはなかった。



 それから数時間が経った。


 ボクは相変わらず支店長の右隣の席で、出たり飲まれたりを繰り返している。

 よく回る台だし、収支は気にすることもないのだが、それとは別に少し前からこの周辺の空気がおかしなことになっていて困っている。


 正直、この場所に居辛い。


 イチの姉はお金を受け取った後、確変を引き当てて十五連チャンした。

 イチもそれを追うように確変を当てて十一連を達成して、二人の後ろには大量のドル箱が積まれている。


 ここまでは良い。支店長も二人が当たった時は自分のことのように喜んでいた。


 しかし、朝から絶好調だった支店長の台は、確変が十三回で終わった後、当たりを引けずに持ち玉を半分にまで減らしていた。


 完全に形勢が逆転したイチ姉妹と支店長の間に微妙な空気が漂い始め、いつしかその空気はボクの席を含む周辺へと拡大している。


 イチ達と支店長の間に会話はなくなってから随分と時が過ぎた。


 気まずい。この一帯の重力が強くなるのを感じる。


 そして、その空気の重さに息苦しさすら感じ始めた矢先、再びイチの姉に確変大当たりが到来した。

 支店長にとってはトドメの一撃と言っても良い。


 周辺の空気はパチンコ台のガラスをビリビリと揺らすほどに圧を増していった。


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