そういうワケでは…。 by守
さんざん直人に飲まされて、真夜中に家に帰ってきた。さすがに奈々は寝ているだろう。
二世帯住宅の二階の玄関ドアをそっと開けると寝室から明かりが漏れている。まだ起きてたのか。
「ただい…、おい!」
俺は言葉を失った。ベッドの上で奈々が気持ちよさそうに寝ている。寝ているだけなら別に言葉を失ったりしない。奈々が下着姿で寝ているからだ。しかも、なぜかバラが散乱している。
「何やってんだよ。風邪ひくぞ。」
抱き起こそうとしたら、うっすらと目を開けた奈々がゴニョゴニョとつぶやいた。
「あげる~。守にあたしをあげる~。」
「はぁ?」
ったく、どんだけ飲んできたんだよ。急いでスウェットを持ってきて着せようとしたらまたゴニョゴニョと言った。
「あげるって言ってるの~。脱がせていいのよ~。」
「何言ってんだよ。早く着ろ!風邪ひくぞ。」
抱きついて抵抗する奈々にスウェットを着せて布団をかけるとスヤスヤと寝息を立て始めた。なんなんだよ。
とにかくこのバラをなんとかしなくてはと片付けている間も奈々は「あげる~。」と時々寝言を言っては寝ている。
今日の友達って、のりって子だったよな。
朝になって、先に起きて一人でコーヒーを淹れて飲んでいると奈々が起きてきた。ベッドのど真ん中で寝ている奈々を動かす気にもなれなくて、ソファで寝たけど、ちゃんと眠れずに早くから目が覚めてしまったんだ。
「おはよー。なんで私って下着の上に直接スウェット着てんの?」
それは俺が聞きたい。そうだ。聞けばいいんだ。寝ぼけ眼でフラフラと椅子に座った奈々に俺は問いかけた。
「なんで下着姿で寝てたんだよ?風邪ひいたらどーすんだよ?」
「え…?」
「覚えてねーのかよ?“あげる~”って言いながら寝てたぞ。花まで散らかして。お前がど真ん中で寝てたから俺は寝られる状態じゃなかったんだぞ。」
奈々は赤くなって下を向いた。
「だって…。」
「だって、何だよ?」
「守が、冷たいって言うから…。」
「それでバラを散らかしたのかよ?」
ときどき意味不明なことをするのはわかっていたけど、何なんだよ。
「冷たいって言うから、守が何をしてほしいのか、わからなくって。」
「だから、それでどうして下着姿なんだよ!」
「だ、大胆なことしてほしいのかと思ったから…。」
うつむいたままの奈々を見て、昨日の朝のことを思い出した。うわー。誤解させちまった。違うんだけど。
「いや、それは、その…。」
思わず口ごもる俺は、きっと今、赤い顔をしているだろう。
「エッチだってしてるのに、あんなこと言われて、コレかなって思って…。」
「う…!そういうワケでは…。」
「じゃあ、何?」
土曜の朝は赤面をつき合わせて始まったのだった。