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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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パチンコは常に悪だった

「あの頃のパチンコは小銭があれば結構な時間遊べてな」


 ベンチに寝転がったまま前後に揺れながら下駄さんは言った。


「パチンコ屋は近所の人達が集まる集会場みたいになっててな、地元の年寄り達の安否確認の場所でもあったな、ははは」


「それにしても犬や子供が走り回ってるって凄い光景ですね」


 そもそも下駄さんの言う『あの頃』というのがいつ頃のことなのかわからないが、今のパチンコ屋は赤ん坊はもちろん、子供やペットなどは入店禁止になっている。

 それもあって店に入れない子供や犬などを車の中で待たせて熱中症などにさせてしまう事故のニュースを時々見かける。


「当時はな、若い奴と年寄りが一緒に盛り上がれる話題なんて野球かパチンコくらいなもんでな、みんなの娯楽としてそれなりに愛されてたんだ」


 何に対しての感情なのか、下駄さんは少し悔しそうな表情で言った。



 これまでのボクの人生の中で、パチンコというものは常に悪の存在だった。

 色々な人から聞く噂話で、パチンコの事を良く言う人などいなかったし、親の仇とでも言わんばかりに罵倒するものがほとんどだった。(その割にはせっせと通っている人が大半なのが不思議だったが)


 でも、それもパチンコのことを知った今は少し理解できる気がする。

 パチンコを悪く言うほぼ全員の人が負けるべき台で負け続けている人達だ。

 そんな状況でパチンコを良く言う人間がいるはずはない。


 パチンコは店が勝つようにできている。それはある意味で真実なのだ。


 でも、下駄さんは他の誰とも違った。

 もちろん、勝つべくして勝っている極めて少数の部類に属する人間なのだから、パチンコの事を良く言うのは当たり前とも言える。

 しかし、下駄さんからは、そんな損得だけではないパチンコへの愛情をヒシヒシと感じる。


 その愛情はどこから来たものなんだろうか?


 確かにボクは下駄さんから色々と教わってパチンコの事が好きにはなった。

 正しい努力をすれば、その分の成果が出る。やっていて楽しい気持ちはある。

 それでも下駄さんから感じるような深い感情は残念ながら芽生えていない。



「昔のパチンコ屋はなんだかアットホームで楽しそうな場所だったんですね」


 ボクの言葉に下駄さんは何故か自分が褒められたかのように照れながら


「昔は良かったなんて事を言うようになっちゃ俺も老い先短いってことだ……なっ!」


 と返すと、ベンチからピョンと立ち上がり「がははは」と笑いながら店の中へと戻っていった。

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