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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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トッポジージョ

 男はその容姿から仲間達にトッポジージョと呼ばれていた。


 小柄な上に極端に痩せていて見る者には病弱な印象を与える。

 髪はギリギリ立たないくらいの短髪。白髪の中に少しだけ黒髪が混じっているゴマ塩状態で、髪質は太くて硬く、まるでハリネズミのようである。


 目は極端に垂れていて、その(横から見た滑り台のような)曲線に沿うように何本かの笑い皺がある。パグ犬の鼻の上の皺にも負けないほどの深い深い溝だ。


 鼻も特徴的で西洋人のように高く尖っていて立派である。誰もが憧れるような美しい形の鼻と言って良いのだが、いつ見てもゴキブリの脚くらい太い鼻毛が束になって飛び出している。



 男は新聞配達を仕事としていた。


 ホンダのカブで夕刊を配り終えると一旦家に帰り、洗面道具を持って徒歩で銭湯に出かける。

 家風呂もあるにはあるのだが、大きな湯船のほうが、断然、気持ちが良い。


 十分ほど歩いて風呂屋に着くと靴を脱ぎ、下駄箱にそれをしまってからガラガラと引き戸を引いて中に入る。

 番台でお金を払い、生活というの名の服を脱ぎ捨て、ロッカーにねじ入れる。


 滑らないようにヨチヨチと歩いて浴場に入り、掛け湯をした後、何もかも忘れて熱い湯船に浸かる。


 理不尽なほどの湯の熱さに耐えながらフーッと大きく吐き出した息と共に、一日の疲れがスッと抜けていく気がする。


 男は湯気を全身で感じようと目を閉じる。閉じてしまうとどれが目でどれが目の皺なのかわからない。



 風呂から出るとタオルで体を拭き、大きな扇風機の前に仁王立ちし、涼を楽しむ。

 小柄な体に不釣り合いなほど立派なモノが男の下半身でユラユラと涼やかに揺れる。


 男は日々、何と表現して良いのかわからない銭湯の良い香りがする風を全身に浴びる度、自分の中に真っさらで純白の精気が注入される気がした。


 今日死んでいった細胞のいくつかが生き返っていくような錯覚に陥る。

 いや、もしかしたら本当に生き返っているのかもしれない。


 銭湯を出ると近くの商店街までゆっくりと歩き、角にある店でカキ氷を食べる。

 イチゴのシロップにたっぷりの練乳をかけたカキ氷だ。


 これを食べる為に銭湯でフルーツ牛乳を我慢した。

 火照った体に氷が冷たさが染み渡る。何処からかタコ焼きの旨そうな匂いがする。


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