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放課後特別授業  作者: sorairo
5/9

告白

 運動会の練習も終盤を迎え、当日を明日に控えた。問題だったペアダンスも放課後の練習のおかげで通して踊れるようになった。今日は応援練習だけでなく、全体の予行練習も行われていた。

「朝永くん、ダンス踊れるようになってたじゃん」

「優愛がそんなに言うから気になって少し見てたんだよ。ね、咲」

「うん」

「陽翔から教えてってお願いされたから、私の勉強の後に練習してたの」

「立場が逆転してたわけね」

「朝永くんからお願いするなんてなんか意外だね!」

「私もびっくりしたけど、あれは練習してもらわないとペアダンスにならないもん」

優愛はいたずらに笑っていた。

「そういえば、咲は大丈夫?」

「え? なんで?」

「だって、匠でしょ。ペアの相手」

「宮原くん、全然踊れるよ。去年は相手が優愛だったから苦手そうに見えただけだったみたい」

「匠、こっそり練習したのかなー?」

3人がダンスの話で盛り上がっていたら、どこかで恋バナが聞こえてきた。

「私、運動会が終わったら朝永くんに告白してみようかな」

「でも、朝永くんって彼女いるんじゃなかった?」

「え!? 誰?」

「あの人だよー。えっと、学年1のおバカの――。高橋さん? って人」

「あれ、付き合ってるの? 私は勉強教えてるだけだって聞いたけど……」

3人は静かにその2人の会話を聞いていた。すると、璃菜が優愛をちらっと見た。

「優愛、朝永くんのことどう思ってる?」

「どうって……。先生? あ、でも今は私の方が先生か!」

優愛は深く考えずに答えをすぐに出した。その答えを聞いた璃菜は少し唇をかんだ。

「優愛は、朝永くんのこと、好き……だったりしないの?」

「え? そんな感情少しも抱いたことないよ」

「その言葉、信じてもいい?」

「うん!」

優愛は璃菜をまっすぐ見て大きくうなずいた。

「じゃあ、私、運動会が終わったら朝永くんに告白しようと思うの。だから、優愛、協力して」

「いいよ! でも、璃菜、いつから陽翔のこと好きだったの?」

「1年生の時から」

「璃菜って1年生の時も朝永くんと同じクラスだったよね」

「うん。でも、好きになったきっかけは部活の時」

「部活? 男子と混ざったことあるっけ?」

「違うよ、優愛。私、知ってたの。朝永くんが部活終わった後に練習してたこと。前に忘れ物をして体育館に戻ったら練習してるところを見たの。その時に、朝永くんが忘れ物を預かってくれてて、『明日教室で渡してもよかったけど、篠井が取りに帰ってくる気がしたから。じゃあ、また明日』って言って、帰って行ったの。私の思い込みでも、私のために体育館に残ってくれたんだって思うと……」

璃菜は恥ずかしくなったのか顔を真っ赤にして下を向いた。

「そんなことあったんだ……。知らなかった」

「朝永くんって優しい一面もあるんだね。優愛とのやり取りを見ているとただのドSにしか見えなかった」

「咲、陽翔のことそんな風に思ってたんだ!?」

咲がさらっと言った一言に優愛は少し驚いた。下を向いていた璃菜はまた顔を上げて再び話し始めた。

「正直、優愛がうらやましかった。私の方が朝永くんのこと知ってるのに、最近になってあっという間に2人は仲良くなって、名前で呼び合うようになって。いろいろな一面をお互いに知ったりできて」

璃菜の目には涙がたまっていた。しかし、すぐに涙を拭いて話を続けた。

「だから、もう待ってるだけじゃだめだなって思ったの」

璃菜には強い決意が見られた。

「私、応援するよ」

咲は璃菜にやさしく微笑んだ。

「私も! 協力する!」

「だから早速なんだけど、明日の放課後、私に時間くれないかな?」


***


 運動会当日。梅雨の季節にもかかわらず、この日は雲一つのない快晴だった。3つに分かれた各分団が白熱した戦いを繰り広げていた。前半は徒競走、三人四脚、ムカデリレーなどの個人競技が主に行われた。

