話題が見つからない俺。byジミー(宮迫健)
思いがけない再会の上に、ご一緒できるなんて、俺は感動していた。名刺をダメ元で渡して、連絡がなかったので、すっかりあきらめていたところだったから。声をかけてみて良かった。
「…あの、ごめんなさいね。失礼ですが…。」
「宮迫…健です。」
高畑さんの問いかけに、ためらいながら名前を言う。実は俺はこの名前があまり好きではない。このお笑い芸人を足して二で割ったような名前から、面白さを期待されるからだ。
「あ。宮迫さんですね。ごめんなさいね。連絡もしなくて。」
「いえ…。」
興味を持たれていなかったことは、名前を覚えていないことからも、連絡がなかったことからもわかっていたさ。今は彼女と向かい合っていられるだけで十分だ。
奈々ちゃんは、静かにしているが、興味津々の目で俺と高畑さんを見ている。
「お、お気に入りは何ですか?」
話題が見つからなくて、とりあえず質問を投げかけてみる。
「そうね。ここなら、このフルーツタルトかしら。レアチーズケーキもおすすめです。」
見ると二人のお皿にはフルーツタルトが乗っている。俺も好きだ。好みが合うかもしれない。
にこやかに返してくれる高畑さんの笑顔は美しい。俺と並ぶには派手めな彼女に、初対面のときからなぜかとても惹かれていたんだ。
「用事を思い出したから、帰るね。宮迫くん、のりをよろしくね。」
いつの間にかフルーツタルトを食べ終えた奈々ちゃんが立ち上がって言った。
「えっ?」
俺も高畑さんも同時に声を上げた。
「主婦は忙しいのよ。帰りは送ってあげて。“よろしく”ね。」
奈々ちゃんは含みのある笑みを浮かべて、さっさと支払いを済ませて店を出て行ってしまった。
テーブルには沈黙が流れている。よくあるパターンだ。俺が話し下手だから、いつもここで失敗するんだよな。よく来ている店が、知らない場所にすら思える。
「さてと…。お時間は何時まで大丈夫なんですか?」
「まあ、特には…。」
二人きりの沈黙を破るように俺の口から出た質問に、高畑さんがモゴモゴと答える。もう少し話したい。奈々ちゃんは気を利かせてくれたのだから。なんとか口実を見つけなくては。
「あの、もう一個、召し上がりませんか?僕のおすすめがあるんです。ごちそうさせてください!」
「はい…。」
俺にしては大胆な言動に自分で驚いている。な、何がおすすめだったっけ?急いでケースに目を走らせる。
「あ、あの、コーヒーはお好きですか?ここのモカムースが美味しいんですよ。」
すっかり緊張して、おすすめすら思い出せない俺は、最初に目が合ったモカムースをおすすめしてみる。一度食べたが、美味かったはずだ。
「あ。はい。」
店員を呼びとめて、追加オーダーを申し出る。
「お飲み物はよろしかったですか?セットにできますが。」
店員の言葉にハッとした。そうだよな。もう一個食べるなら、飲み物も必要だよな。高畑さんに目を向けると彼女は俺に微笑んでからメニューを手にとることもなくコーヒーのおかわりをオーダーする。
「じゃあ、ホットコーヒーをもう一杯。」
「同じもので。」
さて、何を話そう。せっかくのチャンスだ。