俺が乙女? by守
「お前、面白すぎ!ガハハハハ…!」
昼休みに同期の小暮直人に今朝の一件を話すと大爆笑された。直人は同期で一番仲が良く、結婚式にも来てもらった奴だ。そして同期一のイイ男でもある。
「何がおかしいんだよ…。」
「お前、白雪姫じゃあるまいし。“お目覚めのキス”って乙女すぎだろ。」
だって。してほしいんだから、仕方ないだろ。
「けっこう長く付き合ってから結婚したんだろ?」
「七年くらいかな。」
「そんなに長く付き合ってたのか?お前、純情だな。」
直人はまだ笑っている。そんなにウケるなよ。俺、真剣なんだぞ。
「なれそめってなんだったっけ?」
「高校の塾で一緒で、…その、俺が一目ぼれした。」
直人が目を丸くする。そこまでは話してなかったんだ。
「一目ぼれって、お前、かなり乙女だな。まあ、可愛い娘だもんな。」
直人はまだ笑いが残る顔で言う。そんなにウケなくてもいいだろ。
「一目ぼれしてから、付き合い出すまでどのくらいかかったんだ?」
「二年くらい。」
「可愛いくらい一途だな。」
「いい加減、怒るぞ。」
「いや、ごめんごめん。今でも本当に好きでたまらないんだな。」
「悪いかよ。」
「うらやましいよ。俺はモテないし、そんなに一人の相手を思い続けたことなんてないんでね。」
嘘つけ。直人がモテてるの知ってんだぞ。俺は何回か橋渡しだの合コンだの頼まれては、直人に逃げられてるじゃねーか。
「お前こそ、最近どうなんだよ?」
「フラれた。結婚に踏み切れない相手とは付き合ってるヒマないって。」
「エ?」
「相手、年上だったからな。俺も彼女との結婚について考えられなかったから仕方ないよ。好きで付き合っていたけど、ご縁がなかったんだろうな。」
直人が寂しそうに微笑った。イイ男だけに、哀愁漂う笑みが絵になる。
「ところで、今日は仕事の後、時間あるのか?俺、今夜は奈々が出かけるから、メシ、一人でさ。」
「お。いいね。行くか?」
久しぶりに直人とゆっくり話したかったからちょうど良かったな。
話がまとまった所で、直人が腕時計を見て立ち上がる。
「お前が先に起きて、そうやって起こしてみれば?…じゃあ、続きは夜な。」
そうか。その手があったか。爆笑されたけど、収穫ありだな。