笑顔
テスト週間の1週間はあっという間に過ぎ、ついに1学期の期末テストの日がやって来た。4日にわたってある期末テスト。月曜日と火曜日にテストを行い、水曜日は休日になる。そして、木曜日と金曜日にテストを行って終わりになる。テスト初日である今日は古典と生物だった。
「優愛、今日早いね」
「優愛の下駄箱に靴があったからびっくりしたよ!」
「うん。私にとっては部活ができるかできないかがかかってるから!」
「そうだよ! 優愛は私たち女子バスのエースだもん。次の大会のためにも頑張ってね」
「璃菜、ありがとう!」
「1か月半頑張ってきたんだから、大丈夫だよ」
「咲もありがとう」
2人に励まされた優愛は不安な気持ちが少し和らいだ。
***
テスト2日目。今日は数学Ⅱと世界史だった。
「優愛おはよう」
「おっはよ~」
いつもなら8時に来る咲と璃菜が今日は7時45分に来た。
「おはよう。どうしたの?」
いつもより早く来た2人に優愛は驚いた。
「優愛が頑張ってるから私たちも頑張ろって思ったの。ね、咲」
「うん」
「じゃあ、一緒に頑張ろ!」
クラスのみんなは優愛だけでなく、咲と璃菜も早く学校に来たことに驚き、昨日より少しSHRまでの雰囲気が変わった。
***
今日は本来なら学校は休みだったが、優愛と陽翔は教室にいた。
「休みなのにごめんね」
「まぁ、これが最後になるからな。残りの教科で何が苦手?」
「うーん……。化学と英語かな」
「じゃあ、その2つを主にやってやるよ」
「うん!」
2人は時間を忘れて明日と明後日に向けた特別授業を行った。すると、2人しかいない教室にある音が響き渡った。しかし、2人とも何も言わなかった。
「ちょっと、何か言ってくれなきゃこっちが恥ずかしいんだけど……」
優愛は下を向いていた。
「腹減ったからご飯買ってくる」
そう言うと、陽翔は立ち上がって財布を持って教室を出ようとした。
「あっ! 待って!」
「何?」
「お弁当、作ってきたんだ。陽翔の分も」
優愛は鞄から青色のランチョンマットに包まれた弁当箱を差し出した。
「あ、ありがとう」
陽翔は少し目を逸らして弁当箱を受け取った。
優愛の隣の席で陽翔は黙々と弁当を食べていた。何も言わずひたすら食べていた陽翔を見て、優愛はおいしくなかったのかと心配になった。そのまま陽翔は何も言わずに弁当を食べ終えてしまった。
「ごちそうさま」
陽翔は空になった弁当箱をもとの通りにランチョンマットに包んで優愛に返した。
「うん。えっと……」
優愛は陽翔に味の感想を聞こうとした。
「卵焼き、美味かった」
「あ、よかった」
おいしいと言ってもらえて嬉しかった優愛はついついにやけてしまった。
弁当を食べ終わった2人は特別授業を再開した。学校が閉まる夕方の5時までひたすら残りの教科の勉強をした。
「本当に今日はありがとう」
「あと2日、がんばれよ」
「うん。陽翔にこんなにたくさん教えてもらったから!」
優愛は大きく手を広げながら言った。ちょうど校門を出て分かれ道に差し掛かると、優愛は急に足を止めた。
「私ね、陽翔に勉強を教わるようになってから自信がついたんだ」
陽翔が振り返るとそこにはいつもの天真爛漫な笑顔ではなく、少し大人びた柔らかい笑顔の優愛がいた。
「今までどんなに勉強してもテストでは赤点取っちゃうし、保育士になりたいと思っても私には無理って思われるから誰にも言えなかった。けど、陽翔はそんな私にずっと勉強を教えてくれて、夢も笑わないでいてくれた」
優愛は少しずつ少しずつ陽翔に近づいた。1歩1歩何かを噛みしめるかのように。
「陽翔」
陽翔の目の前で優愛は立ち止った。そして、優愛は顔を上げた。優愛と目が合った瞬間、鼓動の音が少し大きくなった。
「今までありがとう」
一瞬の間だけ周りの音が消えたようだった。陽翔の耳には優愛の声だけがきれいにはっきりと残った。
「れ、礼を言うなら、テスト終わってからだろ」
「……うん。そうだね! 明日のテスト、がんばるから」
「ああ。じゃあ、また明日」
「バイバイ」
手を振る優愛の顔はいつもの天真爛漫の笑顔だった。
***
テスト3日目。今日は数学Bと英語だった。今日もいつもより早めに来た優愛が教室に入ると、そこには璃菜と咲がいた。
「おっはよ~。優愛」
「おはよう」
「えっ! 2人ともすごく早くない?」
「優愛が何時に来ているのか気になったからチョー早く来た」
「7時に学校に着いたんだから」
「嘘! そんなに早く来たの?」
「クラスで1番だったよ」
「先生たちからも驚かれてね」
璃菜と咲は顔を見合わせて笑っていた。
「優愛も来たし、今日のテスト勉強しよっか」
「あと2日がんばるぞー!」
「おー」
テスト3日目で、クラスの全体の士気が高まったのか、璃菜と咲だけでなくみんなが登校する時間が早まった。他のクラスにもそのうわさが拡がり、全体から少し注目を浴びるようになっていた。
***
テスト最終日。最後の教科は化学と現代文だった。最終日ともなると、いつもより早めに学校に来て勉強することは5組にとっては普通になっていた。このことは担任の先生の耳にも入ったようだった。
「なんだか最近はみんなが早めに来て勉強しているということを聞きました。みんなが一生懸命にテストに取り組んでくれてとてもうれしいです。その結果が報われるように、テスト最終日、気を抜かずに頑張ってください!」
担任の先生からも励まされ、みんなは最後のテストに取り組んだ。
テスト終了のチャイムが鳴った。クラス全体が解放感に満ち溢れた。
「優愛ー! やっと終わったね」
「2か月お疲れ様」
「うん! もう、疲れたぁ~」
優愛は机の上にべたっと伏せた。
「でも、今日から久々の部活だよ!」
「1週間空いたからな~。体が鈍ってるかも」
「2人とも予選に勝って大会も近いもんね」
「優愛、早くご飯食べて体育館行こう!」
「うん! シュートの練習しなきゃね」
「私は部活休みだから。じゃあ、また月曜日ね」
「バイバイ、咲」
「バイバーイ」
1学期期末テストもついに終わり、2人はさっそく部活に向かった。今回のテストの結果は、来週の月曜日に発表される。