表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の放物線  作者: 加藤あまのすけ
13/82

お笑い芸人と女性アイドル

 まだ外が暗い時間に目が覚めた。携帯の時計を確認すると午前三時となっている。

 昨日は餃子を食べ終えて横になったまま眠ってしまった。

 その時が夕方六時頃だったので、すでに九時間は寝たことになる。眼が覚めるはずだ。


 このまま横になっていても再び眠れる気がしないので起き上がってテレビのスイッチを入れ、トイレに行き真っ直ぐな小便をした。栄養の行き届いたきゅうりみたいに真っ直ぐなやつだ。


 トイレから居間に戻るとテレビ画面に見覚えのあるものが映っていた。

 テレビの液晶画面の中に映る小さな液晶画面の中をタコやカニやフグなんかがフワフワと浮かびながら列になって規則正しく進んでいる。

 魚類の列はいくらか進むと、勢いよく家を出たもののストーブを消し忘れたことを思い出した主婦のように『あっ』と言って一旦停止した後に『いや、最初からストーブ付けてなかったわ』みたいなホッとした顔をしてから再び行進を始める。


 パチンコだ。ボクがつい先日打った魚類のパチンコ台だ。


 別にボクが作り出した台でもなければ、特に思い入れがあるようなものではないのだが、先日打ったばかりというのもあって、少し嬉しくなって自然と前傾姿勢になった。


 番組はお笑い芸人と女性アイドルがパチンコで対決するというもので、リーチがかかる度に女性アイドルがピョンピョンと飛び上がり(何故か彼女は水着でパチンコを打っていた)重力を無視した乳房が四方八方に揺れ踊っている。

 以前ならすぐにチャンネルを変えてしまうような番組だが、今は少しパチンコというものに興味があるのでそのまま観ることにした。


 かつては最も避けていたパチンコに興味が出たのは、もちろん、あの男の影響が大きい。


『これが、現代パチンコだ』


 下駄さんと呼ばれる男は言った。ボクがこれまでの人生で出会ったことのない種類の人間だ。

 あの人は一体何者なのだろう?年齢は三十歳と言われれば三十歳に見えるし、五十歳と言われれば五十歳にも見える。

 平日の昼間からパチンコ屋にいたことを考えればサラリーマンではないのだろう。

 仲間がいるようだったので、あの店の常連なのかもしれない。

 別に会いたいわけでもないが、何となく気になっている。


 番組は終盤に差し掛かっているようで水着の女の子に負けているお笑い芸人がリーチのかかった画面を手で擦ったり叩いたりして大騒ぎしている。


 そんなことをいくらやっても無駄だろう。


「パチンコは確率だよ」


 ボクは下駄さんと呼ばれる男の受け売りを誰に言うでもなく、だが、声に出して言った。

 吐き出された息は餃子の匂いがした。


『人生は確率な』下駄さんと呼ばれる男は言っていた。


 あの時以来、心の何処かに何かが引っかかっていた。何故だかわからないが、あの男に再び会わなければいけないとボクの心が言っている気がした。


『釘に当たった玉は、ある時は右に転がるし、ある時は左に転がる。俺達がそれを選ぶことは出来ない』


 リーチは敢え無くはずれ、お笑い芸人は大袈裟にガックリと膝を落とし、水着の女の子は再び乳房もろとも上下に飛び跳ねて、各々の仕事を全うした。


 世の人々の為に、この社会の人間として。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