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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
29/82

主題がよくわからない話

 ゼットポーズにようやく飽きた下駄さんはボクの方に振り返ると


「すべてのものは大なり小なり関わり合って生きてるんだ」


 と、これまでの人生で十二回くらいは聞いたであろう言葉を、貴重な文献を読み上げるようにもったいぶった口調で言った。


 ボクは確認と少しの嫌味のために一字一句違えずに下駄さんの言葉を繰り返してみる。


「すべてのものは大なり小なり関わり合って生きてるんだ」


 声に出して言ってみれば何か新たな発見があるかと思ったが、言ってみた後も言葉通りの意味しか感じられなかった。


「人間もこの世に生まれた瞬間から世界と関わりを持つ。例外なく必ず何かと関わり、影響を与え、与えられる」


 どうやらいつもの『主題がよくわからない話』が始まっていたようだ。


「それは物理的なものだけじゃなく、精神的なことでも同じだ。一人で生まれて誰とも関わらず生きていくことは不可能であり、自分一人で考えたものなどこの世には存在しない」


 回りくどい言い方をしているが奇抜なことをいっているわけではない。

 ボクたちは単独では存在できない。いや、そもそも存在とは誰かの認識があってのものであり、存在するということは単独ではないということだ。


「それは同意しますが、下駄さんは何の話に対して語ってるんでしょうか?」一応聞いてはみたものの答えは期待していない。


「癖になってるんだ。習性だな。俺たちは目の前で起こっていること全ての関連付けを、意識的、或いは無意識にやり続けているんだ」


「関連付け……ですか」


「ああ、例えば朝起きて頭が痛かったとすんだろ?そしたら人間は何故頭が痛いのかを考えるだろ?昨日の夜に酒を飲みすぎたからか、夜遅くまでゲームをしてたからか、頭が痛い理由を考える」


「そうですね、理由が分かれば対処の仕方もわかりますしね」


「だからパチンコを打ってて早く当たったら、それが何故早く当たったのか考えてしまう。何故だろう?あ、そういえば魚群占いで魚群出してから打ったんだった……という風に……なっ!」


 いきなり話が結論まで飛んだので一瞬思考が追いていかれる。

 下駄さんと話をしていていると話が飛びすぎたことにより空間が歪むような感覚に陥る時が多々ある。


 えーと、人間は何にでも関連付けをする習性があるので、魚群占いで魚群が出た後に早い大当たりがきたらそれが偶然であるにも関わらず魚群占いで魚群がきたからだと関連付けしてしまう。

 そういうことでいいだろうか......。

 空間の歪みは治まったが、多少の違和感は後遺症として残っている。


「よし、じゃあ、例えを用いてもう少し具体的に話をしよう」


 下駄さんはそう言うと指をパチンと鳴らしてからお尻を椅子に捻じ込むようにキュッキュと左右に回転させて座り直す。


 ボクも一応(寿司を食べながらではあるが)姿勢を良くして聞く準備は万端だとアピールをする。


 ゴン太さんはいつも通りリラックスした感じで赤だしの味噌汁をゆっくりと啜っている。


 白紙だったボクの地図にまた新たな地形が書き込まれる。多少回りくどくて無駄が多いが、下駄さんの話はボクをそんなワクワクとした気持ちにさせる何かがある。


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