「前半までの途中経過を発表します」

前半の部が終了し、みんなが昼食を食べる準備をしている中、アナウンスがかかった。

「赤組、130点。青組、100点。黄組、110点。ただいま、赤組がリードしています」

「あっ! 私たち1位だよ!」

優愛は話をしている璃菜と咲の肩をたたいて嬉しそうに言った。

「ホントだ!」

「後半は団体競技も多いし、団体競技で1位が取れれば優勝確実だね」

「私的には応援の部でも優勝したいな。あんなに一生懸命練習したし!」


 昼食の時間が終わり、運動会の後半の部が始まった。後半の部は各分団による応援合戦からだった。赤組は1番最後だった。

「最後は赤組です。赤組の皆さんは準備をしてください」

アナウンスがかかり、赤組の士気は一気に上がった。

「赤組行くぞぉーーーーー!!!!!」

「おぉーーーーー!!!!!」

団長の掛け声にこたえるような団員の叫び声とともに一斉にグラウンドに駆け出した。今日のために放課後に練習をしていたペアダンスも優愛と陽翔は完璧にこなした。

「陽翔! 1つも間違えずにできたね!」

「まぁな」

「はい!」

優愛は陽翔の目の前に両手を差し出した。陽翔は目を少しそらして、両手を前に出した。

「いぇーい!」

優愛は陽翔の両手にハイタッチをした。陽翔の手と顔はほんのり赤くなっていた。

「練習に付き合ってくれてありがとな」

「うん。どういたしまして」

優愛はにっこりと笑みを浮かべていた。

「でも、運動会が終わったらテスト週間だからな」

「うぅぅ……。こんな楽しい時に現実を見せないでよ……」

「だから、今日の放課後はさすがに休んでもいいけど」

「あ! ほかのことで用事があるから、運動会が終わったら教室で待っててくれない?」

「ああ。わかった」

陽翔は軽く返事をして次の競技の準備に向かった。


 白熱した運動会も全競技が終了し、ついに結果発表になった。星ヶ丘高校の運動会では競技の部と応援の部の2つの部門があり、その結果によって総合優勝が決まる。

「まず、競技の部を発表します。競技の部第3位、270点、黄組! 第2位、300点、青組! そして、第1位は……310点、赤組です!」

アナウンスを聞いて、各々が喜び、悲しみ、涙を流す人もいた。そんな中、次に応援の部の発表が行われた。

「応援の部、第3位、青組! 第2位、黄組! 第1位……赤組! 競技の部と応援の部の得点を合わせた結果、総合優勝は……赤組!」

「赤組優勝だよ!」

「やったぁ!」

「競技も応援も1位とれて良かった」

優愛と璃菜と咲は3人で抱き合った。赤組の団長の名前が呼ばれて、お互いに喜んでいた人たちは前を向いた。団長が優勝旗を校長から受け取り、赤組の前で優勝旗を天高く掲げた。それと同時に赤組から歓声が沸き起こった。


 ついさっきまで盛り上がっていた運動会も終わり、教室ではSHRが行われていた。SHRでは、先生が運動会の感想と優愛が1番聞きたくなかったことを言った。

「運動会が終わったということはテスト週間に入るということです。中間テストであまりいい結果が出せなかった人はこの期末テストで頑張ってください」

先生と優愛は自然と目が合った。しかし、すぐに優愛が目をそらした。

「ということで、とりあえずは家に帰って今日の疲れを取ってください。本当にお疲れ様でした」

「起立。礼」

号令がかかり挨拶をしてSHRは終わった。

「璃菜、いよいよだね」

「陽翔には教室で待ってるよう伝えてあるから」

「うん。あんまり話したことないから緊張する」

「もう教室には朝永くんしかいないみたい」

「頑張って! 璃菜!」

優愛は璃菜の背中を押した。


 璃菜が教室に入って何分か経った。優愛と咲には話し声は聞こえるものの内容は聞こえなかった。

「優愛、何してんだよ?」

急に話しかけてきたのは匠だった。

「しーっ! 大きな声出さないでよ」

「え? 教室で何かあるの?」

「この鈍感!!! この状況見て普通わかるでしょ!」

「鈍感って言われても忘れ物取りに来ただけだし」

「なんで忘れ物するの! バカ匠!」

優愛に必要以上に責められた匠は呆れ気味にため息をついた。すると咲が匠に小声で事情を説明した。

「あぁ~。なるほどね」

すると匠も小さくうなずいた。その時、教室の扉が開いた。そしてそこから璃菜が勢いよく飛び出してきた。

「璃菜!」

咲が呼び止めたが、璃菜はそのまま走って行ってしまった。そのあとに陽翔がゆっくりと出てきた。

「陽翔、璃菜に何言ったの?」

「別に。付き合ってほしいって言われたから断っただけだけど」

「普通に断っただけであんな風になるの? 朝永くん、よっぽど冷たい人なのね。相手のこと思いやった言い方できなかったの?」

「つーか、俺がどんなふうに言ったか聞いてもないくせに説教すんなよ」

「陽翔、そんな言い方ないだろ!」

「匠には関係ねぇだろ」

そう言うと陽翔は帰って行った。

「優愛、篠井を追いかけなくてもいいのか?」

「咲、璃菜を追いかけよう」

「優愛は先に帰ってて。私1人で行くから」

「え? なんで?」

「2人で行ったら璃菜も責められているみたいで嫌でしょ。それに……」

咲は何かを言いかけたが、優愛に言えなかった。

「優愛は宮原君と一緒に帰ってて」

そう言い残すと咲は璃菜を追いかけに行った。

「私、本当に行かなくていいのかな……」

優愛は悲しそうな顔をして匠に聞いた。

「掛野がきっとなんとかしてくれるよ」

匠は忘れ物を取ってすぐに優愛の元に戻ってきた。

「だから、帰ろう」

「うん」


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