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銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
20/82

1%の人間

 ファミレスを出て台に戻ったボクはすぐに店員さんを呼んでこの台での遊戯をやめると告げた。


『リュックが打ったら千円九回のくじ箱』下駄さんはこの台のことをそう言いきった。


 続けて打とうなどという気になれるはずがない。


 店員さんはボクの玉を計測器に流しいれて玉数の書いたレシートを渡してくれた。

 この紙を景品カウンターで渡せばその玉数に応じた景品と交換してくれるようだ。


 レシートには玉数4340個と書かれてある。


 景品カウンターに行って女性店員さんにレシートを渡してプラスチックの板のようなものを何枚か貰い、さらにそれを店の駐車場内にある買取り所で渡すと現金が貰えた。


 なかなか回りくどい換金の仕方だが、これが噂に聞いた三店方式というやつなのだろう。

 ニュースなどで何度か見たことがある。


 金額は一万四千円。


 使ったお金は四千円なので、ちょうど一万円の勝ちということになる。

 人生二度目のパチンコで大勝利。

 駐車場に並ぶ車を一台一台洗車して回りたい程に嬉しかった。


 もちろん、これは運なのだろう。今日の台は打てば打つほどに負ける台なのだからたまたま良いほうの結果が出ただけに過ぎない。


 必死で喜びを抑えながら店内に戻ると魚類の台のところへ向かう。


 ファミレスから戻る途中に背の高い若い男が「海物語(ボクが魚類の台と呼んでいたやつはそういう名前の機種らしい)は千円で二十一回まわればプラスマイナスゼロなんですよ」と教えてくれた。


 つまり千円で二十一回以上回ればそれは勝てる台ということだ。


 ずらりと並んだ海物語。この機種だけで全部で五十台近くある。


 99%の人が負けるべき台で負けている。

 つまり大半の台が千円で二十一回以下しか回らない台なのだろう。


 だが逆に言えば1%の人間は勝つべき台で勝っている。


 それを知った今、この場所はココナツの香る南国の宝島そのものでしかない。

 数少ないとはいえ、ボクはこの島のどこかに宝箱が埋められていることを知った。


 台と台の間を抜けて通路に出るとそこには大海原が広がっていた。

 真っ白な砂浜をヨチヨチとヤドカリが横断し、寄せてくる波はペルシャ猫の瞳のように美しく青だ。

 ストレスなど微塵もなさそうなカモメが潮風に乗って気持ちよさそうに飛んでいる。


 宝島はすぐ目の前だ。


 問題は宝の地図を持っていないことだけだったが、そんなことが大した問題と感じないほどにボクはワクワクしていた。


 両の手を空高くあげて大声で叫びたい気分だった。



『帆を上げろ!面舵一杯!面舵一杯!』


 ザーッと波の音が聞こえてきて波しぶきがボクの頬を濡らす。



 ボクの発泡スチロールの船は、長い年月をかけて、今、ようやく宝島へと到着した。


『イカリを下ろせ!ボートを用意しろ、野郎ども上陸だ!』


 ジョンシルバーが大きな声で指示を出す。


 太陽は、驚くほどに大きい。


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