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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
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にっちもさっちもいかない

 富美男が言うには、海物語という機種には『占いゲーム』という機能がついていてパチンコを打っていない時に台のボタンを押すと画面に泡が出たり魚群が出たりして(それが面白いのかは別にして)遊べるようになっているらしい。


「占いで魚群が出た時に打ち始めると早く当たるのよ」


 富美男は自身の強さの秘密をあっさりと教えてくれた。


 パチンコは確率のゲームだ。

 下駄さんにそう教わってパチンコが大好きになった。

 パチンコは運で勝ち負けが決まる丁半博打などではなく、自分の努力次第では攻略可能なゲームだと知って、ボクの心の(冒険と刻印された)鐘は高鳴った。


 が、しかし、ゲームである以上、裏技が存在しても不思議ではないのではないかという気持ちもある。


 下駄さんもボクが打てば九回のクジ箱を自分が打てば十一回のクジ箱に出来ると言った。

パチンコというゲームにはまだまだボクの知らない秘密がたくさんあるのだ。


 現に富美雄は昨日とんでもない連チャンを成し遂げている。


 ボクは打っていた手をハンドルから離して、そのままゆっくりとボタンの上に置いた。

 慎重にそっと、だが迷いなくそれをを押すと、パッと大きな泡が画面に浮かび上がる。


 ボクはその泡を確認しながら、粛々と、そして熱くボタンを押し続ける。


 富美男はボクの押しっぷりを見て満足そうに微笑んでいる。

 口を大きく開けなければ銀歯は一本しか見えていない。


 そのままボタンを押し始めて一分近くが過ぎただろうか?

 ついにボクの台の画面に魚群が浮かび上がる。回数にして二十回ほど押した時だった。

 突然のことだったので思わず続けて押してしまいそうになったが、何とか留まってハンドルを握り急いで玉を打ち始める。


 こんな簡単な作業で大当たりが早くくるのなら毎回やらなければ損というものだ。


 ボクは心躍らせながら富美男と並んでパチンコを打ち続けた。


 最初に当たったのは富美男だった。頭上のカウンターを見ると124回転で当たったのだとわかる。

 海物語の大当たり確率は320分の1なので半分以下の回転数で当たったということになる。


 恐るべし、魚群占い攻略法……。富美男は再び「ファー」と意味不明な言葉を叫んでから満足げに鼻歌を歌いながら大当たりを消化している。


「にっちもさっちもいかない〜♪にっちもさっちもいかない〜♪」


 という聞いたこともない奇妙な歌を歌いながら、時折、梅沢富美男の顔で微笑みかけてくる富美男。


 軽やかな曲調も手伝って、正直、ちょっとイラっとする。


 いや、しかし、富美男は初対面のボクに大事な秘密を教えてくれた恩人だ。歌くらい気持ちよく歌わせてあげなければバチが当たる。


 ボクは心を入れ替えて富美男の鼻歌を受け入れ、曲に合わせて首でリズムを取りながらパチンコを打った。


「にっちもさっちもいかない〜♪にっちもさっちもいかない〜♪」


 どうやらこの歌にその先はないようで延々同じ歌詞とメロディーが繰り返される。


 何小節目のにっちか何度目のさっちかわからないほどそれが歌われたのち、ボクの台についに魚群予告が到来した。


 画面にはハリセンボンとカメが二匹ずつ笑顔で並んでいる。


 ダブルリーチだ。


 水着の女の子が登場して魚たちの進行を促す。ジュゴンが走り去りエンゼルフィッシュが通り過ぎカニが先を急ぐ。昨日までのボクならドキドキして見ているであろうリーチだが、今日のボクは占い攻略法によって『早く当たる状態』なので自信に満ち溢れている。


 外れるはずがない。


 サメは逃げるように去り、タコが楽しそうにスキップで消えていった。

 魚の進行はさらにゆっくりとなり大当たり図柄であるハリセンボンが近づき、ボクは顎が痛くなるほどに奥歯を噛みしめる。


 しかし、ハリセンボンは大当たりの場所に止まることなく進み続け、がっかりしたところにもう一つの大当たり図柄のカメがやってくる。


『早く当たる状態』とはわかっていても、さすがにこの瞬間は血流が早くなり鼓動が激しくなる。

 カメの番号は3なので当たれば確変だ。体温がグッと上がるのがわかるほどボクは興奮していた。


 カメ、止まれ、カメ、カメ、止まれ、カメ、その動きに合わせて必死で祈る。

 が、カメの図柄は大当たりの位置から一つ通り越した場所にあっさりと停止した。


 水着の女の子が「ごめんなさい」と言って立ち去る。


 ハズレだ。


 ボクを襲ったショックは呼吸をすることすら忘れさせるほどのものだった。


 リーチを一部始終見ていた富美男と目が合い、気まずい空気が流れる。


 占い攻略法をやったのにハズレたじゃないか。

 ボクの目がそう抗議していたに違いない。富美男は少しあたふたとしながら苦笑いを浮かべて言った。


「大丈夫よ、すぐにお詫びの魚群がくるから」


 お詫びの魚群?


 新たな(希望に溢れた感じの)キーワードの登場で、ボクはようやく呼吸を再開することが出来た。



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