報告あれこれ。by守
翌日の火曜日。少し早めに出社して出張報告をまとめていた。出張明けというのは、どうしてもデスク上の書類やらなにやらたまっているし、電話も多い。始業時刻前の、電話がほとんどかかってこないうちにある程度片付けておかないとパンク状態になるんだ。仕事の鬼である親父の話では、現在は携帯で連絡が取れる分、昔に比べるとまだマシだという。これでマシということは、携帯のない時代の出張明けというのは、想像するだけでパンクしそうだな。ゾッとする。
今回はよい報告ができるので、報告書の作成もサクサクと進み、朝礼の少し後に提出ができた。課長には電話で簡単に報告してあったので、提出したときの課長の笑顔を見ることができた。ヨシヨシ。おっと旅費精算を忘れないようにしないと。よし、コーヒーを飲んでから旅費精算をしよう。
ドリンクコーナーでコーヒーの湯気を眺めていると声をかけられた。
「鮫島さん、ちょっといいですか?」
振り向くと宮迫が自販機の前に立っていた。もしかして、例の話か?
「ああ。どうした?」
「…あの、奈々ちゃん…奥さんから聞いてますか?」
「まあ、少しは。」
宮迫はドリンクを手に、照れくさそうに切り出した。
「奈々ちゃんのお友達の、高畑さんのことなんですけど。…その、この週末も会う約束ができたのは良いんですけど、どこに連れて行ったら良いんでしょうか?実は僕、慣れていなくて。」
本当だったんだ。奈々から聞いたときはイマイチ実感なかったけど、本当に約束を取り付けたのか。
「お前ならどこに行きたい?」
「駄菓子の問屋さんに一緒に行きたいです。僕、お菓子が大好きなんです。」
「お前は小学生か!最初のうちのデートでそれはねーだろ。」
こんなことを言う奴、初めてだぞ。本当に免疫がないんだろうな。
「…変ですか?じゃあ、どこなら大丈夫ですか?」
「映画とか、水族館とか、テーマパークとか。それか行きたいところを聞いて連れていってやれば?聞いてみたか?」
「いえ、まだです。」
俯く宮迫。小学生発言が堪えたのか?照れているのか?
「…あの、駄菓子の問屋さんって無理ですかね?一人じゃ行きづらくって。」
「のりちゃんがお菓子が好きだったら、途中で寄ってもいいんじゃね?」
知らねーぞ。保証しねーぞ。
「わかりました!聞いてみます!」
とたんに明るい表情を見せた。意外に子供みてーな奴だな。どうしても行きたいようだ。まあ、これが敗因にならないといいけど。
「まあ、よくわかんねーけど、頑張れよ。」
「はい!ありがとうございます!」
かくして、“報告”および相談を終えた宮迫はスキップをするかのようにドリンクコーナーから立ち去ったのだった。
少し冷めたコーヒーに視線を移した時、LINEが着信を告げた。
『実は仕事を休んで病院にいるんだけど』
次は奈々からの報告だった。