私に勉強を教えてください!
「優愛! 先生からなんて言われたの?」
「璃菜……。どうしよう」
「ちょっと、泣きそうじゃん! なにがあったの!?」
「今回の中間テストの結果が悪すぎて、次の期末テストで赤点取ったら、単位あげられないかもって言われて……。しかも、部活も停止させることになるって……。もう、どうしよう」
「うそ……。そのまえに、優愛そんなに今回のテストやばかったの?」
「5教科中3教科も赤点だし、残り2教科も平均点以上取れなかった」
「それやばいじゃん! しかも、部活まで停止になったらうちのバスケ部もピンチだよ!」
「うん……。だから、頼んでみようかなって……」
「え? なにを?」
「その、勉強を」
「咲に?」
「咲は書道部に塾もあって忙しそうだから申し訳ないかなって」
「じゃあ、誰に?」
「朝永くん」
「朝永くん!? 朝、あんなひどいこと言ってたけど大丈夫なの?」
「それは、今となっては仕方ないといいますか……。でも、このままだと確実に赤点取っちゃうもん、私」
2人の話は途中だったが部活の休憩時間終了のブザーが鳴り響いた。2人は急いでお茶を飲み、練習を再開した。
練習が終わり、璃菜はすぐにさっきの話の続きをした。
「で、朝永くんに頼むの?」
「うん。でも、まだ部活終わってないみたいだし、体育館の外で待ってみる」
「じゃあ、私も付き合うよ。優愛だけだと不安だし」
そして、2人は男子バスケットボール部が終わるのを待った。しばらくすると体育館から続々と男子バスケ部員がでてきた。でも、陽翔は出てこなかった。体育館を覗いて見ると、陽翔は自主練習をしていた。女子バスケ同様、男子バスケも大会の予選が近く、エースである陽翔は部員が帰った後も1人で練習をしていた。
「あの……。朝永くん、ちょっといい?」
「なに?」
「朝のこと覚えてる?」
「あぁ。だからあれ冗談だから、本気にしな――」
「冗談じゃなく、私に勉強を教えてください!」
優愛はその言葉とともに勢いよく頭を下げた。その声は体育館中に響き渡った。
「もしかして、本当に部活動停止食らった?」
陽翔は少し笑いながらバスケットボールをゴールに向かって投げた。そのシュートは吸い込まれるかのようにゴールに入った。
「ちょっと、今私のことバカにしたでしょ? でも、まだ部活動停止じゃないから! 次の期末テストでいい点とったら回避できるもん。だから、期末テストで赤点取らないように、私にもわかりやすく教えて! お願い!」
「ふーん」
それから陽翔は何も言わなかった。
「朝永くん、勉強教えてくれるの?」
しびれを切らしたのか優愛の隣にいた璃菜が陽翔に返事を聞いた。
「今から時間ある?」
「え、ある」
「明日は?」
「明日も、明後日も部活の後は暇だけど……」
「なら、部活終わってからの1時間ならお前のために時間使ってもいいけど」
「ホント! 朝永くんありがとう」
「じゃあ、行くぞ」
「あ、ま、待って!」
「ちょっと、優愛!」
「ごめん! 璃菜、先に帰ってて! バイバイ」
陽翔に必死に追いつくために優愛は小走りでその場を去って行った。
***
陽翔と優愛は5組の教室に着いた。教室にはこの時間は誰もいないため2人で貸し切り状態だった。
「まずさ、高橋さんって得意教科あるの?」
「あるよ! 体育!」
「8教科でだよ」
「あ、あるわけないじゃん。だから困ってるんだから」
陽翔は少しあきれた顔をした。
「で、でも暗記ならまだできるよ! 頭使わなきゃいけないやつが一番苦手」
「勉強って全部頭使うんだけど」
「と、とりあえず、全体的にわかりやすく教えて!」
陽翔から大きなため息が聞こえた。
「あ、あと……。その、ご褒美? とかあると、もっとやる気が出るんだけどなぁ」
「はぁ? ふつう俺がお礼をもらう立場でしょ?」
「じゃ、じゃあ、お礼あげるから、ご褒美ちょうだい!」
「それ、プラマイゼロの状態じゃね? まぁ、高橋さんがいいなら別にいいけど」
「やった! あと、高橋さんじゃなくて優愛でいいよ。同じクラスなんだし。だから、朝永くんも陽翔って呼んでもいい? そっちのほうが教えてもらいやすいし」
「別に俺はいいけど」
「じゃあ、決定! 今日からよろしくね」
今日は授業の復習だけして帰った。明日から本格的に陽翔による授業が始まる。
***
優愛において行かれた璃菜は1人で帰っていた。
「篠井?」
「宮原くん」
「あれ? 今日1人なんだ」
「うん。優愛勉強教えてもらってるから」
「誰に?」
「朝永くん」
「陽翔!? あいつ、そんなことするタイプだっけ?」
「優愛から頼んだの。このままだと、部活動停止になっちゃうかもしれないから」
「優愛そんなに今回やばかったのか」
「本人も予想以上に落ち込んでたよ。宮原くん、幼馴染なんだから優愛に勉強教えてあげればいいのに」
「俺が教えてやるよって言っても拒否るんだよ。授業とテスト以外で勉強したくないってさ」
「優愛らしいね~。でも、そう言えなくなっちゃったからね」
「そっか。じゃあ、俺、塾あるから。気を付けろよ」
「うん。ありがとう。バイバイ」
***
優愛はあくびをしながら通学路を歩いていた。すると後ろから優愛の名前を呼ぶ声がした。
「優愛、寝ながら歩くなよー」
「あ、匠。おはよー」
「篠井から聞いたぞ。今回のテスト相当やばかったんだろ。俺が勉強教えてやるって言ったときに素直に聞いとけば、もっといい状態になったかもしれないのになー」
「匠に教えてもらったらもっとひどくなってたよ」
「俺、平均点取れてるからな?」
「野球と塾でどうせ忙しいくせに」
「本当に教えることになったら、優愛のために時間作って勉強教えてあげるよ」
「でも、もう大丈夫! 私には学年1頭がいい陽翔がいるからね」
匠は優愛が“陽翔”と下の名前で呼んでいることに気が付いたが、あえて聞かなかった。
「陽翔、結構きついところあるけど大丈夫かよ」
「ちょっと怖いけどね……。でも、ご褒美の約束もしてもらったから、ご褒美のために頑張る! 期末テストで驚かせてあげるよ」
「ご褒美なんて約束してるんだ……。でも、優愛がそこまで言うなら期待しとくよ。勉強、がんばれよ」
匠は複雑な気持ちだったが、笑顔で優愛を応援した。