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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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不謹慎な命名

 ビッグキャッスルで共に戦う幾多の戦友の中に、目の不自由なおばさんがいる。


 仲間内でのあだ名は座頭市からとってイチという。

 少々不謹慎な命名だが、あだ名なんてものは大抵はそんなものだろう。


 そのおばさんは盲目でありながら週に三度はやってきてパチンコを打つ。

 いつも姉に手を引かれてやって来ては、長い時間をかけて海物語のシマへと歩き、決まって一番奥の一番端っこの台を打つ。


 椅子に座るとお金を入れて玉を買うところまでは目の見える姉がやる。

 ジャラジャラと上皿に玉が溜まる音を確認すると、イチはゆっくりと右手で(刀を抜くように振り上げ)ハンドルを握る。


 ガラスが自分の吐く息で曇るほどに台に顔を近づけて打つのがイチのスタイルだ。

 右耳を突き出すように顔を少し斜めに傾けて台の音をジッと聞く。


 イチの姉(あだ名はそのままイチの姉だ)も隣に座りパチンコを打つ。

 単なる付き添いではなく、イチの姉もパチンコが大好きなのだ。


 今朝もイチ姉妹はいつものように仲良く並んで海物語を打っている。


 ボクも海物語を専門に打っているのでイチ姉妹と隣り、または向かい合わせになる事が多々ある。

 その折に幾度か会話をすることもあって、友達とまではいかないが知り合いと言える程度の仲にはなっている。


 今日のボクもたまたまイチ姉妹の近くでパチンコを打っている。

 左からイチ、イチの姉、知らないおじさん、ボクという並びで朝から玉を弾く。


 いつもと同じような、平和な時間が過ぎていく中、最初に当たりを引いたのは知らないおじさんだった。


 知らないおじさんは知らないおじさんの見本のような、ごく一般的な特徴のない風貌をしている。

 強いて妄想でキャラ付けをするならば、ベルトコンベアの設置やメンテナンスを生業とする会社の埼玉支店の支店長(とは言え支店の従業員は三人程度だ)で、そこそこ年齢のいった、そこそこ地位のある小金持ちといったところか。

 子供は二人、貧乳な上に貧血の嫁がいる平凡な家庭の主人だ。


 しかし、そんな平凡な人生を送る支店長も、今日は一味違う活躍を見せる。


 最初の当たりで確変を引くと、そのまま一気に連チャンを十まで伸ばしてしまった。


 積み上げたドル箱を背にしてご満悦の支店長は、缶コーヒーを片手にタバコを燻らせてまるで天下人のようにカッカカッカと笑っている。

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