1週間
「璃菜!」
咲は息を切らせながら叫んだ。璃菜は教室を飛び出した勢いとは正反対で、トボトボと下を向きながら歩いていた。
「咲……」
璃菜は声の方向に振り向いた。咲は璃菜のもとに駆け寄り、抱きしめた。璃菜は泣いていた。
2日後。優愛は璃菜に何と声をかければいいのか悩んでいた。璃菜が陽翔に告白をした次の日は運動会の振り替え休日で、あれ以来会うのは今日が初めてだった。優愛が教室に入った時、璃菜と咲はもう学校に来ていた。
「おはよう……」
結局どんな風に声をかければいいのか分からないまま、曖昧な感じであいさつをした。
「おはよう」
咲はいつものように落ち着いた声で笑顔で挨拶を返した。
「おはよう! 優愛」
そして、璃菜もいつものように元気な明るい声で返してくれた。優愛は少し驚きつつも、変わらない璃菜の姿を見てほっとした。
優愛は心配していたが、いつもと変わらず昨日のテレビの話やファッションなどの話で盛り上がった。しかし、陽翔についても触れられることもなかった。2人が話さないので優愛も聞き出すことができなかった。
「じゃあ、バイバイ」
「うん。また明日ね」
「バイバーイ」
テスト週間に入った優愛たちはしばらく部活が休みだった。だから、咲と璃菜はSHRが終わるとすぐに教室を出て行った。それは周りも同じで塾に行ったり、自習室に行く人、帰宅する人ですぐに教室の中は優愛と陽翔だけになった。
「陽翔……」
陽翔とも話すのは璃菜のこと以来だった優愛はこの状況でどう話を切り出せばいいか分からなかった。
「テストまであと1週間しかないんだから、早くやるぞ」
「うん……」
最初はぎこちなかったが、時間が経つにつれていつも通りになっていった。優愛が問題を解いていると、いつもなら静かに待っている陽翔が今日は口を開いた。
「この前はごめん」
「え?」
「急に怒鳴ったりして」
優愛はまさか陽翔が謝ってくるとは思っていなかったのでなんて返したらいいのか戸惑っていた。
「あ、ううん。……私の方こそ何も知らないくせに陽翔を責めたりしてごめん。あの後に咲が璃菜のところ行ってあげたし、今日も元気そうだったから大丈夫だよ」
「優愛は行かなかったのか?」
「2人で行ったら璃菜も話しづらいかなーみたいな?」
「じゃあ、何も聞いてないんだ」
「うん。だって、わざわざ聞くのもあれかなって思って……」
陽翔は何も言わず小さくうなずきながら何かに納得したようにどこか一点を見つめていた。それからはただシャーペンと紙がこすれあう音だけが響いた。
「出来たよ」
陽翔は優愛の答案用紙を受け取り丸付けを始めた。
「優愛、結構できるようになったな」
「陽翔のおかげだよ」
「じゃあ、今日はここまでだな」
「うん。また明日ね」
「テスト週間なんだから、家帰ってもちゃんとやれよ!」
「最近はずっとしてるし!」
優愛は笑いながら手を振って教室を出て行った。テストまであと1週間。優愛と陽翔の特別授業もあと1週間になった。