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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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死地にいる状態

「実際は千円21回以上回っても負ける台で打っていたから負けたのにそれを知らなければ確かにこの理論自体が信じられなくなるのもわかる」



 下駄さんはその事実を嘆くように小さくため息をついてチラリとゴン太君に視線を送る。



「でも、その思考になったら最後、その人間は本当に勝ち目がなくなります。俺たちはリュックさんにそうなってほしくないんです」



 下駄さんの視線を受けてゴン太君が引き継ぐように言った。台本があるかのような見事な連携である。



「リュックさんが今日打った台はしっかり技術を駆使して打てば千円23回まわります。出玉は削られているけど、それも技術で最小限に抑えられます。出玉があるうちは最後までしっかりと打ち切れば、日給は最低でも1万円にはなるんです」



 ゴン太君は立ち上がってレーンを流れるサーモンの皿を取ると、ボクの前に三枚重なった空き皿の上に乗せてからボクの目を見てコクンと頷いた。



「でも、今日の打ち方では日給どころか収支は打てば打つほどマイナスになってしまいます。そうなればリュックさんもいつか同じように言い始めることになります。勝てる台で打っていたのに負けた。パチンコは完全確率なんかじゃない、店が操作しているんだ!と言う風に」



 なるほど、全て理解した。ボクは理論的に勝てるパチンコをやっているつもりだったが、実際は店の罠に嵌って死地にいる状態だったのだ。



 ボクは急に怖くなって現実から逃れようとギュッと目を閉じた。



 瞼の奥でボクは池の上にいた。



 陽が落ちた池の上はとても寒くて、あらゆる物が眠りについた後の空気は恐ろしいほどに乾いていた。

 ボクは発砲スチロールの船にうずくまり、永遠とも思える時間の中で絶望し、泣いた。

 頰を伝う温かい涙が膝に落ちる頃には学校の裏山の湧き水のように冷たくなっていた。





「それはとても悲しいことだ」



 下駄さんは本当に悲しそうに言った。



 ボクの乗った船のヘリが岸に当たる音がトンとやわらかく響いた。

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