正樹。by守
スーパーで買い物を済ませて、いそいそと帰ってきた俺は階下に直行した。リビングに入ったところで声をかけられた。
「兄貴、久しぶり。」
「おう、久しぶりだ、な…。」
「こんにちは。」
返事をしながら声のした方に顔を向けると、目が点になった。正樹の隣に座っている見知らぬ女の子と目が合ったからだ。
「正樹ったら彼女を連れてきたのよ。」
お袋が楽しそうに耳打ちした。5歳違いの弟、大学生の正樹はバイトに遊びにと多忙なので、正樹に会ったことにも驚いたが、こんな客人を連れてくるとは。おまけになかなかの美人ときている。どのくらい美人かって?奈々の次に美人ということにしておこう。
「お義姉さん、大丈夫?」
「ああ。まあな。って、お前、なんだよ、いきなり。」
「兄貴に言われたくないね。高校生の頃にお義姉さん泊めたじゃねーか。」
正樹がニヤニヤして言う。
う…。覚えていたのか。高校生の頃、奈々が兄貴とケンカして、家出してきたときに俺の部屋に泊めたんだ。もっとも、俺は正樹の部屋で寝たわけだから、とがめられることは何もないんだけど。
「ところで…。」
「兵藤優香さん。バイト先で知り合ったんだ。」
「兄の守です。初めまして。」
「初めまして。兵藤です。」
俺が頭を軽く下げると彼女も同じように頭を下げくれた。なかなか感じの良い娘じゃねーか。
「さあさ。早く持って行ってあげなさいな。」
「おう。ありがとな。」
そうこうしているうちに、お袋が深めの皿に山盛りのから揚げを持ってきてくれた。思わず一つつまむ。
「あ。俺も!」
「こらこら。奈々ちゃんの分がなくなっちゃうでしょ。」
お袋が笑いながら正樹を止めた。その隣で彼女がクスクスと笑っている。まだ小さかったと思っていた正樹が、大人に見えたと思ったら、こうしてから揚げを見てはしゃぐのを見て、小さい頃を思い出す。こうして家族って成長していくんだな。
「しょうがねえ奴だな。一個だけだぞ。」
喜んで一個、口に放り込む正樹の笑顔は、俺がスカートめくりを教えた(と思われる)頃と変わらない笑顔だ。
「お前にしちゃ上出来じゃねーか。」
「まあな。」
俺の耳打ちに照れくさそうに笑顔を返した正樹。兄貴としてはちょっとさみしいようなうれしいような。思えば、俺が奈々を初めて連れてきたとき、正樹はなんともいえない表情をしていたっけ。今の俺の気持ちだったのかな。
「また今度、奈々が調子の良いときにゆっくり話そう。あ。お前、たまにはLINEくらいよこせよ。じゃあ、ごゆっくり。」
正樹の彼女と話してみたい気もしたが、から揚げがさめないうちにとにかく帰ろう。
玄関までの階段を上がりながらぼんやり考える。あの正樹に彼女かあ…。