突拍子もなく。by守
「で?どういうことなんだ?」
リビングのソファに座るが早いか、さっそく奈々に問いかける。
上の空の商談だった割には、なかなかの手ごたえを感じて帰宅した俺。そして運の良いことに直帰の許可が出たから、早めに帰ることができた。
「ただいまくらい言いなさいよ。バッグも持ったままだし。ほら、上着脱いだら?」
夕飯の支度をしていた奈々は少々面食らった様子で、しかし手早く俺からバッグや上着を取り上げる。そしてニヤニヤしている。
「少し一緒に過ごしてみたら、気になるようになっちゃったんですって。」
「それって…。」
惚れっぽいのか?以前は相手にしてなかったじゃねーか。大事な後輩をもてあそぶのだけは勘弁だぞ。
「大丈夫よ。ゆっくり話を聞いたから。私も最初はびっくりしたけどね。」
俺もびっくりだぞ。奈々の友達の中では、彼女は遊び人のイメージが強いからな。
「大丈夫なんだろうな?」
「大丈夫よ!意外かもしれないけど、のりには、宮迫くんみたいなタイプ、合うんじゃないかと思うのよね。だから私は席を外したのよ。」
そう言うと、奈々がテーブルに大皿をドンと置いた。気がつくとジョッキと箸も並んでいる。俺と話しながらも、いつの間にか揚げ物を済ませていた。新婚当初に比べて、ずいぶん手早くなったものだな。
「さ、食べようよ。今日はシンプルなほうのから揚げね。」
「シンプルなほうって?」
「今日の味付けは塩麹だけにしてみたの。なんて、時間がなかったんだけどね。」
奈々はビールやサラダを運びながら笑顔を見せる。奈々の普段のから揚げは、お袋のと同様、生姜がきいている醤油味だ。俺が早く帰ってきたから急がしちまったかな。
「お。うまい。」
「よかったー。」
カリっとしたから揚げとビールは、俺にとって最高の組み合わせだ。出張帰りだからなおのことうれしい。ありがたや、ありがたや。アツアツのカラアゲと、奈々の気遣いが胃にしみわたる。奈々のこういうところ、昔から変わらねーな。
「なあ。お前の友達を信用してねーわけじゃねーんだけどさ。」
「うん。」
「宮迫は大事な後輩なんだからな。」
「もちろん。わかってるわよ。このままくっついちゃったりして?」
―ブホッ!
「おいおい。話が飛びすぎだろ。まだ付き合い出したわけじゃなねーんだろ?」
思わずビールを吹き出した俺を見て奈々が笑う。突拍子もないことを言うところも変わってねーな。
でも、まあ、もし、そうなっても悪くないか。などと俺もほろ酔いの頭で思い始めていた。