意味深すぎるぞ。by守
「えぇぇえ〜?」
月曜日。出張先のホテルで朝を迎えた俺は、寝起きにスマホを見て驚かずにはいられなかった。奈々からのLINEが週刊誌の見出し顔負けの一文だったからだ。
『宮迫くんとのり急接近❤︎』
どういうことだ?のりちゃんと会うことは聞いていたが、どうして宮迫?宮迫は確か、のりちゃんに名刺を渡したものの、その後、何もなかったはず。…今日の資料の準備をしなくては。こんなことを気にしている時間はない、が気になる。
『?』
『バッタリ会ったの。来週も会うことになっているみたいよ。』
今日使う資料のチェックもそこそこに短く問いかけると、すぐに返事が返ってきた。
思わず通話ボタンをタップしてしまった。もう聞かずにはいられなかった。
「おはよー。時間いいの?」
俺の短い問いかけで、時間がそんなにないことは察している。さすが奈々だ。
「よくないけど、意味深すぎるぞ。どういうことだよ?」
「土曜日にね、のりとケーキ屋さんに行ったら偶然会ったのよ。そこで二人にしてあげただけよ。フフフ。」
電話の向こうで奈々が笑う。フフフって、おい。どうなっているんだ?偶然会っただけだろ?しかも、のりちゃんは、あのとき相手にしていなかったはずだろ?大丈夫なのか?奈々の友達を疑いたくはないが、遊びじゃねーだろーな。
「もしもーし!守?聞こえないんだけどー。」
奈々の声で我に返る。
「あ。ああ。ごめん。のりちゃんってどんな子だっけ?」
ああ。時間がない。しかし気になる。聞かないことには資料どころじゃない。
「派手に見えるけど真面目なタイプよ。」
「そうか。今夜には帰るから、また聞かせてくれ。時間ねーからごめん。じゃあ。」
奈々の返事を待たずに通話を終了させ、資料を開く。…が、活字が躍っているようだ。目が活字を追うことを拒否している。いや、目だけじゃねーな。俺の脳は、活字よりも“宮迫&のりちゃん”のスクープを追えと言っているに違いない。
のりちゃんて確か、恋人の途切れないタイプだったぞ?真面目?奈々の友達を疑いたくはないが、大丈夫なのか?
し、仕事、仕事!落ちつかねーな。先に着替えるとするか。
鏡の向こうの俺は俺と目が合うこともなく、歯を磨き、ひげをそり、ネクタイをしめ、ドライヤーをかけていた。こんなに気になるのなら、いっそ、あのまま話をきくべきだったのかと後悔している。
ホテルをチェックアウトしてから、せめてもの思いで、移動のタクシーの中で資料を開くも活字は俺の目の前で踊り続けていた。