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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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鯛出汁ラーメン

 

『当たりを引いて得たメダルで引くクジは七十円で買って七十円で換金できる等価交換のクジと同じになる』


 これが換金差を武器に変える理論だった。


 最初の千円で買ったメダルは七十円で換金される条件ではマイナス三百円だ。

 次からの『貰ったメダルで引いた40回のクジ』は最初から七十円の価値で七十円の換金だから等価交換の計算で理論上の収支はプラスマイナスゼロになる。

 よって最初の千円で買ったメダル分の負債三百円を50回に均すと一回引くごとに六円のマイナスになるというわけだ。


「普通のパチンコファンは現金で打って大当たりして何箱かの玉を得るとやめて帰ってしまう傾向にある」


 下駄さんは寿司は二皿ほど食べただけで早々に鯛出汁ラーメンという寿司屋では邪道の部類に入るものに走った。レンゲでスープを二口三口飲み、派手な音を立てて麺を啜る。



「一日に回す総回転数のうち(ズルズル)大当たりで得た玉でデジタルを回した回転数の割合を『持ち玉比率』という(ズルズル)」


 ボクは2皿目となるサーモンを味わいながら頷く。「はい(モグモグ)」


「一般的な客はこの持ち玉比率の平均が50%を超えることはまずない。(ズルズル)つまり大当たりで得た玉でデジタルを回した回数が(ズルズル)現金で買った玉で回した回転数を越えることがないということだ(ズズズー)」


 下駄さんはそう言うと最後にスープを飲み干して満足げに二チャっとした顔で微笑む。


 普通の客は七十円で引いたクジの回数が百円で引いたクジの回数より多くなることはないということだ。

 理論を知ってしまうと確かにそんな打ち方は賢くないとわかる。


「一方でパチプロの平均持ち玉比率が60%を下回ることは絶対にない。回る台なら雨が降ろうが雪に埋もれようが持ち玉がある限り最後まで打ち切るからだ」


 よって同じ店の同じ台を打っていても安い玉で打っている割合が多いパチプロは一般客よりも収支がプラスになるということか。


 ボクはここにきて完全に理解した。確かにこれは武器になる。

 一般の人と同じ台でも、より良い条件で打てる。プロがプロと呼ばれるには理由があるということだ。


「理解しました。出玉があれば全部打ち切るという単純なことが凄い武器になるんですね」


 悪い環境を何も考えずにそのまま受け入れるのではなく、少しの工夫でそれを武器にしてしまう。

 学校では教わらなかった知識がここにはある。


 いや、知識ではない。

 これが『知恵』というものなのだろう。


「普通は大当たりをして玉を得るとそれを守りたくなるんです。換金して少しでも勝ちたいとか取り戻したいと考えてしまうのが人間の心理です」


 ゴン太君がデザートの栗のミルフィーユをフォークで食べながら言った。

 三皿目に栗のミルフィーユに手を出したのだからごん太君は相当な甘党なのだろう。


「パチプロは毎月五万回転はデジタルを回す。今日どれだけ勝とうが負けようが五万回転回した時点での当たり回数は台の確率通りになってる」


 そう言うと下駄さんは天に向かって宣誓をするように右手を高くあげてから言葉を続ける。


「途中の収支なんて意味がないんだ。だから、今日勝ち逃げしようなどという心理はパチプロにはない。ただ一日中打ち続けて一回転でも多く回すことが勝ち組への道だ……なっ!」




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