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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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缶を回しながら

「例えばだ。320分の1の確率のクジで1回目で当たりを引いたとする」



 あぐらをかいた状態から缶コーヒーを右足の裏と左足の裏の間に挟むと器用に前後に足を動かして缶を回しながら下駄さんは言った。(その動きになんの意味があるのかはわからない)



「次が639回転で当たれば合計の大当たり確率は640分の2で確率通りに収束したことになる。でも、現実でそうなるか?」



「なる確率は低そうですね」



「そうだ。まず320分の1を1回転目で引く確率は320分の1だから0.3パーセント程度だ。当たり前だが100回に1回もない。同じ確率のクジで640回転まで当たらない確率は10数パーセントだから10回に1回程度、いずれも頻繁に起きるものではない」



「うん、なるほど、確かにそうですね」



「珍しい現象が珍しい現象で補われるというのはどう考えても確率が低いだろ?クジ自体が過去を記憶していることはないし、収束に向かおうという意思を持つことはない」



 下駄さんはそこまで言い終えると厚手のパーカーのポケットからじゃがりこの容器を引っ張り出してプラスチックの蓋をパカっと開ける。



「確率は結果の集計であって、その結果を見れば確かに早く当たっている時もあれば、なかなか当たらなかった時もあるだろう。320分の1の確率の機種で320分の1までに当たる確率は七割に満たないわけだし、1000回まわしても当たらない確率は3パーセントほどもある」



 320分の1のクジで320回までに当たりが引ける確率が七割に満たないのか。

 いや、それはそうと、じゃがりこにプラスチックの蓋などついていただろうか?


 ボクの記憶だとアルミの柔らかい蓋だけでプラスチックの蓋などなかったと思うんだけど……。



 関係ない話だがどうにも気になってパチンコの話が頭に入ってきそうにない。



「じゃがりこにそんな蓋、ついてましたっけ?」



 思わず聞いてしまった。聞いた後に要らぬことで下駄さんの会話を遮ってしまったことに気付き後悔した。


 じゃがりこの蓋などどうでも良いではないか。



「おあ?これ?これな、専用の蓋が売ってんだ。百円くらいで」



 そう言うとパーカーのポケットからプラスチックの蓋をもう一枚取り出すと、それをボクのシャツの胸ポケットに無造作に入れた。



「やるよ、俺は一杯持ってっから、遠慮しないでいい。パチンコ屋で打ちながら食べてると時々玉が容器の中に飛び込んだりするから、必需品だぞ、蓋は」



 そう言うと下駄さんは嬉しそうにフハハハと笑った。

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