お嫁さん。 by守
白無垢姿の奈々が仲人婦人に手を取られ、神殿に姿を現すと、いつもの元気いっぱいな奈々とは思えないほどの変身ぶりに誰もが息を飲んだ。
高校生の頃に初めて塾で見かけたときにドキドキした、あの感覚が蘇る。成人式の振袖も似合っていたけど、今日のこの花嫁姿はまた雰囲気が違う。花嫁姿というのはこんなにも人をドキドキさせるものだっただろうか?子供の頃に親戚の結婚式に出ても何も感じなかった気がする。
「馬子にも衣装。」
そんな中で口の悪い、奈々の兄の一言が神殿に響き渡り、参列者の失笑を買った。
奈々が角かくしの下で、そんな失言以下の言葉に苦笑しながら俺の隣に立つと式が始まった。
指輪交換。三三九度。失笑もすっかり忘れ去られ、つつがなく執り行われた。俺たちは夫婦になった。…ことになるんだよな?実感ないけど、これからは、毎日一緒に居られるんだよな?
披露宴会場に移る前に、俺たちは通路の金屏風前の椅子に座って参列者を見送った。親戚や友人が惜しげなく祝福とフラッシュを浴びせる。
「そろそろお時間です。」
式場スタッフの声に、フラッシュが徐々に減り、披露宴会場に入って行く親戚や友人を見送ると、俺たちも控え室に向かうべく立ち上がる。これから奈々が色打ち掛けに着替えたら、いよいよ披露宴が始まる。
披露宴は奈々の色打ち掛けで始まった。濃いピンクの色打ち掛けの奈々と並んで鏡開きをした。最初、この濃いピンクの生地を見たときはギョッとしたものだが、どうしてもこれがいいと言っただけあって、なかなかサマになっていた。白無垢に比べると、普段の奈々に近い感じだ。そして次は洋装に着替えての再登場だ。俺はグレーのタキシードに、奈々はウエディングドレスに着替えた。俺が選んだ小ぶりのクラウンが華を添えている。奈々のお袋さんは渋っていたけど、ティアラよりもクラウンの方が似合う気がしたんだ。
それにしても、この感覚、なんだろう…?衣装選びの時からの、この感覚。…そうだ思い出した。大学生の頃、奈々が白いロングスカートをはいていたときにドキッとした時の、あの感覚だ。思えば、あの時、すでに結婚を意識していたのかもしれないな。