たくさんの「ありがとう」。 ~最終話~
奈々たちが二次会の会場に着くと時間よりもずっと早いのに8割がたのメンバーが揃っていた。
守の会社関係のメンバーも大勢いたが、奈々とのりの学生時代の友人もたくさん来ていた。
「キャー!久しぶり!」
「なつかしいね~。今何やってんの?」
「え~?奈々、ママになったの?」
などなど、弾んだ声が行き交い、奈々は学生時代の友人たちとの話に花が咲く。そんな中、開始時間を迎えた。
宮迫とのりが入場すると大きな拍手が鳴り響き、それは2人が着席するまで続いた。
そして、幹事の直人は2人の着席を見届けると、マイクを持った。
「はい。本日はお二人ためにお集まりいただきましてありがとうございます。私、幹事の小暮と申します。まずお二人のために乾杯の音頭をとりたいと思います。みなさん、お手元にグラスはありますか?」
全員が笑顔でグラスを高く上げると直人が声を上げた。
「本日はおめでとうございます!お幸せに!乾杯!」
あちこちでグラスが軽く当たる音が響き、それぞれが一口、ドリンクに口をつけた頃、直人が再びマイクを持った。
「さて早速ですが、これから『ありがとうビンゴ』を始めます。これからお配りするビンゴカードでビンゴが出た方は何かに対して『ありがとう』というお話しをしてください。新郎新婦にむけたありがとうじゃなくてもオーケーです。その後、景品をお渡しします。」
ビンゴのガラガラをのりがまわし、数字を読み上げる。そのたびに歓声があがる。繰り返すうちにリーチの声が何人か聞こえた。そしていよいよ一人目のビンゴが。
「ビンゴ~!」
「はい。では『ありがとう』のお話しを聞かせてください。」
「今日は二次会に呼んでくれてありがとう!」
拍手が鳴り響いた。そしてその後、続々とビンゴが出た。
「のり先輩、先日はゴハンご馳走してくれてありがとうございました!」
「社長さん、僕をこの会社に採用してくれてありがと~!!!」
「母ちゃん、毎日メシを作ってくれてありがと~!」
「僕、カーディーラー勤務なんすけど、先日、高級車を買ってくれたお客さんありがと!」
「幹事さ~ん。女子メンバー、かわいい娘を揃えてくれてありがと!誰か僕と帰ろうね~。」
「僕の彼女へ。毎日お弁当を作ってくれてありがとー!」
などなど様々な『ありがとう』と景品が飛び交う。
「あ。ビンゴ!」
奈々が声とともに挙手すると、直人がマイクを持ってやってきた。
「はい!どうぞ。」
「宮迫くん、のり、今日はウチの娘にブライダルメイドを任せてくれてありがとう!」
奈々が言うと拍手とともに驚きの声が上がった。
「鮫島さんのお嬢さんだったんですか?」
「そうだぞ。」
「似てなくて良かったですね。」
「うるせえ!」
披露宴に出ていた守の友人が悪態をつき、まわりが笑いに包まれた。
「さて、そろそろこのゲーム、終了にしたいと思います。そして最後に新郎新婦からそれぞれの『ありがとう』を聞かせていただきたいと思います。」
宮迫がマイクを渡されて立ち上がる。ほろ酔いなのか赤い顔をしている。
「えーっとぉ。鮫島さんご夫妻!僕たちを引き合わせてくれてありがとうございましたぁ。お二人が僕たちのぉ、事実上の仲人さんでぇ~す!」
宮迫の言葉に盛大な拍手が上がる。
「では、奥様もどうぞ。」
「えっと。では私からは皆さんに。今日は皆さま、お集まりいただきまして、ありがとうございました。楽しい家庭を作っていきたいと思います!」
のりの言葉にまた盛大な拍手が上がった。
その後、守が席を離れた隙に独身男子が奈々に声をかけてきたり、それを見た守が戻ってきて相手がコソコソと退散するなどということもあったが、和やかな良い二次会だった。ちなみに声をかけた独身男子は、酔っ払っていたのか、守の奥さんが奈々だということを気付いていなかったらしい。
お開きになり、新郎新婦に見送られて会場を後にする時が来た。守と奈々が通りかかると、のりが奈々の腕を引いて耳打ちをした。
「あのね。本当の『ありがとう』は奈々に言いたかったの。私、健に出会ってから奈々が言っていた“大事”の意味がやっとわかったの。“大事”の意味が奈々のおかげでわかったの。ありがとうね。」
〈完〉